工場を運営するためには売る能力が不可欠という話
2021年12月16日 ファッションテック 0
以前から業界メディアでは何度か取り上げられた山本晴邦さんの佐渡に糸から縫製までの一貫工場を作るというプロジェクトのクラウドファンディングが先日開始された。
応援の意味も込めてご紹介したいと思う。
佐渡ヶ島に綿花栽培から服までの農工商一気通貫の施設を作りたい!(山本 晴邦 2021/12/10 公開) – クラウドファンディング READYFOR
綿花栽培から、紡績、編立て、縫製までの一貫生産工場を生まれ故郷である佐渡ヶ島に作りたいという意欲的なプロジェクトである。
紹介することで幾分かの応援でもしたいという考えだったが、すでに40%強を12月16日時点で達成しておられるので、当方のような者の応援など必要なさそうである。
徒手空拳で独立された個人事業主である山本晴邦さんにとっては、結構な多額の資金を工面してまで、こういうことをやるという決断力・胆力は当方など遠く及ばない。当方だったらこの決断ができたかどうか。
業界メディアやSNSでは概ね好意的に受け取られているようだが、「今、流行りの」エシカル、サステナブル、SDGsの文脈としての受け取り方はちょっと違うのではないかと当方は思っている。
個人的にも何度もお会いした山本さんだけに、もちろん「想い」はお持ちだが、それよりも当方は工業・ビジネスの人だと見ている。
その文脈についてご自身のブログでもまとめておられる。
まあ、なんだかどこぞの活動家みたいなタイトルなのだが、中身はそんなことはない。
一方で、SADOBASE事業を走らせ出してからというもの、方々でお話をさせていただいた上で、懐かしい面々から久々にお声が掛かることも珍しくなくなった。
彼らの中には、僕が『SDGsに詳しい』と思ってらっしゃる方もいらして、ご自身が展開されていこうとする商品群の中で『サスティナブル』な商材を模索されていてその企画立案からご相談されるケースが多い。これは光栄なことだが、完全な誤解だ。
「山本くん、サステナ得意なんでしょ?」
「いや、別に・・・」
「なんで?佐渡でやることってまさにそれじゃないの?」
「いや、そういうわけじゃ・・・」
僕としては、別にSADOBASEに対してSDGsを冠にした施設を目指しているわけではない。これは本当に、そういった需要があれば対応できる施設である可能性はあるにせよ、わざわざ「SDGsやってます!」とアピールするものではない。
まぁ、個人的な心理バランスを取るという意味では、僕を持続可能化してくれることは間違いないけれど、誰がそれを喜ぶのか。むしろ資金繰り的には、今完全にキャッシュを圧迫しているので、直近で持続不可能のにおいすら漂うぜ胃が痛い。
まあ、かなり資金的にはしんどいし、今後の返済計画なんて考えたら夜しか眠れないくらい不安な心理状態ではないかと思う。
もし、自分がそんなン千万円の借金を背負ったらと考えると空恐ろしい。
で、このプロジェクトだが、工場設立までは難しいなりに実現しやすいだろう。
だが、あえて外野の人間から言わせてもらうと、工場設立よりもその後、運営を継続することの方がずっと難しいと言える。
なぜなら、生産物が売れなくては工場の運営が続けられないからだ。
BtoBの場合なら、
・売り先(卸先)をどれだけ持っているか
が重要だし、
BtoCの場合なら、
・消費者に売れる物をどれだけ企画製造できるか
・買いたくなるような売り方ができるか
が重要になる。
そしてそれを工場設立後何年間も、何十年間も続けて行く必要がある。今年だけ売れても、来年以降売れなくては工場の経営は続かない。
そして工場では毎日、糸、生地が作られ続けるわけだから「受注がないから工場はしばらくお休みします」というわけには行かない。従業員もすでにいる。
従業員には毎日仕事を与え続け、毎月給料は払い続けなくてはならない。
もちろん、工場を作るということは大変に難しいことだが、当方から言わせると、その後経営し続けることの方がさらに難易度が高いと思っている。
先日、大手国内洗い加工場の豊和が、秋田のジーンズ縫製工場である秋田ホーセを買収したことをご紹介した。
洗い加工場というのは、洋服や生地に洗い加工を施したり染色加工を施したりする工場でそれ以外の工程は担当しない。しかし、本業の洗い加工や染色加工を安定的に運営しようとすると、その前段階の縫製と連携した方が、安定化しやすい。
縫製工場の買収はそういう意図がある。
だが、これも最終的には、縫って洗った製品の売り先がなければ、本業も縫製工場も安定的に運営することはできない。
何か月か何年間かくらいは金融からの借金で運営できてもいずれは倒産せざるを得なくなる。
工場を持つことのキモは、売り先をどれだけ安定的に確保できるか、というところにある。売れなくても商品・製品は毎日出来上がってしまうわけである。売れなければいずれ毎日積み上げられる在庫に押しつぶされてしまう。
このリスクから逃れるために、これまで自社縫製工場を持っていた国内アパレルの多くは、自社工場を縮小したり手放したりしてきて、今に至るわけである。
そうしたここ30年間の流れに逆行するような工場設立・工場買収という取り組みが成功すれば、業界の製造加工業者にとっては優良な参考事例になるのではないかと思うので、ぜひとも頑張ってほしいと切に願っている。
そんな豊和の主要取引先であるドミンゴのウォッシュジーンズをどうぞ~