インフルエンサーブランドはOEM&製造加工業者が思っているほど美味しい商売ではない
2021年10月26日 トレンド 0
昨日、ホットラインでの連絡があったので、相当にいろいろと憂慮すべき業界状況なのではないかと思う。
表題短っ
どうもインフルエンサー系服やりたい案件の金のにおいだけ嗅ぎつけて飛びついては事故ってる事例が巷のOEM業者様間で目につくようになってきた今日このごろ。
— ヤマモト ハルクニ (@HARUKUNI_Y) October 25, 2021
発端はこれである。
状況を蛇足ながら解説すると、昨年から続くコロナ禍によって、実店舗が苦戦したため、売れ筋の一つと見られている「インフルエンサー」という販路に、山本氏の視点ではOEM業者が、当方の視点ではOEM業者&製造加工業者が殺到しているという状況となっている。
業界メディアでは、その成功例ばかりが採りあげられているが、実際のところは上手く行っているのは一部でその他大部分は失敗している。
理由は簡単だ。インフルエンサー側、OEM&製造加工業側、双方に問題があるからである。
まず、インフルエンサー側の問題点は、
1、企画・製造・営業に関してド素人である点
2、本質的にクリエイターではなく、セレクターに過ぎないという点
である。
さらに加えるなら、ファッション系でインフルエンサーと呼ばれるほとんどの人の影響力は非常に限定的でマス層には全く知名度がないため、マスに売れるブランド・商品ではない。ということもある。
一方、OEM&製造加工業側の問題は
1、インフルエンサーというものの性質をあまり理解していない
2、インフルエンサーが基本的にド素人だということを理解していない
という2点に尽きるのではないかと思う。
今年51歳になった当方は90年代前半の入社組である。今年40歳の人はだいたい90年代末期から2000年代前半に入社した年代である。
この辺りは、まだ「ブーム」でマスに洋服が売れた時代だし、それにつれて製造加工業が売上高を稼げた時代でもあった。(この当時まだOEM業者はほとんど存在していない)
このブログでもたびたび書いているように、当方より年長のアパレル業者からすると暗黒の時代と取られているバブル崩壊以降も実際のところは、短期間に様々なファッションブームがマスに起き、販売も活況だった。
百貨店のレディース売り場の売上高のピークはバブル期ではなく、97年である。
レーヨンジーンズブーム、ビンテージジーンズブーム、ローライズジーンズブーム、アムラー、コギャルブーム、裏原宿ブーム、神戸エレガンスブーム、プレミアムジーンズブーム、などなど
という具合に、2015年以降からすると、考えられないくらいに短期間にマスを巻き込んだファッションブームが次々と起きた。
そして、OEM&製造加工業者も、アパレル企業も小売りチェーン店も今の首脳陣はこの40代~50代なのである。「三つ子の魂百まで」という言葉にあるように、若い頃に染みついたモノは抜けない。それはもっと上の世代もそうだし、今の若い世代でも同じだ。今の若い世代も中高年になったときに、若い頃に体験した感覚に支配されることになる。
そうなると、今の経営者層は、あのときのようなブームを求めて苦境を打破しようとする。
だから、今のインフルエンサーブーム?に限らず、2018年くらいまではZOZOブーム、ネット通販ブームがあったし、近年のクラウドファンディングブームもある。その前だとライフスタイル提案型ブームとか、読モブームなんていうのも業界内にはあった。どれもこれも往年の「ブーム」の足元にも及ばなかったが。
そして、今のインフルエンサーは往年の読モよりもマスに知られていないと感じるし、彼ら以上にド素人が多いとも感じる。そして業界寿命は往年の読モよりもインフルエンサーは格段に短い。例えて言うなら、蝉の成虫か蚕蛾の成虫くらいである。
現在の40代~50代の首脳陣の「三つ子の魂」は「流行り物に乗っかったらめっちゃ売れる」ということが深く刻み付けられており、「流行り物」に全力で乗っかろうとするわけである。
山本氏は自身のブログの中では、安易に乗っかろうとするOEM業者の姿勢を批判されているが、それはインフルエンサーを褒めているわけではない。インフルエンサー側も学ばねばならないという思いがあると当方は勝手に解釈している。
どこかが売れていると聞けばそこへ全力で営業をかけ、すでに完成しつつあるサプライチェーンに対して『安い早い』でひっくり返してはその結果『安かろう悪かろう』で返り討ちにあっていた中間業者の死屍累々を目にしてきたにもかかわらず、今でもそのやり方は健在。
MADE IN JAPAN、J∞QUALITY、オーガニックコットン、クラウドファンディング、例をあげればキリがない。最近の流行りはSDGsとインフルエンサー、そんなところだろうか。
付加価値ときいてハリボテの表層だけ掬い上げ、うんちくとものづくりの素晴らしさを語り「ウチはこんなことできまんねん」と風呂敷をひろげる。
まあ、何社かのOEM業者の商談に立ち会ってきた当方の経験と照らし合わせてもこの描写は正しい。
本気で彼らの思いを形にしたいなら、まず自分たちがしっかりとした製造の知識をもった方がいい。しっかりとした知識や製造背景は財産だ。それがあればどんな曖昧な案件に対しても対応する自信が付くし、まず何より、無駄な時間とサンプルを積み上げてしまうことを避けられる。
物理的にそして人間的に難しい相手なら、諦めさせるのも仕事だ。
そしてこうも書かれている。インフルエンサー側に「諦めさせるのも仕事」である。
以前、何かの事業でそれなりのお金を稼いだという若者(ナインオクロックの香取社長のことではない)に洋服ブランドを立ち上げたいと相談されたことがあったが、業界構造を知らない上に洋服の販売についても知識が無かったので、彼の志向とこちらの説明は全く嚙み合わずに終わった。
それなりにオシャレな彼だったから、やり方次第ではファッションインフルエンサーの仲間に入ることはできたのではないかと思うが、そんな人たちをOEM業者や製造加工業者が上手くコントロールすることは業者側によほどの手腕が無ければ不可能であることを身を持って体験した。
OEM&製造加工業者がインフルエンサーブランドに挑戦したいのなら、ド素人と根気よく付き合った上でスモールビジネスにしかならないと覚悟を持った方が良いだろう。