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南充浩 オフィシャルブログ

昨対のみで業績を論じることの危険性

2021年7月5日 プレスリリース 0

常々、昨年対比のみで業績の動向を判断するのは危険であると書いてきた。

数少ない業界の友人であるマサ佐藤氏も頻繁に言及されている。

昨年春からのコロナ禍によるイレギュラーな商業停滞発生のため、昨年対比のみで分析したような「単純馬鹿」な記事は随分と減ったと感じる。これはコロナ禍において数少ない良かったことの一つだろう。

コロナ以前だと、昨年対比(昨対)が少し減少すれば「不調」、昨対が増えれば「好調」という論調が多く、業界内の有名ベテランコンサルでさえ、そんな論調で記事を量産していたから呆れ果てる。

しかし、例えば、今回のコロナ禍のようにイレギュラーな要因が発生し、売上高が減る年もあれば増える年もある。昨対のみで一喜一憂するのは馬鹿げている。

 

そんな中、WWDの大手月次売上速報に対する記事の書き方は、一昨年くらいから昨対のみでの比較ではなくなっているので、個人的には評価している。

今回はこれである。

 

6月度売上高、ユニクロ、無印良品2ケタ減 しまむらも10カ月ぶり前年割れ | WWDJAPAN

 

“感謝祭”を実施したユニクロは同19.2%減と、5月に続いて前年割れとなった。ただし、一昨年同月比では2.0%増。昨年6月には「ユニクロ原宿店」「ユニクロ トウキョウ」のオープンもあり、その開店景気の反動はもちろんあるが、先月に続き「商品や機能性についての発信が足りていない」(広報)ことが夏物消費に勢いが欠けている要因と見る。

 

とある。

単に昨対だけで考えれば、ユニクロの6月度は約20%減ということになるので「絶不調」ということになってしまう。しかし、記事中にもあるように一昨年同月比では2・0%増」だから、逆に堅調あるいは好調といえるだろう。

まず、一昨年というと2019年である。2019年はコロナ禍が始まる前であり、アパレル業界全体の販売状況としては総じて堅調だったといえる。当時の雰囲気や業績を思い出してもらいたい。

その2019年6月と比較して2・0%増だったのだから、好調と呼んで差し支えない。

逆にいうと、2020年6月度というのは突出して業績が異常に良かったといえる。

 

では、2020年6月に何があったのか。記憶を1年前に戻してもらいたい。

戦後初の非常事態宣言が発表され、4月・5月は都心店はほぼ休業した。宣言明けの6月はその反動で売れ行きが伸びた企業があった。ユニクロやしまむら、無印良品などがそれだ。

さらに加えて、ユニクロは6月から、今では珍しくもなんともなくなっている「エアリズムマスク」を初投入した。これが異様に注目された。

発売当日の開店前から各地のユニクロにはマスクを求める人の行列ができ、初回投入分はすぐに完売となってしまった。

覚えておられるだろうか?

 

2020年6月度のユニクロの売上高が異様に高いのはこれが原因である。

当然、マスクだけではなく、そのほかの商品も一緒に買ったという人が多数いたと想像される。また、マスクが手に入らなかった人も手ぶらで帰らずに何か他の商品を一品くらい購入したのではないかと想像される。

必然的に売上高は伸びる。

 

「ファッションセンターしまむら」(5月21日〜6月20日)は前年同月比7.5%減と、10カ月ぶりに前年実績を割り込んだ。ただし一昨年対比では同17.6%増(休業・時短店舗を除く)と、コロナ禍前に比べると伸長。インフルエンサー企画開発商品などの夏物や、パジャマ、インナーなどが売れた。

 「無印良品」は前年同月比14.8%減と前月に続き前年実績割れ。「昨年のリベンジ消費の反動が出ているが、こうした流れは長くは続かない。『無印良品』が強みとする身の回り品へのニーズは今後も強い」(松崎暁社長)と見る。全店売り上げでは、一昨年同月比6.0%増だった。

 

とある。

しまむら、無印良品は2019年まで不振だったが、コロナ禍で逆に復活した。

そのため、昨対は減少しても一昨年比では大きく増えるということになる。

 

この3ブランドについては、昨年6月の売上高の伸びが異常だったと考えるべきで、今6月も売れ行き自体は決して不調ではない。それは一昨年比が物語っている。

 

一方、アダストリアとユナイテッドアローズの状況は深刻である。

ユニクロ、しまむら、無印、アダストリアと価格帯が全く異なるユナイテッドアローズを同列に並べる月次速報記事は以前から疑問を抱いているが、とりあえずはそのまま進める。

 

アダストリアは同16.2%減。一昨年同月との全店対比では14.4%減だった。「曜日の並びの影響を加味すれば、全店売り上げの一昨年比は10%減前後。昨年6月は月初からセールを行ったが、今年は自社ECのセールは16日から、実店舗は月末からと遅らせており、粗利益は売り上げほど落ちていない」(広報)という。

 ユナイテッドアローズは18.3%減、全店売り上げの一昨年同月比では21.8%減だった。昨年同月は早期からセールを行っていたこともあり、反動で売り上げを落とした。

 

アダストリアの広報のコメントはどうでもいいとして、両方とも一昨年対比でも大きく売上高を落としている。ということは、コロナ禍のダメージはいまだに強く残っているということである。

また、両社ともにネット通販が盛んなことで有名だが、実店舗の落ち込みを補えていないということがわかる。さらにいえば、好調と言われるネット通販が無ければもっと悲惨な業績になっていたということになる。

 

郊外型ショッピングセンターへのテナント出店もあるが、都心型のアダストリア、ユナイテッドアローズの2社にとっては、まだまだ厳しい状況が続いているといえる。

 

ただ、マスクという起爆剤アイテムの効果が無くなったため、7月以降も大きな盛り上がりは各社共通して望めないのではないかと思う。

 

コロナ禍においては、昨対のみで業績を判断することはいかに馬鹿げた行為かということがおわかりいただけるのではないだろうか。

 

 

 

 

 

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