
「安いから売れている」という理由を何故か無視しようとする衣料品業界人
2021年12月14日 トレンド 1
「デフレが問題だ、世界では~」
というのがこの半年くらいのウェブ上でのイシキタカイ系と出羽守のホットな主張だが、世界的に見ても大々的な伸び率を示しているのは、「価格メリット」のある新規商品である。
そもそも、以前にこのブログでも書いたように、河合拓氏著の「ブランドで競争する技術」からの引用だが、商品には3種類のメリットがある。
1、価格メリット
2、機能メリット
3、ステイタス性メリット
である。
このどれか1つを満たしていると売れる可能性が高い。2つを満たしていると、広報宣伝活動さえ間違えなければ必ず売れる。
もちろん、どれ1つ取っても一朝一夕に確立できるものではないが、個人的にはとりわけ3の「ステイタス性メリット」の確立は難易度が高くかつ時間と金がかかると見ている。
蛇足だが説明しておくと、価格メリットとは安さ・割安感のあることである。機能メリットは保温や防風、吸水速乾などの機能的な効能である。ステイタス性メリットというのは安くもなく機能性もないが、所有している・着用していることでステイタス性が獲得できるメリットである。
中国発のネット通販ブランド「SHEIN」の短期間での躍進が話題となっており、全世界的にコロナ禍で落ち込んだ衣料品業界の中では数少ない明るいトピックスの一つであることは間違いない。
これに関するメディアの記事はその短サイクル生産やシステムの構築に勝因を求めている。もちろん、それは間違いではないだろう。だが、売れている最大の理由は「圧倒的に安いから」である。
これが日本のファッションビルブランドくらいの値段がするならそれほど売れなかっただろう。
自分が教えている専門学校生もSHEINで買っている。理由は「安いから」である。彼・彼女らはこのブランドがどこの国のブランドかも知らないし、世界全体での売上高がいくらあるのかも知らない。単に「安くてかわいい」から買っている。それだけのことである。
「僕・私はSHEINの短サイクルでの商品企画とそれを支えるシステムがとても好きなので買っています」
なんていうド変態は一人もいない。
値段は大きく違うが、ZARAが巨大化した理由も「安さ」である。百貨店ブランドの半額の値段で最新ファッションを売るということが国や地域に偏りはあるが、世界的に売れた最大の要因である。
トレンドリサーチャーが各国にいるとか、凄まじいシステムを構築しているとか、物流の工夫だとか、そういう仕組みがあったから売れたのではなく、安くてトレンドだから売れた、その安さとトレンドを支えるためにそういう仕組みを段階的に構築していったと考える方が適切だろう。
もちろん、分かっておられる方は分かっておられるが、メディアの報道の在り方やそのメディアを鵜呑みにしている業界人は、安さ・割安感という最大の要因に目をつむって、システムや仕組みの構築に目を奪われがちであるように感じる。
そして、今、自分たちが販売している売れない洋服ブランドの価格を維持するために、SHEINやZARAの仕組み・システムの類似品を導入しようとしている、そういうふうに当方には見える。
しかし、いくら仕組み・システムを真似たところで、商品に安さ・割安感がなければSHEINやZARAと近しい売れ方は絶対にしない。そこを見落としているといえる。
人間は誰しも自分のことを客観視することは難しい。
業界の中でも比較的まともな分析をしていることが多い人でさえ、思い込みを排することは難しく、自分の好きなジャンルやかかわりのあるジャンルには、クリスピークリームドーナツくらい甘い見方しかできなくなる。
市場規模の小さい低価格パターンオーダースーツの中で最大規模にあるのはタンゴヤのグローバルスタイルである。
とはいえ、以前のブログでも書いたように最大の売上高でも90億円台で100億円は突破したことがない。自分はそれが極めて適正な数値だと思っている。
コロナ禍が無かったとしても100億円を突破できたかどうかは怪しいと思っている。それほどにニッチな市場でしかない。
コロナ禍の2年弱によって、さらにスーツのカジュアル化、ビジネス服のカジュアル化が進んだ。アクティブワークスーツやパジャマスーツの「楽さ」を体感した人はいくら低価格であっても従来型スーツには戻れないだろう。
グローバルスタイルのパターンオーダースーツは1着24000円という既製低価格スーツとほぼ同じ値段だから売れていたが、いくら、低価格とはいえ、今後、従来型スーツは低価格オーダーも含めて「勝負服」とか「プレゼン服」「式典服」という性質を強め、デイリーユースはアクティブワークスーツに駆逐されるだろうと見ている。アクティブワークスーツは機能性メリットが極めて高い。
そのグローバルスタイルの第1四半期の決算が出たが、横ばい状態で、これを嘆いていた業界SNS勢では比較的まともな人でさえ
「オーダーコートとオーダーニットでは成長できなかった」
という嘆きを発していたが、逆になぜオーダーコートとオーダーニットなどという商品で成長できると思ったのか不思議でならない。
グローバルスタイルのオーダーコートは49000円~、オーダーニットは12500円~、となっている。
スーツを24000円で買う同ブランドの顧客がこの価格の商品を買うはずがないというのが当方の見方だ。売れなくても当然だろう。
スーツ1着を24000円で買う層は、コートは最大3万円前後、ニット(いわゆるセーター)は5000円くらいが中心で最大で9800円だろう。
身体が大きすぎる&小さすぎるなどの理由で既製ブランドでのサイズ選びに苦労している人ならオーダーするかもしれないが、通常の既製ブランドのスーツを着用できている人なら間違いなくオーダーせずに既製ブランドで買う。
おまけに仕事場では1日中着用し続けるスーツに比べ、通勤時と外出時にしか着ないコートにはスーツほどのフィット感や着用感を求める人は少ない。
セーターは生地自体に伸縮性があるため、そこまでのジャストサイズ感を求める人も少ないし「いやあ、セーターがフィットしなくて悩んでいるんだよ」なんて言う人を当方は見たことがない。
そもそもこの2つのアイテムには、オーダーするメリットがあまりない。
それに加えて、グローバルスタイルはスーツ1着24000円という「価格メリット」がセールスポイントのブランドである。コート49000円、セーター12500円には「価格メリット」がない。価格メリットでスーツを買っていた客が価格メリットのないコート・セーターを買うはずがない。
コートならユニクロの9990円のハイブリッドダウンで十分だろうし、セーターならユニクロのファインメリノセーター2990円で十分だろう。
パターオーダースーツだけでは成長性にも限界はあるからアイテム数を広げたというところで、それはそれで正しい選択だといえるが、価格設定が主力商品とミスマッチだったと当方には映る。
そして、自らのブランドの最大の評価点である「価格メリット」を見失っていたのではないかと思う。
また外野の業界人は意味の分からない期待感と脳内理想だけで、新機軸を何でもかんでも褒めるのはやめるべきだろう。
さらにいうと、業界人は「デフレ脱却」に心を奪われすぎ「価格メリット」という点を無意識的に見落として、素晴らしい物語を流布すれば、高い商品が大量に売れるという幻想を抱きがちになることには注意が必要である。
DXなんかも、デジタルでシステム作れば儲かるようになる!って妄想のような気がします。うちのダメ金属加工工場なんかは、ダメなビジネスモデルを変えるのが先決だろうに、枝葉末節のシステムとかにお金掛けちゃって、先月は900万も営業赤字でしたw
今日は、ホームページをお金かけてリニューアルする話をしていました。ホント、経営者って馬鹿でもなれるんだなぁという感じです。