割引クーポンはプロパー販売を助ける物では決してない
2021年8月5日 ネット通販 0
最近はまともな担当者も増えて、またそういうまともな人たちがSNSで発信することも増えたので、「EC化率(ネット通販比率とここでは同義で使う)が高ければ高いほど優秀」というアホな言説が過度に信用されることは一時期に比べて減った。EC化率の高さを推奨しているのは現場を知らない人たちだけだろう。
とは言っても、昨年からのコロナ禍で実店舗の完全なる穴埋めは不可能にしても、何割かはネット通販が補填できるため、ネット通販が不可欠な存在になったことも確かであり、企業によっては売上高の4割くらいをネット通販で占める場合も出てきた。
自社通販サイトもさることながら、ZOZOTOWNや楽天市場、Yahoo!ショッピングなどの大手ECモールの存在感は嫌でも増している。
この手のECモールに登録していると、ほぼ毎日のように割引クーポンが送られてくる。
この割引クーポンの発行はモールではなく、個々の出店者であることは広く知られるようになったが、大手モールを見ていると、その集客力の高さは毎日ほど発行される割引クーポンにあると感じる。
買うかどうかは別にして、割引クーポンが届いていればとりあえずはネットで覗いてみるという人は多いだろう。
さて、このネット通販の割引クーポンの弊害だが、以前から言われているように「値引き分を販管費計上すること」に問題がある。
これと、プロパー消化率の指標を併用することで、商況の実態は全く見えなくなる。
通常の実店舗セール、自社ネット通販の値下げセールの場合、値引き分を粗利から「ロス高」として差し引く。プロパー消化率からは除外されるため、やればやるほどプロパー消化率は低くなる。
一方、クーポンの割引分を販管費として計上してしまうと、粗利高は変わらないからプロパー消化率は高くなる。仮にすべての枚数を割引クーポンで完売した場合、プロパー消化率は100%というとんでもない数字が出てしまう。だからこそ、マガシークの社長のように「割引クーポンはプロパー消化率を助ける物です」というアホな発言が飛び出すのだが、本気で言ったのならアホだし、理解して言っているなら詐欺である。
この辺りのことは、マサ佐藤氏のブログで解説されているのでご紹介する。ちょっと長いが、興味のある方は全文お読みいただきたい。
値引クーポン券を販管費計上するのは止めませんか? | ファッションビジネス ・リテールMDアドバイス ・マサ佐藤 (msmd.jp)
”あるショップは、1点1万円の元売価。値入率60%(原価率40%)の商品が、1か月で、元売価から30%OFFの7,000円で500点売れた。このショップの1か月の販売費及び一般管理費は120万円であった。”
・売上 350万円
・粗利高 150万円(粗利率42.9%)
・販管費 120万円
・営業利益 30万円
箇条書きにするとこうなる。
これを3000円分の割引クーポンを使って500枚販売するとどうなるかというと、
このショップの商品1点あたりの値引き分3,000円をクーポン値引きとし、クーポン値引き分を販管費で計上した場合、損益計算書は以下のようになります。(筆者注:要するに3000円割引クーポンを発行して500枚販売したということ。売上高は定価で売れたことになる)
・売上 500万円
・粗利高 300万円(粗利率60%)
・販管費 270円(クーポン券150万円)
・営業利益 30万円
お分かりだろうか?
営業利益は変わらないが、売上高と粗利益高は増える。
プロパー消化率を重要指標として設定しているなら、この施策は大成功である。
ただし、営業利益は変わらない。
営業利益とは何かというと、平たくというと、粗利益から経費やロス高を引いた「本業による純粋な儲け」である。割引クーポンを大量発行しそれを販管費に計上した場合、何が起きるかというと、売上高は大幅に伸びるが、営業利益は変わらないということになる。
要するに1円も「純粋な儲け」は増えていないということだ。にもかかわらず、粗利益だけは増えているということになる。
たまに売上高と粗利益が異常に伸びているのに営業利益が伸びず、代わりに販管費が増大しているアパレル企業の決算を見かけることがあるが、それは、割引クーポンをネット通販で大量にばら撒いている可能性があるということになる。
果たしてこんな「いいかげんな」指標で自社の商況や売れ筋を正しく把握できるのだろうか?当方はできないと思う。これで正しく現状を把握できる人間はこの世に存在しないだろう。
ですから、みんな大好き(笑)プロパー消化率は、クーポン券を配れば配るほど上がる!ということになります。
プロパー消化率をKPIに掲げている組織のMDを私が担当していたならば、クーポン券を配りまくるでしょう(笑)。
とあるが、プロパー消化率をKPIに設定している企業に雇われていなら、当方だってECモール用に割引クーポンを発行しまくる。それでKPIをクリアして報酬アップを目論む。営業利益が変わらずに営業利益率が低下(売上高は増えていて営業利益は変わらないから営業利益率は低下する)してもそんなことは当方の知ったことではない。求められている指標はクリアしている。(笑)
実際のところはどうかというと、
弊社のお客様の数社に聞いた話によると、実店舗や自社ECの場合は、クーポン券が使用されれば、通常の値引き処理をしているそうですが、大手ECモールのクーポン券は、通常の値引き処理と販管費で計上している組織の両方のケースがありました。
両方のケースがあるようだ。
恐らくは、モールからの報告が来るのと締め日との兼ね合いとか、値引き分の把握をどこまで個々の出店者ができているか、とかそういう問題があるのだろうと考えられる。
統一するにはいろいろと難しい部分があるのだろうが、各ブランドが正しく商況を把握できるように、万難を排し粗利益高からクーポン分の値引きを処理する仕組みを組み立てていただきたいと願う。