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南充浩 オフィシャルブログ

商売の基本は「できるだけ安く仕入れて、できるだけ高く売る」ということをわかっていない人が多い

2021年10月29日 商品比較 3

つい先ごろ、SNS上を賑わせていたのが、某革職人がエルメスのバッグを解体して原価を導き出すというYouTube動画だった。

実は同じ職人は以前に、ブログ内でエルメスのバッグを分解して構造を見せるというのをアップしていて、今回はそのリファイン版(分解していないので)だといえるだろう。

今回のYouTube動画では結論として「原価は2万円強」ということになっていたが、以前のブログの内容ではバッグの構造そのものが理解できるし、原価を知れるという点では非常にメリットがあると感じる。

その一方で、SNS上では「原価の計算がおかしい」とか「ブランドの付加価値を否定するのはおかしい」という批判も多数見かけたのだが、動画を最後まで見ると、「製造原料と職人の工賃だけで計算した」「送料などのその他経費は考慮していない」ということに言及しているし、別にエルメスのバッグを否定しているわけではなく、むしろ「エルメスのブランド力がありますから」とも言っているので、この批判はちょっと的外れではないかと感じる。

むしろ、最後まで動画を見たのか疑問だし、もし見たというのなら日本語を理解できているとは思えない。

動画ではなく、記事の文章に対しても、全く意味を取り違える人というのは珍しくないから、動画、音声に対しても同様なのだろう。

 

中には「エルメスはボッタくりだ」とまで非難している人も少なからずいたので、この国民性だから日本からラグジュアリーブランドが生まれないのだろうと思った次第だ。

そもそもブランドビジネスに限らず、商売なんてものは全て「できるだけ安く仕入れて(作って)、できるだけ高く売る」というのがセオリーである。

これとは逆に「安く売る」という手法もあるが、その際必要なのは、「たくさんの量を売る」ということになる。量が見込めないのに安く売れば業者は倒産するだけになる。

もちろん、逆算して、将来的に大量販売することを目的として安値で売るところから始まる場合もある。その場合は、資金調達がセットになっていて、徐々に売る規模を拡大していきながら資金を投入していくというやり方になる。このやり方が軌道に乗れば、恐ろしいほどの拡大スピードとなる上に、商品の品質も圧倒的に向上する。

ダイソー商品品質の向上なんていうのは、その最たる例だろう。

10年前のダイソー商品なんて安かろう悪かろうだったが、今では、ナショナルブランドがOEMを請け負っているのだろうか、ナショナルブランドとほぼ同じ商品が少し意匠を変えただけで並んでいる。

話しが横道にそれたが、工賃+材料費で推定21000円の物を、45万円(送料やその他経費、関税込みと動画内でも言及している)で販売するエルメスというのは、商売の基本、ブランドビジネスの基本を忠実に体現しているといえる。何一つ非難されるいわれなどない。

 

以前にもご紹介した動画だが

 

この中で平川武治氏は「ブランドなんてまやかしだが、そのまやかしこそブランドビジネス」と言っておられるが、その通りだと思う。

ここからは当方の拡大解釈だが、この「まやかし」こそが「付加価値」「ブランド価値」というものだろうと思う。そのブランド価値を極大化したものがラグジュアリーブランドである。

世の中には原価のことばかり言う「原価厨」と呼ばれる人たちがいるが、この考え方に立脚するとすべての商品やサービスは製造原価ギリギリ、仕入れ原価ギリギリで売らざるを得なくなる。

圧倒的に「量」が売れる社会なら原価ギリギリの低価格販売もありだろう。しかし、今の先進国の成熟社会で圧倒的に量が売れる商品やサービスは寡占化されている。ほんの数社が圧倒的な量を握っている。

日本の衣料品市場で言うなら、ユニクロ・しまむら・ジーユーである。あとそこにアダストリアや無印良品などが加わり、上位10社ほどでほぼ寡占化している。

100均ならダイソー、セリア、キャンドゥの上位3社、ワッツも含めた上位4社で1兆円前後の売上高を占めている。

ここに今から参入し勝ち抜くためには、さらなる低価格、さらなる大資本が必要になる。

量が見込めないなら、できるだけ高く売ることを考えねばならない。

 

それに「原価」を言い出したらキリがない。

パソコンだって、自動車だって、航空機だって、建築だって、材料のプラスチックの値段ガー、材料の鉄鋼の値段ガー、というのだろうか?どこぞの野党の議員が以前に「戦闘機の材料の鉄鋼の値段はー」と言い出して失笑を買っていたが、これなどは原価厨の際たる例だろう。

それで行くなら、陶芸家の茶碗の値段、画家の絵の値段、なんて最大のボッタくりだろう。

陶芸家の茶碗の土の原価、窯の燃料の原価から考えれば、巨匠と呼ばれるオッサンの茶碗が100万円で売られているのはボッタくりと言わねばならない。

しかし、現実にそんなことを言えば、呆れられるだけである。

高級料亭・高級レストランもボッタくりになってしまうし、バーで提供する酒の値段もボッタくりになってしまう。

 

日本が本格的にデフレを脱却し、衣料品に限らず全ての分野でブランドビジネスを進展させるためには、原価厨を撲滅し、付加価値を高めることが必要になる。平川氏の言い方を借りるならいかに「まやかし」を作るか、原価厨の言い方ならいかにボッタくるか、である。

 

そんなエルメスの時計をどうぞ~

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 comment
  • BOCONON より: 2021/10/30(土) 5:57 PM

    ぼったくりバーじゃないんだから、基本的には嫌なら買わなきゃいいってだけの話しですね。ルイ・ヴィトンのビニールのバッグでもなんでも。
    とは言え、まったく問題なしとも言い切れない気もします。

    ・客の側の問題ですが「良いものを長く使う」って考え方ははいいとしても、たまに勘違いしている人がいる。「コムデギャルソンのツイードのジャケット買った。高かったけど長く着るからOK」などと。「モード系の服なんて長く着るようにはできてない。1シーズン着たら捨てるもんなんだよ」とも言えず、ちょっと困る。
    ・大谷翔平がイメージキャラクターを務めている某ブランドのスーツのようなもの。「トレンドに左右されないクラシックな…」などと称していて実際割とフツーの服のように見える。これだと「割と高価だけど長く着られるだろ」と思っても無理はないが、実はあまり縫製が良くないというのは一部では知られた事実だったりする。
    ・一時期はやったプラダの黒のリュックも「高い割に品質悪すぎるから買わない」って人もいたな。こういうのも売り買いは双方合意の上とは言え,あんまり良心的なショウバイとは言い難い気がする。

    こんな塩梅だし,流行り物やモードには関心がないので「僕は百貨店で売っている商品としては安い方」という程度以上の服や鞄,靴等はあまり買う気がしないのです。

  • OZ より: 2021/10/31(日) 5:01 AM

    日本人はコスパが好きだからなぁ。
    なんでもコスパ。
    ご紹介のYouTubeチャンネルは面白い。
    最近、興味深く観ています。
    アパレルの原価は約30% 百貨店に置いてあるブランドで20%ちょいくらい。ラグジュアリーのブランドがそれ以下なんてことはみんな知っていると思ってた。
    実際のクオリティ?何をもってクオリティを計るかわからないけど、コスパという観点からいくと納得いかないんだろうな。
    より原価に近い価格になるまでボッタクリだと。
    おすすめはセールで買えってことですね。50%offで買えば原価割合は50%近くになるし70%offになればほぼ原価。
    まぁ、その原価自体も量産する量などのいわゆる作り方によるところが大きいから、まやかしみたいなモノだけどね。

  • 素敵な虚像 より: 2021/11/01(月) 9:32 AM

    ファッション産業は虚業だ。
    でもその虚業には素敵なものもありそうでないものもある。
    素敵な虚像には高い値がつくのである。
    と長らく思っておりました。

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