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南充浩 オフィシャルブログ

インターネットの普及によって採算度外視の小規模ブランドが増えた話

2021年9月9日 トレンド 0

今回はちょっと前回の続きになるのだが、生活が他で確保されている人が価格破壊を起こしているというのは、何も今に始まったことではない。

 

「善意の美談」が行う経済システムの破壊 – 南充浩 オフィシャルブログ (minamimitsuhiro.info)

 

すでに10年くらい前から業界では話題になり始めていた。

それが顕著だったのが、洋服ではなく、アクセサリーや服飾雑貨の分野だった。

テトテやミンネみたいなサイトができ始め、誰でも自分が作った商品?作品?を手軽に販売できるようになったことは、本来は個人事業主にとっては大いにメリットとなるはずだった。

 

しかし、メリットがあれば必ずデメリットも生じる。

メリットしかない事象などこの世には存在しない。

この手のサイトが広まると、かつて商品企画やデザインのプロとして仕事をしていたが、結婚や出産で引退、もしくは仕事を控えるようになった元プロたちが多数、自作を販売するようになった。

もちろん、個人がやりがいを求めることは否定しない。また家計の足しにしようと内職を始めることも否定はしない。

だが、その人たちは、採算度外視の安値で販売することが多かった。

もちろん、そこに悪意はなかっただろう。どちらかというと善意があったか、あまり深く考えていなかったか、のどちらかだろう。

なぜ採算度外視の安値で販売することができたのかというと、その人たちは収益が上がらなくても、逆に言うと、大幅な損失さえ出さなければ、定職を持った配偶者がいるから、生活するには困らないからである。

 

例えば、夫が毎月額面30万円の給料があったとする。

手作りの作品が5万円売れて、材料費が3万円かかったとして、自分の手間賃や工賃をゼロにすれば、2万円の収入が増えたことになる。

これを生業として暮らすのなら、工賃や手間賃、時間も経費に組み込まないと、到底生活が成り立たないが、配偶者が月額20万円とか30万円を稼いできてくれるなら、贅沢はできないかもしれないが、十分に暮らしていくことが可能になる。

年金受給者の老工員がアルバイト感覚で、安い工賃で工場を手伝うのと同じである。

 

これはテトテやミンネなどのサイトが出来上がったことによる弊害だろう。

そのため、もう10年くらい前から、台頭デザイナーズビレッジの鈴木淳村長はこの状況を指摘しておられた。自分の生業として雑貨ブランドを立ち上げたい若者は、この価格差によって当時から窮地に追い込まれていた。

デザインまで含めた品質が悪ければ、それはそれで対抗策もあるが、主婦側も企画やデザイン、施工の元プロなのでそれなりのデザイン性、品質の高さがある。

買う側からすれば、出品者の背景が、独身で生業としているのか、主婦で配偶者が高給取りで薄利でも生活に困らないのか、は全く関係がない。

デザイン性や品質が良くて割安ならそちらを買う人が絶対に増えてしまう。

 

そのため、生業としてブランドを立ち上げた人が駆逐されてしまいやすくなってしまう。

 

前回では、YouTubeで収益のある芸人が、原価率(多分、製造原価率)65%の薄利ブランドを立ち上げた話を例に出したが、この芸人も結婚や出産で引退した元プロと同じで、利益が無くても生活には困らないのである。

衣料品に限らず、工業製品は製造コストと生産ロット数の問題が常に付きまとう。

手作り系商品の場合は、材料費+自分の工賃・手間賃・使用時間で販売価格となる。

 

しかし、他に大きな収入があれば、洋服や雑貨で利益を上げる必要はなくなる。趣味の活動だと見るなら投資することにこそ意味があるともいえる。

趣味で10万円のνガンダムを買った人は、そこに見返りを求めていない。10万円は支出したっきりとなる。

 

元プロ主婦の活動を規制せよとは思わないし、既製のやりようもない。

また、芸人に「趣味の投資による服作り」をやめさせる法律もない。

 

ただ、製造加工業者が、それらの活動を業界改革の主軸と捉えるのは危険極まりない。

なぜなら、大半のメーカーやブランドはその利益構造では立ち行かないからである。採算度外視での販売が主流となるのであれば、通常のアパレルメーカーや雑貨メーカーは消え去る。

結果的に製造加工業者の首を絞めることになってしまう。

 

それにしても、難しい時代になったものである。

GAPに代表される大量生産による低価格ブランドの出現だけでなく、他分野でカネを儲けているから採算度外視でも構わないというブランドや個人作家が多数出てきている。

さらに困ったことにメディアもそれを「美談」のように報道してしまう。

 

趣味の活動を禁じるすべはないし、禁じるべきではないと思うが、洋服や雑貨を生業としてビジネスとして確立したい人や企業にとっては、なんとも難しい時代になったといえる。

少なくとも、2000年頃までよりも洋服・雑貨ブランドの運営は難易度が格段に高まっている。

個人的には、ブランドの立ち上げを相談されても9割くらいは「やめた方がいい」と言ってしまう状況である。

 

 

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