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南充浩 オフィシャルブログ

EC化率の高さはアパレル企業の優秀さの絶対的な指標ではない

2021年8月26日 ネット通販 0

アパレル企業の目的は、利益を得ることにある。

そのためには売れなくてはならない。売れるのなら、売る場所はどこでも構わない。専門店だろうが百貨店だろうがショッピングセンターだろうが売れればいい。

現代はネット通販というのも確固とした一つの大きな販路である。

ネット通販が出現する前は、専門店、百貨店、量販店が主な販路だった。あとはそこに通販が加わったくらいだろうか。

ネット通販が出現する前、各販路の比率が何%なら正しいのかという議論はほとんどなかった。

低価格商品が得意なブランドなら量販店だろうし、高額品が得意なブランドは百貨店である。

安全策として、各販路均等に育成する場合もある。

「販路の百貨店比率が5割だから優良」とか、「量販店比率が高いから劣悪」とか、そんな判断基準は無かった。それは各ブランドそれぞれに独自の販路戦略があり、それで利益が上がればいい。

 

しかし、2015年以降、ZOZOTOWNの急成長が顕在化し、ネット通販という新しい販路が確立されると様相が異なってきた。

メディアや一部のコンサルが「EC化率は高ければ高いほど優秀」という訳の分からない指標を打ち出してくるようになったのである。

ちなみに、「EC」という用語だが、業界人やコンサルタント、メディアが思っているほど一般人には浸透していないと思われる。

当方だって耳にした当初はECってEUの前のヨーロッパ連合の名前だったよな、程度にしか思えなかった。

なので、当方はしつこくネット通販と言い続けているわけである。

 

ネット通販というのは、一つの販路であり、服を売るための一つの手段でしかない。

しかし、EC化率が高ければ高いほど優秀というのは、アパレルお得意の手段の目的化でしかないと当方は感じる。

EC化率の高さを競うことがいかにナンセンスかである。

EC比率に意味はあるのか? | ファッションビジネス ・リテールMDアドバイス ・マサ佐藤 (msmd.jp)

EC比率はブランド力とチャネル戦略に依存している、ということです。オンラインからスタートしたブランドは、その特性上、メインのチャネルがECになるでしょう。結果、後から出店したところで店舗数は少なく、EC比率が高いままですし、販管費を考えるとそれが適正でしょう。一方で、多店舗展開で規模拡大してきたブランドはどうでしょうか?今や知名度が高いので、出店を減らし、オンラインメインで販売していく、という方針であるなら、年商は下げながらも利益率を高めていくことは可能でしょう。

 

現在ではネット通販からスタートするブランドは珍しくない。

そういうブランドが実店舗を出店してもネット通販比率は高止まりするだろう。一方、今まで実店舗でしか販売していなかったブランドがネット通販を開始したとしても実店舗の売上高が主力となったままだろう。

ユニクロのネット通販比率は1000億円を越えているが、EC化率は13%程度に過ぎない。

 

要は

筆者もお仕事柄「どの程度の割合が適正ですか?」と聞かれることもあります。回答としては、

「御社の方針次第ですよ」

とお伝えするようにしています。

 

である。

各社・各ブランドの方針次第で、適正なEC化率は異なる。

にもかかわらず、そこそこ有名なEC支援企業の社長でさえ、相手企業の現状を把握するより前に開口一番

「EC化率50%を目指しましょう」

と言い放つ。その50%の根拠は何やねん??

 

以前から、何度も書いているように、アパレルEC市場規模は拡大しているといえ、アパレル市場規模そのものは横ばいである。

ということは、洋服の需要は増えていないということになる。

ECで買う人が増えた分だけ、実店舗で買う人が減っているということである。

 

2020年はコロナ禍でEC売上高が伸びた。理由は実店舗の休業や営業時短が相次いだからである。実店舗で買えないならネット通販で買うしかない。

2021年のアパレルネット通販もさらに伸びるだろう。理由はコロナ禍である。

 

相対的に各ブランドはEC化率を高めることになった。

ということは、指標としてのEC化率をアップさせるのは簡単で、実店舗を閉鎖しまくれば良いのである。それで売上高が稼げるのか、利益率が高まるのかはわからない。

ただしEC化率の上昇という指標だけは間違いなくクリアできる。

 

そんなにEC比率を高めたいのであれば、既存店舗を閉めれば達成します。これが実態です。

 

まさにこの通りである。

〇〇率という指標が実はいくらでも操作できるというのは、この場合も当てはまってしまう。

 

実店舗がダメなのかというとそうではなく、ZARAが広告をほとんど出さずに、広告代わりとして実店舗を出店しているのはよく知られている。

またユニクロもニューヨーク店は不採算だと批判されることが多いが、あれも広告として割り切っているとも言われる。

ネット通販比率が高ければ高いほど正解であるなら、ネット通販比率100%だったAmazonがどうして実店舗を出店し始めているのか。

 

国内アパレルの経営陣はこの辺りの事例をもう一度、冷静になって考えてみる必要がある。

とりあえず「EC化率は高ければ高いほど優秀である」と主張するような似非コンサルとは契約しないことを強くお勧めする。

 

 

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