洗い加工場の豊和が新たに「自動シェービングマシン」を開発したので見学してきた話(ただし画像は無い)
2021年11月1日 ジーンズ 1
今回も地味な話である。
先日、児島の洗い加工場、豊和を久しぶりに訪問させてもらった。
児島を訪れたのは6~7年ぶりである。
まあ、街の風景はほとんど変わっていなかった。多分、20年間ほどんど変わっていない。(笑)
今回の工場見学の最大の目玉は、豊和がこの度完成させた「AI搭載の自動シェービングマシン」を見せてもらうためである。
シェービングというのは、洗い加工の中で、こする工程である。例えば、太ももの前面を白く色落ちさせているジーンズがある。その白い部分はこすって色を落としているのである。
あとは、こすってジーンズのヒゲを出す場合もある。(それ以外の手法もある)
このシェービング工程を豊和では長らく、職人の手作業で行ってきたが、その大部分を全自動化したというわけである。
昨年から続くコロナ禍によって、店頭の衣料品売上高は落ち込んでおり、当然その背景となる国内の加工場や縫製工場も経営が厳しいところが多い。
それにもかかわらず、このような大型設備投資をするというところに攻めの姿勢が感じられる。
豊和は、すでに2台のシェービングマシンが稼働。残り3台もまもなく到着し、全5台が稼働するということになる。
AIが搭載されており、24時間稼働できるシェービングマシンは、もちろん完全全自動ではない。加工を施す対象物をセッティングし、完成したらまた取り換えるという作業要員は必要となる。しかし、1人で5台のマシンを管理できるので、作業要員を交代させ、24時間稼働を行う。
今回は豊和の 田代 雄久社長にご案内いただき、いくつかの質問をさせてもらった。
まず、このマシンについてだが、田代社長によると
「当社がアイデアを出して、機械メーカーに部品からオリジナルで組み立ててもらった完全オリジナルの機械です」
という。
完全オリジナルの作業用機械なんて相当に価格は高くなる。恐る恐る、開発費用を尋ねてみると「ン千万円単位がかかりました」とのことで、このコロナ禍にあって凄まじい投資だと驚愕した。
熱心な読者の方には残念ながらこの機械は完全非公開なので、ここに画像や動画を掲載することはできない。
製造加工業者というのは、機械設備を見せたがらない場合が多々ある。
例えば、デニム生地の製造過程においては、ロープ染色という染色が必須なのだが、このロープ染色機は、各社がオリジナルで発注していることが多く、写真撮影はNGとなっている。
こうした動きに対して、当方は「機械の写真なんて見ても、他工場は巨額の設備投資も必要だから簡単に真似できないだろう」と浅はかにも思っていた。
これについて田代社長は
「たしかに他工場が真似をすることは現在の不況ではなかなかないかもしれませんが、他の機械メーカーがコピーして海外向けに安く売りだす可能性があります」
と説明され、当方はそこを考慮していなかったことに気が付かされた。
恐らく、ロープ染色機の撮影禁止も同じ理由なのだ。
で、今回のシェービングマシン開発の動機について尋ねると
1、生産効率の向上
2、生産数量を増やす
3、商品の出来栄えの安定
という3点に集約されると思った。
まず、豊和の現在の手作業でのシェービングでは職人1人あたり、だいたい1日に8本くらいのジーンズの加工ができるそうである。
これをシェービングマシンで行うと、1台あたり1日で20本前後を加工でき、5台だと1日で100本くらいできることになるとのこと。
これで、生産効率と生産数量の両方が向上することになる。
そして、出来栄えの均一化である。職人による手作業の場合、職人同士では確実に出来栄えに差が出てしまう。俗にいう「上手い人」と「下手な人」がいるからである。そして、同じ職人でも1日に完成させる8本がすべて同じ出来栄えではない。
機械だとこの出来不出来をなくして、加工を均一化することができる。
これに対して「面白味がない」と感じる人はいるだろうが、完全ハンドメイドとか完全1点物を謳っていない通常の量産品番で、1本ずつ見た目が異なるということは、望ましいことではない。
国内の小売業者だと「色ブレ」として返品してくるケースも多い。海外はもう少し「色ブレ」基準は緩いかもしれないが、それでもそういう指摘を受けて返品の憂き目に合う可能性はゼロではない。量産品番は出来栄えが均一化されていることが最も望ましい。
世間一般的には、職人の手作業による技ガーという風潮がある。当方も今回見学に当たっては「ど素人が機械を操作するだけになるのではないか」と失礼ながら思っていた。
しかし、工場で見学させていただき、単なる機械操作だけではないということがわかった。
豊和は10年くらい前にレーザー光線加工機を導入している。これとて、手作業ではなく、レーザー光線を当てて脱色加工を行うわけだから、機械操作だけのことだし、誰がやっても変わり映えしないはずだ。また、技術は日進月歩とはいえ、レーザー光線によるジーンズの脱色なんて、月日が流れたところで大きな変化は無いだろうと思っていた。
ところが、豊和では、このレーザー光線加工機もだいぶと出来栄えが進歩しており、それは、24歳のイケメン若手担当社員が3年間いろいろと機械やコンピュータやプログラムをいろいろと工夫してきたからだそうで、なるほど、そういう機械調整やプログラムという部分で職人技が重宝されるということもあるのだとわかった。
そういえば、5年くらい前に見学させてもらった靴下工場のコーマでも、旧型の量産自動編み機を工場長の調整によって、独自の編み上がりに仕上げることができていた。
製造加工業に携わっている人以外、ややもすると、料理人やら宮大工のような「職人の手作業」を連想してしまいがちだが、実際のところ、通常の衣料品の製造加工の工程は多くの部分が機械化されており、あんな手作業なんていう工程はよほどの特殊事例以外はほとんどない。
使用する機械は月日とともに変わっていくから、工場の「職人」の技量は、世間一般が想像しがちな「手作業」ではなく、機械調整やコンピュータのプログラム改良などにあるといえる。
そういえば、島精機のホールガーメント編み機も実は、コンピュータのプログラムの出来不出来が最も肝の部分だと言われているから、そういうことである。
まあ、そんなわけで今回もいろいろと勉強になった次第である。
ストーンウォッシュのエドウインのジーンズをどうぞ~
毎度、自分の業界の話ですが、「金属の切削加工なんて機械のボタン押せば簡単にできるんでしょ。プログラムだって今はCAD/CAMで自動で作れたりするんだし。」と自分が機械を動かす前には思ってましたが、実際にやるとなると、まず素材の固定方法、使用する刃物の種類、加工する順序、刃物の回転速度、移動速度等々、結構な領域が未だに職人の経験と勘と度胸wで成り立ってたりするんですよね。まぁ、その辺を標準化しようとしてる工場もありますが、中々難しかったりします。同じ工場でも職人によってコダワリがあったりして、新人もAさんに教わる時はAさん流、Bさんの時はBさん流、とかいう話もあったりしますw
多分、服飾も相当ノウハウ多いんだと思いますが、弱小工場だと継承されずに散逸しちゃいそうですね。