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南充浩 オフィシャルブログ

ネット通販は決して甘くて美味しい世界ではない

2021年9月6日 ネット通販 0

アパレル不振から新型コロナ禍による店舗休業などによる実店舗の苦戦から、アパレル業界にはいまだに「ネット通販信仰」が根強いと感じる。

ネット通販担当者やそれに近い業務経験のある人は、さすがに知見が貯まっており、そんな能天気な信仰はほぼなくなったが、ネット通販に疎い層からは、老若男女にかかわらず、ネット通販信仰を抱えている場合が多い。

毎年、少人数ながらもファッション専門学校で週に1度くらい教えているが、新型コロナ禍の影響で求人数が減ったことから就職できないままに卒業する生徒が出てくるようになった。

そういう生徒の中には「ネット通販を自分で立ち上げるから大丈夫です」という者が何人か含まれるのだが、何が大丈夫なのかさっぱりわからない。こちらとしては不安しかない。

もちろん、学生時代から自己流でネット通販の勉強をしていたり、そういう企業でアルバイトをしているのなら、幾分かノウハウはあるのだろうと思うが、「立ち上げます」という生徒の大半はそういう経験がない。

若いから勢いというのもあるだろうし、失敗しても軌道修正しやすいし、挫折しながら学び取っていくという未来も予想しやすいが、ネット通販なら売りやすいと根拠なく考えていて、恐ろしささえ感じる。

逆に当方よりも年配でネットなんて全く触らないという老経営者も往々にして「ネットなら売れる」と簡単に口走ることが多いのだが、一体何の根拠があるのだろうと、訝しく思う。

 

今やネット通販に関する各種統計が出ている。

それを見ると、やはり洋服に関していえば、ネット通販よりも実店舗の方が集客力・売上高があることの方が多い。

例えばこの統計である。

女性の8割以上が服のEC購入歴あり、服の購入は「店舗よりEC」が21% | 通販通信ECMO (tsuhannews.jp)

 

女性の8割以上は「洋服をネット通販で購入したことがある」と答え、「買うなら店舗よりネット通販」は約2割という結果だった。

 

とのことである。

新型コロナ禍によって実店舗が営業時短や休業が頻発する状況においては、ネット通販で洋服を買う比率が高まらざるを得ない。

以前に買ったことがある物なら、ネット通販で買いやすい。当然、8割くらいは1度くらいはネット通販で買うという行動をとる。

しかし、その一方で、「買うなら店舗よりネット通販」と答えた人は21%しかいなかったということは、残りの79%は「買うならネット通販よりも店舗」と考えているということになる。

積極的な理由だけではなく、消極的な理由も多分に含まれているだろうとはいえ、こと洋服に関していえば、いまだに実店舗で買いたい人が8割もいるということになる。

その理由は

1、試着できて似合うか似合わないかがわかる

2、生地を触って厚さや薄さ、硬さや柔らかさなどがわかる

という2要素が大きいと当方は考えている。

当方がネット通販よりも実店舗で購入する比率の方が高いのはそういう理由があるからだ。

この2要素は現在のネット通販では実現できない。

 

またこんな統計結果もある。

博報堂「ニューノーマル時代の購買行動調査」レポート |ニュースリリース|博報堂 HAKUHODO Inc.

「オンラインで購入したい」1万円未満、「店舗で購入したい」3万円以上
生活者は商品の価格によって、オンラインとリアル店舗を使い分け
店舗では、適度な距離を保った丁寧な接客がブランド体験価値を高める

 

とのことである。

  • オンラインで買い物する際のメリットとして、「早さ」「安さ」「手軽さ」が上位に。

  • 一方、店舗のメリットは「安心感がある」が72.9%でトップ。

     

という結果も出ている。

この調査は「洋服」に限ったものではないから、その他の通販も含まれているのだろうと考えられるが、洋服だけで考えてみてもほぼ同様の結果になるのではないかと感じられる。

高額と低額の線引きが3万円と1万円で妥当なのかどうかは各人によって意見が異なるかもしれないが、ある程度の低額品なら実物を見ずにネットで買って失敗しても「しゃあないなあ」で済む。一方、高額品になればネットだけで買って失敗するのは嫌なのである。

洋服以外の家具だとか雑貨の方が、実物を見ずに買いやすいと思うが、それでも実物が送られてきて「思っていたより実物が大きかったor小さかった」というのはよくある。

またガンプラでも、ネット通販の画像だとあんまりかっこよくないが、ジョーシンに展示されている完成品を見ると素組でもカッコよかったということはある。またその逆もある。

となると、やっぱり実店舗で実物を見てから買った方が安心感があるというわけである。

また調査にもあるようにリテラシーの高い消費者こそネットと店舗を使い分けているといえる。

店舗にないからその場から接続してネットで買うということは自分もたまにやるし、その逆もある。また実店舗では値引きしていないのにネットだけで値引きされていたら、ネットで買う。

「ネットオンリーで買い物している俺カッコエエ」なんて人は超変人だと言っても過言ではない。

そして、よほど特殊な商材を売っているアパレル業者以外は

  • オンラインで買い物する際のメリットとして、「早さ」「安さ」「手軽さ」が上位に。

 

という点も考慮する必要があるのではないか。

業者としてはできるだけ高く売りたいが、特殊な商材でなければ、多くの人はネット通販に対してのメリットは「安さ」にあると考えているということである。

ナイキの〇〇とかアディダスの〇〇、というような大手ブランドの商品を販売する際、同じ商品ならできるだけ安いネット通販で買いたいということである。送料無料も含めて。

だから、畢竟、大手のネット通販サイトやECモールの集客手段は、割引クーポンやタイムセール、大幅値下げ、送料無料になってしまう。

ネット通販草創期のころ、ネット通販は実店舗よりコストが安いと言われたが、果たして今はそうだろうか?各種割引による販促、更新の手間暇、それに対応した人材の確保、物流システムの構築などを考えると、決して「コストが割安」とは言えない状況になっていると感じる。

 

ネット通販は確固とした一つの販路として確立されたが、業者側にとってメリットばかりでないことも明確になってきた。

ネット通販を行うことは必要不可欠だが、決して、「楽して売れる」というものではないということをネットに疎い経営者は認識しておく必要がある。

 

 

この本のタイトルみたいな美味しい話はないと思うぞ

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