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南充浩 オフィシャルブログ

アパレルのクイック生産体制が限界に

2021年9月3日 製造加工業 0

新型コロナの影響で、アジア諸国も操業停止が起きたりしている。

むろん、当方はアパレル生産の現場に立ち会っているわけではないので、各種報道やSNSの声から認識しているに過ぎないのだが、

 

ベトナムでアパレル生産停滞 「8割の工場が操業停止」 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

 

インドネシア日系企業 8割が一時帰国を決定・検討 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

 

などという報道が相次いでいる。

当然のことながら、今秋冬向けの衣料品製造も大いに打撃を受けることになるだろう。

中国とて無傷ではないようで、なかなか日本向けの衣料品が出荷されないなどのトラブルが起きているようだ。

 

そうなると、アパレル製品の生産、いわゆる縫製が国内へ戻ってくることになる。

だが、国内縫製もなかなかキャパが取れずに困っているブランドが珍しくないと聞く。

理由は簡単だ。

国内工場がこの数年間でさらに減少してしまっているからだ。

 

衣料品の国内製造比率は数量ベースで2%台だといわれ、製造数量も1億枚を下回っている。

ここに中国、ベトナム、インドネシアで溢れた受注が舞い戻ってきても、受け入れる器がない。器を急遽作ったところで、そこで働けるスタッフがいない。

手縫いよりははるかに縫製速度が速いとはいえ、ミシンも人が動かさないと動かない。完全全自動ミシンなんて物はいまだに開発されていない。

今、器を作って、人員を募集して育成したところで、まともに稼働できるようになるのは最低でも2~3年後だろう。

そんなわけで、国内衣料品製造のキャパは「今の」受注量に対して圧倒的に不足している。

 

さて、製造現場にもリアルに立ち会っている山本晴邦さんがそのあたりをブログでまとめておられるので、ご紹介しよう。

 

短サイクル納品の限界。 | ulcloworks

 

アジア地域の工場もダメ、国内工場もキャパが足りないとなると、90年代後半からアパレルビジネスの最適解として信じられてきた「クイックレスポンス(QR)対応」は完全に崩壊してしまったといえる。

10年前とか、それ以前も国内工場が減少し続けていた状況は現在と変わらないが、その当時と比べると、現在の残存工場数は圧倒的に減っている。

それゆえに代替工場を国内で探すことは難易度が高まっているといえる。

また過去では、大手や有名ブランドが気まぐれスポット的に差し込むオーダーに対して、数量に目がくらんでそちらを優先する工場も少なくはなかったが、そういう工場も多くは消え去ってしまい、今残っている工場のほとんどは過去からの信頼性を重視したところである。

 

作れるところが限られると、普段からの付き合い方でパワーバランスというのが明確になってくる。程の良いつまみ食い感覚の業者様に関しては、おそらく困難極まる供給体制に追い込まれてきたのではないだろうか。

新規参入の方々には申し訳ないが、国内製造業との付き合い方は一朝一夕には行かない。国内に限らんかもしれんけど。工業側がそういった新興勢力を排除しようと考えているとかそういう話ではない。むしろ最近の方々は意欲的に新しい方々を受け入れようと努力してみえる。

ただシンプルに、長く付き合ってきた人たちの方が信用があるし、数量的規模感の把握もできている。取引の長い依頼者側は工程時間をしっかりと見繕ってキャパというものを事前確保する流れがある。そこへ一見さんが割って入って急ぎで間に合わせて欲しいという要望は、気持ちは理解できるが物理的に難しい局面であるということを意識しておいた方が良い。

 

要するに、これまで苦しいながらも何年間も細々と国内工場にオーダーし続けていたブランドと、アジア工場危機で急に舞い戻ってきた有名ブランドとでは、どちらを優先するのかという話しである。

通常のビジネスマンなら、これまで何年間もオーダーし続け、苦しい時期を支えてくれた先を優先する。当たり前のことだ。

 

たしかに10年前とかそれ以前は、舞い戻ってきた大手ブランドの数量に目がくらんでそちらを優先するような工場もあったが、今残っている工場はそういう先は少ない。

 

無理矢理こじ開けようとしてくるスポット様に対しては残念だが冷たい印象の対応にならざるを得ない。なぜならそこまで義理を通すほど『毎度お世話になって』いないからだ。これから大変お世話になる可能性は十分にあることはわかっていてもそれは可能性に過ぎず、まず筋を通すべきは普段から大変お世話になっている常連様であるのは言わずもがなだろう。

 

大手ブランド、有名ブランドはこれを覚えておいた方がいい。

じゃあ、長期化しそうな新型コロナ禍を見据えて、器を作り人員を育成してはどうか?という意見が出てきそうだが、それも現状は難しいだろう。

当方が工場経営者なら絶対にやらない。

なぜなら、過去にもさまざまな外的要因で「一時的な」国内回帰というのはあった。だが、いずれも文字通りの「一時的」に過ぎなかったからだ。仮に投資していたら、それはたちどころに負債に変わった。

三度目の正直、というが、二度あることは三度ある、仏の顔も三度まで、ともいう。

当方は性悪説を持って物事を見るので、後者の対応をする方が当たり前で賢明だと思っている。

 

このまま新型コロナ禍のデルタ株が長期化すれば、これまで25年間に渡って、信じられ続けてきた「QR対応」は完全に崩壊してしまうことになるだろう。まあ、QR対応の効果が無かったことはそれを提唱したワールドやその他大手アパレルの経営不振を見れば火を見るよりも明らかだろうが。

訳の分からない新素材を採用したサステナビリティに取り組むよりも、生産工場との取り組む姿勢をしっかりと定める方がよほどサステナビリティだと思うが、まあ、華やかな流行り言葉が大好きな業界人は今後もあまり変わらないだろうと思って外野から眺めている。

 

 

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