インフルエンサー起用が大きな売上高に結び付きにくい理由
2021年6月18日 メディア 2
つまるところ商品にもよると思うが、概してインフルエンサーを使ったブランドの売上高はそう大きくない。
「大きくない」と言ったところで、各人によって「大きい」と思う数字が異なるから食い違うのだが、自分の基準でいうなら、数百億円以上の売り上げ規模のブランドや企業にとってはあまり美味しい市場ではないといえる。
インフルエンサーの起用で、期間中に1型10万枚売れましたとか、売上高が一気に100億円増えましたとかそういう話は聞いたことがない。
「最大」でも数千~1万枚売れたとか、1億円売れましたとか、それくらいの成果である。
もちろん、一個人からすると1億円の売上高は大きいし、できることなら欲しい。もらえる物ならもらいたい。
だが、例えば売上高500億円の企業が、1億円増収して501億円になったところであまり意味はない。
だから、日本ではインフルエンサー起用というのは、零細から小規模くらいには適した販促手法だが、大手には適した販促とはいえないと思っている。
これはD2Cに関しても同じだ。D2Cをとっかかりにして、ほかの物も売るとか、自社の知名度を上げるなどの目的があるなら別だが、500億円とか1000億円規模の企業が「D2Cの売上高で今期の大幅増収を目指す」とか「黒字化を目指したい」とか考えているなら、まったくの見当違いである。
某中堅繊維商社がマスクのD2Cで1億円売れたとかで、大手がにわかにD2Cに注目しているが、1500億円の売り上げ規模の会社が1501億円になる程度である。繰り返すが、これを呼び水としてほかのことに結び付けるのであれば、戦略的に正しいといえるが、D2Cで儲けようとか大幅増収を目指すという戦術なら極めて悪手である。
個人的には海外の事例はあまり興味がないというか、海外に興味がなく、行きたいとも思わないので、直接的に取材をしたこともないが、業界メディアの報道によると、インフルエンサー起用やD2Cで大きな売上高がもたらされる事例が海外にはある。
では何が日本と異なるのだろう。その理由の一つがこのツイートである。
日本ではインフルエンサーにあんまりインフルーエンスされないらしい。それってもうインフルエンサーとは呼べないのでは?
いや、ブラジルとか中国とかが感化されやすい?ともとれるのか。。。 pic.twitter.com/qOTjFnrFBW— 生暖かい外資でただ頭を垂れるだけの人 (@dokodemoikiru) June 17, 2021
添付された画像は、「インフルエンサーやセレブを使った広告で買ったことがある人の割合」のようで、日本はダントツの最下位を独走しており10%未満、恐らく5%あるかないか程度だろう。
2019年と2021年の比較でも全く変わっていない。
1位はブラジル、2位は中国となっており、30~40%となっており、何と影響されやすい人たちなのかと個人的には呆れてている。
ただ、違う点はブラジルは2019年より2021年の方が伸びているが、中国は2021年の方が少し減っている点である。
インフルエンサー起用やD2Cが日本では大きな収益につながりにくい理由の一つはここにあるだろう。
進んでいるとか進んでいないとかそういう問題ではなく、日本の消費者はインフルエンサーに踊らされにくいからだといえる。
過去にも間接的にインフルエンサーマーケティングに関与したことがある。最終的な報告によると、フォロワー数は2000を越えたが、売上高や売上枚数はそう増えなかったとのことだった。
そして、それ以降はどうなっているのかというと、ネームバリューだけで中身の伴わない大手広告代理店の起用で元の木阿弥になっている。
以前にも書いたが「大手広告代理店に任せておけば安心」という企業トップの考えはまったく正しくない。
大規模なイベントを開催するとか、イメージキャラクターにタレントを起用するとか、そういうときには効果を発揮するが、インフルエンサーマーケティングとか、SNS活用とか、そういうことにはほとんど役に立たないということを認識すべきである。ネットが無かった時代でも例えば大手広告代理店に依頼し続けたジーンズメーカー各社の末路はどうなっているのか。それを考えるべきである。
それはさておき。
今の日本の消費者の多くは、だいたいが自分のことをよく知っている。これが2005年ごろまでの日本の消費者なら違っていたのだろう。
似合うか似合わないかも考慮せずに、自分の好きなタレントや有名人の服装や髪型をそのまま真似る人が多かった。顕著な例でいえば97年のアムラーブームだろう。
顔立ちも体型も体格も安室奈美恵さんと全く似ても似つかない人でもアムラーになっていた。ビンテージジーンズブームにしてもそうだろうし、それ以前の各ブームも同様だろう。男性でいうと90年代~2005年頃までのキムタクブームも同様だろう。
今でも「ドラマで着用すれば確実に売れる」と言われる女優やタレントがいる。しかし、昔のアムラーやキムタクブームに比べると小ぶりで局所的な人気にとどまっているといえる。
それは20年前と比べて日本の消費者が踊らされなくなったからだろう。だから、インフルエンサーやセレブにも踊らされない。
それだけ日本の消費者は堅実で己を知っているといえるが、逆にそれだからこそ、服が売れずにファッションでブームが起きにくくなったのだろうと思う。
堅実で己を知っているということに関して、自分は好ましく受け止めているが、だからこそ踊らされずに服が売れないということは、長所と短所がまったく同じ点であるということを改めて思い知らされる。
アムラーやキムタクブームは遠くになりにけり、である。
comment
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BOCONON より: 2021/06/19(土) 6:54 PM
日本で言う “インフルエンサー” で洋服売って大きな収益上げているのは,たとえばMB氏ですね。と言っても,彼はオンラインサロンの会員限定オリジナル商品(当然数量も限定)を売っているだけで,世間一般とはあまり関係ないところで商売をしている感じ。
↓
https://note.com/hucyou/n/n78948dcaa246彼は YouTube もやっていますが,再生回数が爆上がりするのはユニクロや GU の商品を紹介する回ばかり。モード系ハイブランドも好きらしいけど,そんなものを取り上げても売り上げにはつながりそうもない。最近は “オーダー” スーツ(実はただのパターンオーダー)メーカーのステマじみた事もやっているようですが,この分野はもともと大してパイが大きくない割にお店ばかり多いですからね。
ほかにも YouTube で活動しているインフルエンサーで「げんじ」クン(MBチルドレンw)がいますが,彼ももっぱらユニクロや GU の話ばかりみたいな按配。大山シュン氏はも少し良識はある感じはするけど,基本ユニクロで間に合うようなフツーの服の話しかしないようなもので。
ネット以外でも今は芸能人も「私服がヤバいw」なんて話題の方が多いくらいだし・・・こうして見ると,記事にある通り,言葉通りの “インフルエンサー” なんてものは事実上日本には存在しないのじゃないかと僕も思いますね。
日本の消費者もずいぶん地に足のついた、自身のことを見極めた消費スタイルになっているんですね。
国別に比較できるデータを見て再認識しました!