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南充浩 オフィシャルブログ

「ラグジュアリーブランドと同じ生地を使っている」ことをアピールするブランドに感じる違和感

2021年10月25日 デザイナー 3

最近、業界メディアでよく見かけるのが「ラグジュアリーブランドと同じ生地を使った新ブランドです」みたいな打ち出しである。

まあ、気持ちはわからないではないし何となく凄そうな気はするが、冷静になってよく考えてみると、実はあまり関係ないということがよくわかる。

たしかにラグジュアリーブランドと同じ生地というと、確かに生地の品質は高そうな気がする。しかし、それ以上でもそれ以下でもない。

お分かりだろうか?

 

なぜなら、同じ生地を使っていても、そのラグジュアリーブランドとは商品のデザインも違うし、販売する価格帯も異なる。また顧客層も異なるだろうし、生産数量も異なる。

となると、それは生地だけが同じで全く別の商品ということになる。

担保されているのは生地の品質?付加価値?だけでしかない。

「三ツ星のあの店と同じ食材を使っています」と謳う料亭やレストランがあったとして、同じ料理で同じ味でない限り、それは何の評価対象にもならないし、客もそれを「なるほど」と認めることはない。

それと同じである。

 

もう10年くらい前になるが、某デニム生地業者からこんな話を聞いた。何度かこのブログに書いている。

 

「大手総合アパレルの部長がユニクロでバカ売れしたアレと同じ生地を売ってください」と言って飛び込んできたことがある。

 

とのことだった。

「ラグジュアリーブランドと同じ生地を使っています」というのはこの大手総合アパレルの部長と全く同じ発想であることがお分かりになるだろうか。

異なるのは対象がラグジュアリーブランドかユニクロかの違いだけである。

例え、ユニクロでバカ売れしたアレと同じ生地を使って、この大手総合アパレルが同じ製品を作っても同じ数量は絶対に売れない。

理由は同じだ。

商品のデザインが違う、販売価格が違う、販路が違う、顧客層が違う

からである。

同じ生地を使っていようが消費者から見れば全く別の商品でしかない。

もっと極端に例えようか。

ユニクロと同じデニム生地を使ってGジャンを作ったとする。ユニクロはその生地でジーンズを作って販売して大ヒットしたとする。

さて、この場合、大手総合アパレルが「ユニクロのジーンズと同じ生地で作ったジージャンです」とアピールしたとして(大手総合アパレルは無駄にプライドだけは高いから絶対にそんなことはしないだろうが)、ユニクロと同じ数量が売れるだろうか?

絶対に売れないだろう。

そもそもジーンズとジージャンでは同じデニム生地製品でも用途が異なる。ジーンズが欲しかったけどジージャンを買ってしまったなんて人はほとんどいない。

なぜ、こんな簡単なことがわからないのかがわからない。

おまけにユニクロと大手総合アパレルでは販売価格が全く異なる。ユニクロならジーンズが3990円だが、大手総合アパレルだと少なくとも10000円弱はするだろう。

ユニクロの3990円を購入している人が、同じ生地を使っているからといって、大手総合アパレルで10000円弱の商品を買うだろうか?ほとんど買わないだろう。

 

ラグジュアリーブランドと同じ生地ガーは、これと全く同じことをやっているということに気が付いていない。

ラグジュアリーブランドは何十万円という価格で販売しても買ってくれる富裕層が多いが、見たこともないようなポッと出のブランドが「同じ生地を使っています」と言ってもそんな得体の知れない新ブランドの商品に何万円も支払う人はよほどの物好きかカネが有り余っている人か、そのブランドの関係者(親、兄弟、親戚含む)くらいだろう。

 

そして、これはラグジュアリーブランドと同じ生地ガーのみなさんはご存知ないのかもしれないが、ラグジュアリーブランドは生地工場の定番生地を買っていることもある。

その場合、ラグジュアリーブランドと同じ生地を使っているブランドは国内にも掃いて捨てるほどあるということになり、何のブランド力の担保にもならない。

デニム生地でいうなら、エドウインやライトオンのバックナンバーも同じ生地を使っている可能性があるということになる。

 

それにしても面白いのは、ラグジュアリーブランドと同じ生地やユニクロと同じ生地をありがたがる一方で、業界ではODMへの丸投げによる他ブランドとの生地の被りは物凄く嫌がることである。

ハッキリ言って、これは同じ現象なのに反応がまるっきり異なるだけのことである。

最近では減ったが、2015年頃までは、ODMへの丸投げブランド同士で同じ生地が使われていることが素人目に見てもあからさまだったケースがあった。

一番わかりやすいのは無地よりも柄物だろう。

資本関係が全くないブランド同士で、同じ柄の生地を使ったシャツやワンピースが販売されていることがあった。またそういう商品が正月の福袋に詰められていることもあった。

これは丸投げされたODM業者が同じ生地を使って、別会社のブランド同士に似たような商品を納入したというケースが最も可能性が高い。

この場合、お互いのブランドからODM業者には凄まじいクレームが入ったことだろうし、両ブランドとも「お互い関係ありません」という消費者向けの声明を出しただろう。

ラグジュアリーブランドと同じ生地ガーもユニクロと同じ生地ガーもこれと同じなのである。

ただ、名前を拝借している先のブランドに人気があるかどうかだけの差でしかない。

 

まあ、そんなわけでラグジュアリーブランドと同じ生地ガーは、何となく品質の高さだけはアピールできるのだろうが、それ以外は何の保証にもならないということである。

もっとも、ブランドビジネスというのは、イメージの高さや付加価値の高さをでっち上げて、買う人を騙して、買う人も騙されるのを楽しむというような側面もあるので、同じ生地ガーで一定数のファンが獲得できるのであるなら、それはそれとして一つのビジネス手法ということではないかとも思う。

ただし、自分は同じ生地ガーのブランドには全く何の価値も感じないが。

 

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2021/10/25(月) 11:14 AM

    スーツだと、「あのゼニアがこの価格で!」とか「あのロロピアーナがこの価格で!」とかは、そこそこ成立していそうっすね。生地自体がブランド化しているからでしょうけど。
    ま、実際はスーツは生地だけじゃなく、仕立てで明確に差が出るから、引っかかるのは素人だけという感じかと思いますが。

    • BOCONON より: 2021/10/25(月) 9:04 PM

      むかし銀座松屋でイージーオーダースーツで20万円なんてのがあってびっくりした事があった。どうやらイタリアものの高級生地だからって事だったようで。僕は「ああもったいない、どうせ変なシルエットのスーツが出来てしまうイージーオーダーなんぞに」と一瞬思ったけれど、よく見るとイタもの生地なんてものはどうも無駄に女好きのするような変な生地が多い。
      一度銀座の某EOかPOのお店に見学に行ったら、ここも生地が何か妙な色気を発散している。紺無地も何か紫がかっていたりして、「なんだこりゃ?」と思った。これもイタ物生地が売りの店でした。この店まだあって、なかなか繁盛しているらしい。「世の中お洒落なものとは何か、分かりやすい基準がないと困る人が多いと見える」と思った事でした。

  • kimgonwo より: 2021/10/27(水) 12:28 PM

    生地は大切ですよ

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