歩引きが生まれた理由とそれへの対応策
2021年8月10日 企業研究 2
明日か明後日からお盆休みに入る企業も多いのではないかと思う。
早いところだともしかすると8月7日から長期休暇に入っているのではないかとも思う。そんなわけでお盆期間中ということでめちゃくちゃ地味な話題を。
「歩引き」が発覚して時々報道されることがある。
本来は禁止されているにもかかわらず、いまだに繊維・衣料品業界では歩引きが求められる場合がある。
値引きと歩引きは何となく言葉の意味合いは似ているし、それを一緒くたにして使っている業者もいるが、大雑把なニュアンスとしては異なるようで、値引きは対消費者(要するにBtoC)の場合でも使われるのに対して、歩引きは完全に業者間(BtoB)にしか使われないという違いがある。
歩引きの意味に対していろいろな説明が存在するが、
たくさんの量を仕入れたり、期日より早く支払ったりする場合、仕入れ値・買い取り額を少し安くしてもらう
という感じである。
「歩引き」(ぶびき)という言葉をご存じでしょうか? | [NJSS]入札情報速報サービス
「歩引き」とは「一定の売上額や仕入額に対して行う値引きの一種」で、「例えば、顧客で1ヶ月の売上が10万円以上あった時は0.2%値引きするというような使い方をする」と書かれてありました。
「手形ではなく現金で早期代金決済を行うことに対する奨励的な意味合い」があるそうです。
歩引き(分引き)(ブビキ)とは | BtoB 受発注の用語集 (bcart.jp)
売上や仕入に対して行われる割引のひとつ。通常の期日よりも先に請求金額を支払ってもらいたい、早く現金が必要という企業が、請求先に、期日よりも早く支払ってもらう代わりに、請求金額から一定の金額を割り引くことを提案することで発生する割引のこと。歩引きの条件は取引を行う企業同士の合意によって定められ、その内容はさまざま。一般的な販売における「値引き」とは区別して使用されることが多い。
とのことである。
この歩引きを取引相手が望んでいないのに強要した場合、現在は違法とされている。
ではどうしてこんなことが起きるようになったのかというと、ここでいつもの山本晴邦氏のブログを引用しよう。
僕がこの業界に入って、お客様を初めて持たせていただいたとき、お取引の内容にしっかりと『歩引き』という名目があった。お支払い明細をいただくとき、請求金額からその割合値引かれて振り込みされるといった性質のものだというのは、取引を通して実体験として初めて知ることになるのだが、最初はなんのことかわからなかった。
その値引いて振り込みますよっていう支払い明細を確認した時、ぶっちゃけ腹たった。なんで値引きすんのよって。
とある。
要約すると、大昔は約束手形での支払いが多かったそうな。
約束手形ってのは月末で締めて代金を請求すると、その翌月末にその金額が書かれた紙切れが送られてきて「これ持っといたら90日後(3ヶ月後)や120日後(4ヶ月後)に銀行さんから該当金額振り込まれますよってに、その証拠やさかいなくさんといてや」という内容のものらしい。製造工業は人件費などが製造原価になるので、お給料は仕入れ代金と同じ、つまり当月の手当は当月に職人にお支払いするのが当たり前なので、そんなゆっくりと現金化されるのを待ってはいられない。なので約束手形を割る(銀行に持っていって、その手形を担保に金利分差し引いて融資を受け現金化する)と、額面より幾分少なくなった現金が手に入る。
そして当座を凌ぐというのが古い『しきたり』だったらしい。
その『しきたり』を、直接手早く現金でお支払いするので「金利分は請求金額から引きますね」っていうのが、お取引を始める前の双方合議としてあれば、『歩引き』が許されたのだそう。
とのことで、昔は翌月末現金支払いとかキャッシュオンデリバリーとかいうBtoBがあまりなく、手形というのを発行し合って支払っていた。
「歩引き」という言葉が残っているのはこのころの名残だが、実は繊維業界に限らずいまだに手形で支払っている業者もあるという。
じゃあ、手形で支払われた方は額面よりも少ない現金でやりくりしていたのかというと、そんなことはなくて業者はそれなりにしたたかな部分もあって
で、その歩引きってのはまぁそのまんま利益を圧迫するもんですから、最初のお見積もりで売価に歩引き率分を上乗せしてお伝えしましょうねっていう社内々の暗黙の了があり、お客様の目の前で電卓を叩く際には、素早く、いや光の速さで、その歩引き分0.9◯などで最後に割る計算を見られないようにしたものである。
とある。ベテランの業者は歩引きを想定してその歩引き分を上乗せして請求している。だから、歩引きされても自分たちの欲しかった金額は手にしているというわけである。
で、このくだりを読んだとき、酒浸りになって先日若くして(と言っても50代後半)のOEMの社長が元気な時、商談で歩引きを求められても、素早く歩引き分を上乗せした見積もりを提出していたことを思い出してしまった。
恐らく、今でもいろいろな工程で歩引きの要請はありあまり表面化していないだけではないかと思うが、その理由の一つとしては、
僕はその筋の専門家ではないので、詳しい成り立ちや法律上の問題など、歩引きに潜む問題はよくわからんけど、なんせ引かれるってわかってたから、その分乗せてたってのがあったので、特段問題視などしたことがなかったな。
と考えられる。もちろん、このテクニックがなく泣き寝入りしていた業者も少なくはなかったのだろうけど。
もちろん、今の時代、歩引きの強要はいけないことだが、歩引きが生まれた経緯や、それへの往年の強者の対応なんかは覚えておいて損はないだろうと思う。
恐らく、今でも表面化しないだけで歩引き要請が行われており、それへ柔軟に上乗せ対応しているしたたかな業者も多数いるのだろう。
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とおりすがりのオッサン より: 2021/08/11(水) 11:31 AM
金属加工業で見積もり作ってる私ですが、毎回毎回、見積り提出後に値引き要請してくる某大企業があります。で、この記事の業者さんのように、最初に出す見積り価格は、想定される値引き要請の額を上乗せして計算されるその企業専用のプログラムにしてますわw
リピートでくる注文でも毎回同じように、初回見積り提出→値引き要請→価格見直し見積り提出というやりとりをしてクソめんどくさいですが、相手側は値引き出来たのが成績になるようです。ホント、アホらしw
繊維ではありませんが某商社で働いていたとき、大口取引先とは120サイトの手形払いでした。なかなか仕組みを理解するのに時間がかかりました。反対に、〆後10日で振り込みの企業にはリベートがありました。けっこう残ってるとこありそうな気がします。