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南充浩 オフィシャルブログ

異業種からのアパレル参入増加について思ったこと

2021年11月16日 トレンド 0

いろいろと考えさせてもらえる記事が掲載された。

【記者の目】「服を作りたい」非アパレルが急増 多様化するニーズを捉える国内縫製・ニット工場 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

記者コラムなので、もちろん記者個人の主観が強く反映されてはいるが、過度なイデオロギーは表明されておらず、さすがは繊研新聞社であると感じる。

内容的には事実を並べているので、業界の現状の一つはこうであるということがわかる。

 

コロナ禍の厳しい状況にあって、活気づいているアパレル工場がある。稼働を支える一つがDtoC(メーカー直販)を志向する“非アパレル”からの依頼だ。

問い合わせはインスタグラマーやユーチューバーといったインフルエンサーのほか、アパレル専門店経営者、内装業社長、パーソナルジムのオーナー、医者、中学生と様々だが、大半がアパレル未経験者という。現在は10組と企画を進行。

 

この一節が端的だろう。

 

まず、既存の衣料品業界としては、コロナ禍で販売枚数が落ち込んでいるから、必然的に工場への発注量も減る。有名なブランドでさえ1型50枚程度の発注しかないというのは珍しくない。

工場とすれば、何かで穴埋めをしなくてはならないから、非アパレルの新規参入者というのはカモネギ 干天の慈雨(水の呼吸の技名ではない)というわけである。

ただし、相手は非アパレルなだけに、業界の常識が全く通用しないので製造するにしても一段階上の手間暇がかかることはたびたびこのブログでも書いてきた通りである。

それさえクリアできれば、既存ブランドの生産数量の落ち込みを幾分か埋めることができる。

 

この記事でもそうだが、工場と直接やる場合もあれば、OEMの中間業者が取りまとめる場合もある。逆に「D2C」と名乗りながら、OEM請け負いという中間業者なしで成り立っているブランドは知っている範囲ではあまりない。特に非アパレルの新規参入ブランドほど、OEM業者を介在させないと成り立たないのが現状である。

理由は上にも書いたように、非アパレルは業界知識がないド素人が多いので、通訳が介在する必要があるからである。

 

こうした動きに対しての個人的な感想はいくつかある。

1、これだけアパレル不振が伝えられていて何故素人が新規参入したがるのか?

2、アパレル業界は昔から新規参入が盛んだった

3、昔の新規参入とは異なり細分化されたニッチ向けが多い(マス化しそうにないブランドがほとんど)

4、工場側はどこまで入れ込んでるの?

という感じである。

 

まず、1についてだが、業界に毒されまくっている当方には、わざわざ新規でアパレル参入したいという人たちの気持ちがまるでわからない。

例えば、自分用のコスプレだとか、仲間内の制服だとかそういう物を個別で作りたいという気持ちはわかる。(やらないけど)

だが、小なりといえどもブランドとして活動するということは、何百枚かは売れなくては意味がない。いわゆる「衣料品ビジネス」である。インフルエンサーということで、太い客の何百人かへの販売は目途が立っているということだが、果たしてそれは継続性があるのだろうか?

1作目、2作目は買ってくれるとして、10作目、50作目も変わらずに買ってもらえるのだろうか?

もし、自分でやり始めたことを想像すると、2作目くらいまでは何とかなると思うが、10作目・50作目になると自信はない。それだけコンスタントに売れる物を提案し続けるだけのアイデアが出せる気がしない。

歌手でも小説家でも漫画家でもスポーツ選手でもすべてのジャンルにおいて「一発屋」というのがいる。

一発だけ大ヒットを飛ばすが、その後はさっぱり続かない人たちだ。継続的に売れ続ける・結果を出し続けるというのがいかに難しいかである。

インフルエンサーたちの言動をSNSを通じて見ていると、感覚頼りであることが多いため、到底売れ行きが長続きるようには見えない。プロ野球選手でいえば20年間1軍出場し続けて2000本安打を打てるようには見えないということである。彼らは長続きさせたいとも思っていないだろうが、長続きさせるにはロジックと管理が絶対に必要になる。

 

とはいえ、2になるが昔からアパレル業界は新規参入が多く、それが活性化につながっていたという側面もあるので、これらの非アパレルによる新規参入はむしろ歓迎すべき点も多く、むしろ業界にとってはこれまで通りといえるのかもしれない。

 

ただ、3にも関係するが、マス化しそうなブランドは最近の新規参入にはほとんど見られない。その昔だと、キャバクラが新規参入して一大アパレルグループを築いたりしたこともあったが、今の新規参入ブランドはそうなるようには見えない。

アパレル以外の各分野もそうだが、現代社会は高度に細分化されている。

昔みたいにオンワード樫山のデザイナーだった人がアニメデザイナーに簡単に転身したりはできにくい。

例えば記事中にあるこのブランド。

プロスケーターの女性2人組が製作しているのは、ゴルフウェアだ。米カリフォルニアで、サーフィンの後にラフな格好でゴルフを楽しむ「サーフ&ターフ」に慣れ親しんできたため、日本のゴルフウェアに堅苦しさを感じたという。ゴルフ場の服装ルールは守りながらも、気負わず着られるカジュアルなゴルフウェアブランドを立ち上げる予定だ。

このゴルフウェアがマス化するとはどうしても思えない。パーリーゲイツとかビームスゴルフでええやんけ、と大半の人は思うだろう。

蛇足ながら付け加えると、プロスケーターなのに「サーフィンの後のゴルフ」というのもジジイたる当方にはちょっと理解不能だ。スケーターが1ミリも関係していない。

また

内装業の社長とは、ワークウェアとカジュアルウェアの中間的な商品に取り組んでいる。この数年で選択肢が広がった市場だが、自分の趣味嗜好(しこう)、価値観に合った商品をより深く追い求める傾向が強まっているようだ。

も、かなりニッチな売れ方しか想像できない。それこそ自重堂やバートル、ワークマンの既存商品で十分だと感じる人がほとんどだろう。

こうしたかなり細分化されたニッチなブランドが次々に立ち上がるということについては、当方は「パクスユニクロ」のせいではないかと思っている。

正確にいうと、ユニクロ、ジーユー、しまむらの3大ブランドでマスカジュアルはほとんど制覇されているから、マスはそこに任してよりニッチ志向へと新規参入者がなっているのではないかと思う。

ただ、やっぱり規模成長することは考えにくい上に、そんなニッチなジャンルが継続的に長続きするのかというのはどうしても当方には不可能に思える。

 

最後に4だが、OEMも含めた製造加工側はこれらの動きをどう考えているのか、である。

当方が経営者なら、一時的なモノとして請け負い、深入りせずに売れ行きが鈍ったらやめて行くという方針を取る。ただし、売れている間はそれなりに対応するというスタンスだ。

先日、某中間業者から連絡が来たが、実は製造加工関係者の多くは今の細分化されたニッチな新規参入者に対して相当入れ込んでいるという状況なのだという。

昔から、製造加工業者に限らず繊維・アパレル業界は「流行り物に安易に乗っかる」という悪癖がある。ビンテージジーンズブーム、アムラーブーム、神戸エレガンスブームのころまではこの手法が通用したが、2010年以降はこの手法がほとんど通用しなくなっている。

ノームコアブームwwはどうなったよ?(笑)

それにもかかわらず、某業者の周辺では「夢よ再び」とばかりに気勢をあげている製造加工関係者が多いという。

まあ、「業界の懲りない面々」とでも言ったところだろうか。

 

個人的には製造加工関係者には、多大な期待をせずに使えるところまで使うという冷静な対応を望むばかりである。

 

 

一発屋大六という城山三郎の本をどうぞ~

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