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南充浩 オフィシャルブログ

ジーンズへのウォッシュ加工が日本で発祥した理由

2021年11月5日 ジーンズ 0

日本のジーンズの歴史は正確には、終戦後、1950年から米軍の中古ジーンズが入ってきたのが始まりだということは業界では常識となっている。

世界で初めてジーンズを水洗いして販売したのは、日本だということもそこそこには知られてはいるが、あまり人口に膾炙していない気がする。(違っていたらごめん)

 

日本で国産ジーンズが作られるようになったのは1960年代前半で、大石貿易の「キャントン」ブランドが業界内では有名である。この「キャントン」ブランドの縫製を請け負ったのが丸尾被服で後のビッグジョンとなった。(丸尾被服以外にも生産を請け負った工場もある)

ただし、キャントンブランドは短命に終わった。

キャントンというブランド名にデニム生地を提供していた米国のキャントンミルズ社が警告してきたからだ。各文献ではこの事実には言及しているが、その反響や反応などはあまり言及されていない。

しかし、常識的に考えればキャントンミルズ社が怒るのも無理はない。

例えば、中国や韓国のジーンズメーカーが我が国のカイハラやクロキからデニム生地を仕入れていたとして、ジーンズのブランド名を「カイハラ」とか「クロキ」と名乗れば、そりゃカイハラもクロキも激怒するだろう。それと同じである。

キャントンというブランド名はこれで消え、その後、丸尾被服は自社ブランドとしてビッグジョンを発売することになる。

 

我が国のどのブランドが世界初のウォッシュジーンズを発売したのかというと、ウェブ上の記事では諸説ある。

ではどうして、我が国のジーンズメーカーは、ジーンズという商品をウォッシュすることを考えたのか、である。

今回はこれについて考えてみたい。

 

似たような内容は以前にも書いたことがある。

まず、最大の理由として考えられるのは、「日本人が初めて体験したジーンズはアメリカからの中古品だった」ということが大きいだろう。

個人的には古着というのはほとんど買わないが、古着のジーンズというのはたいがいが使い古されて色落ちしている。するとどうなっているのかというと、デニム生地は柔らかくなっている。

 

 

 

 

そのため、日本人にとっては「ジーンズというズボンは厚手で柔らかい生地のズボンだ」という認識になった。

 

その後、アメリカから新品のジーンズが輸入されることとなり、また国産ジーンズも発売されることになったが、それは今でいう「生デニム」のズボンだったということになる。糊の付いた硬いデニム生地でできたジーンズということになる。

柔らかい中古ジーンズと糊の付いたままの硬いジーンズのどちらが「楽(らく)」かというと、圧倒的に中古ジーンズである。原体験としてそれに慣れていた日本人は「じゃあ、洗って糊を落としたジーンズにしよう」ということになったのだろうと考えられる。

 

先日、久しぶりに児島を訪れ、洗い加工場大手の豊和を訪問させてもらったことを書いたが、ついでに久しぶりにビッグジョンにも立ち寄らせてもらった。

ビッグジョンによると「世界で最初に水洗いして糊を落としたジーンズを発売したのは当社だと昔の社員から聞いています」という。

1968年くらいのことだから、当時の社員は経営陣も含めて誰も残っていない。

では、何故水洗いしたジーンズを発売しようと考えたのかというと、ビッグジョンの説明では、

1、中古ジーンズに慣れていたのでそれを目指した

2、未洗いデニム生地の硬いジーンズがあまり売れなかった

という2点にあるとのことだった。

1については先ほどから述べている通りだ。

しかし、2についてはあまり業界内の文献や資料でも言及されているのを見たことがない。

 

冷静に考えてみれば、いくら、柔らかい中古ジーンズに慣れていたと言っても、糊のついた未洗いジーンズが売れていれば「洗った商品」なんていう物を開発する必要はまったくない。

いずれはそういう商品が必要になるかもしれないが、発売早々に矢継ぎ早に開発する必要はない。当面はそれを売っていればいいのだから。

ところがそうではなく、発売開始からそれほど時間を空けずに水洗いジーンズを発売しているということは、売れ行きが鈍かったと考えるのが一番理論的である。

ビッグジョンによると、当時「デニム生地が硬いから売れ行きが鈍いのだろう。だったら水洗いを施して糊を落として生地を柔らかくすれば売れやすいのではないか」と考えたと社内には伝わっているそうである。

あと、付け加えるとするなら、購入後の第1回目の洗濯による縮みとねじれへの対策という部分もあっただろう。

 

今でこそ、デニム生地には防縮加工が普通に施されているが、当時のデニム生地にはそれはなかった。その結果、ジーンズは洗濯をすると縮んでねじれるというのが標準装備だった。

これは消費者からすると不便なことこの上ない。サイズが全く洗濯後には変わってしまうし、どれくらい縮むのかは個体差があったから、想定して買うのも難しい。

しかし、一度洗ってしまえば、その時点で縮んでしまうわけだから、2回目以降の洗濯ではサイズは大きく変化しにくくなる。

今でいう「クレーム防止」の側面もあったと考えるべきだろう。

 

その後、我が国でも世界でもストーンウォッシュ、ブリーチ加工、ケミカルウォッシュと次々と新たな洗い加工技術とカラーバリエーションが開発され、今に至ることになる。

「世界で初めて水洗いしたジーンズを開発した」ということをビッグジョンはもっと喧伝すべきだろう。

 

それにしても、一連の流れを振り返って見ると、ジーンズというズボンにバリエーションの多さをもたらせたのは、「楽さ」(いわゆる快適性・機能性)を実現するために新たな技術開発を試してみるという進取の気質があったといえる。

その後、ジーンズ業界は95年から起きたビンテージジーンズブームによってそろって「保守化」してしまった。数十年前をいかに再現するかということだけに拘泥してしまい、そこに定住してしまった。これが大手専業メーカーの衰退のきっかけだったのではないかと思えてしまう。

その後、圧倒的に斬新だったのはストレッチデニム生地を使ったスキニージーンズだったということになるが、このころになると、大手専業メーカーやジーンズ村と呼ばれる人たちはすっかり守旧化しており「ストレッチデニム生地は邪道。王道は綿100%厚手デニム生地」という思想に凝り固まってしまった。

そして、これは何もジーンズ業界に限らず、今の我が国の大手総合アパレルや百貨店業界でも同様なのではないかと思う。

機能性や快適性、わかりやすさを「見える化」しているのは、ユニクロ、しまむら、後発のワークマンあたりという感じになってしまっており、それがこの15年間での業績の落差につながっている部分もあるのではないかと思うがどうだろうか。

もちろん、今回書いたことが唯一絶対の正解ではないことは承知しているが、考える材料の一つくらいにはならないだろうか?

 

そんなビッグジョンのエプロンをどうぞ~

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