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南充浩 オフィシャルブログ

衣料品のネット通販売上高が増えても前年売上高を大きく割り込む理由

2021年8月18日 ネット通販 0

新型コロナ感染症がなかなか収束しないため、営業時短や買い物客の減少によって衣料品の実店舗売上高は一部の店舗を除いてなかなか2019年水準まで回復しないままである。

実店舗への来店客減少、営業時短などを考慮するとEC(いわゆるネット通販)に期待するほかないが、意識他界系 イシキタカイ系やIT関連業界人が期待するほどには、衣料品のネット通販は伸びないというのが実情である。正確に言うなら、前年度・前前年度の売り上げ規模が小さいから伸び率は高くなるが、実額としては少額にとどまっているというのが実態である。

まあ、そんな実情を統計資料からまとめてくれてある記事をご紹介したいと思う。

統計資料を自分でまとめなおす手間が省けてまことにありがたい限りである。

経済産業省2020年度 EC市場調査報告書とこれからのファッション専門店の構造改革: ファッション流通ブログde業界関心事 (cocolog-nifty.com)

 

経済産業省が7月31日にリリースした電子商取引に関する市場調査報告書に目を通しました。

 

これが前提条件である。

 

これによると、物販系分野BtoC-EC市場全体は

12兆2333億円 前年比 121.7% で市場のEC化率は8.08%(前年が6.76%)になったようです。

気になる衣類・服飾雑貨カテゴリーは

2兆2203億円 前年比 116.2% で市場のEC化率は19.44%(前年が13.87%)

伸び率は全物販市場に比べて下回りますが、物販EC市場の中の金額規模では家電に次ぐ2番目に大きな規模になります。

EC化率も

書籍・ソフト(42.97%)
家電(37.45%)
生活雑貨インテリア(26.03%)に次ぐ

4番目(19.44%)にEC化率が高いマーケットです。

 

とのことで、毎年報道されるように伸び率は高い。

しかし、基準となる前年・前前年の売上高が小さいため、伸び率は高くても、実額としては依然として小さいままということを改めて認識しておくべきである。

 

カテゴリー別に見ると

食品、家電、化粧品・医薬品、生活雑貨・インテリア、自動車関連
は実店舗、EC共に市場規模(消費)が増えており、

衣類・服飾雑貨、書籍・ソフトのふたつのカテゴリーが実店舗の落ち込みをECでカバーできなかったカテゴリーになります。

 

前年比(2020vs2019)

           実店舗   EC    合計     
衣類・服飾雑貨    77.6%   116.2%  82.9%

書籍・ソフト     86.0%   124.8%  99.2% 

ということで、衣類、服飾雑貨が最もコロナ禍の影響を受けた物販カテゴリーのひとつであることが、表されています。

 

とある。この分析はもちろんその通りなのだが、書籍・ソフト類は実店舗+ECの合計が前年比0・8%減に過ぎずほぼ前年並みであることに対して、前年比17・1%減の衣料品だけが大きく前年を割り込んでいるといえる。

この数字から、衣料品という商品の特殊性を考える必要があるのではないかと思う。

また書籍と衣料品の共通点としては、ネット通販では買いにくいと感じる層が一定数存在し、それは今後も消滅しないだろうと当方は考える。

書籍の場合、自分の購買行動を基準に考えさせてもらうと、ネット通販で買うには「決め打ち」する必要がある。例えば「山田風太郎の『明治十手架』が欲しい」と思ってネットを検索して購入する。しかし「目的物がない」場合はネットで書籍通販の画面を見ていてもなかなか購入には至らない。

実店舗、特に大型書店で本棚を見渡して、最初の数ページをパラパラと読んでみて買うということはあるが、ネット通販でそういう買い方はしない。

 

洋服も同様で、画面だけ見て買おうとはなかなか思えない。特に高額な洋服はかなり勇気が要る。この高額というのはどれくらいを指すのかというと各種アンケートによるとだいたい1万~3万円以上ということになりそうである。要するに1万円を越える服はネット通販の画面を見ただけでは買いにくいということである。

1万円を越える場合、一度店頭で見たとか、試着してみたという体験がセットでないと買いにくい。

また書籍と同じで実店舗で目的もなく眺めていて、試着してみて衝動買いをすることはあるが、何の気なしにネット通販の画面を見ていて衝動買いをすることはめったにない。

元々が低価格だとか、値引きされてめちゃくちゃ低価格になっている場合にほぼ限られている。

 

一方で、書籍の場合はコロナ自粛に備えて、実用書・娯楽用問わずにまとめ買いするケースが実店舗店頭では多々見られた。先日も緊急事態宣言直後に一人で何十冊もの本を買う人をレジで見かけた。

逆に緊急事態宣言に備えて衣料品をまとめ買いするという人はいない。肌着・靴下・パジャマなどの実用衣料はあるかもしれないが、カジュアル外衣をまとめ買いしようという人はほぼ皆無だろう。外出を控えるなら買わなくなる。これが衣料品の実店舗売上高の落ち込み幅の大きさにつながっているだろう。

 

あと、何度もこのブログで書いているが、衣料品を除くその他商品は身に付けるものではないから、多少気に入らなくても我慢して使う。そのため、少々疑問を持ってもネット通販で買うという決断がしやすい。

衣料品は、

似合う・似合わないという要素が大きい。

また

着てみて窮屈でないかどうかという要素も大きい。

 

そのため、商品のデザイン自体が良かったとしても、それを即座に画面を見ただけで買うという決断はしにくい。

 

「このブルゾンのデザインは可愛いけど、自分が着て似合うかどうか?また、着用してみて大きすぎたり小さすぎたりしないだろうか?」

 

という疑問が常に付きまとう。

それをエイヤーで乗り越える決断を下せるのは、当方の場合「めっちゃ値段が安い」という一点である。

この一点で「安いから失敗しても痛くない」という割り切りが可能になる。

 

この「似合う・似合わない」「大きすぎたり・小さすぎたりする」という点を完全克服できるテクノロジーが普及するのは当分先のことになるだろう。

それまでは、衣料品のネット通販は、実店舗売上高の落ち込みを少し補填する程度だと考えておくほうが賢明だろう。

 

 

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