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南充浩 オフィシャルブログ

衣料品分野ではAIによる需要予測が難しいと考える理由

2021年5月28日 ファッションテック 1

最近、「AI(人工知能)による需要予測でアパレルの在庫削減」というニュースをあまり見なくなってきたように感じる。

AIが全く無力だとは思わないが、衣料品に関して「需要予測」は、取りざたされていた当初から当方はあまり意味がないと考えていた。このブログでも何度か過去に言及している。

膨大な画像データをAIに取り込んでの「トレンド予測」や「マストレンド分析」などは効果的だと思うが、「需要予測」は不可能だろうと思っている。

 

街頭でのコーディネイトスナップを撮影しまくり、それをAIに読み取らせて「トレンド」や「マストレンド」を分析させることは、AIの特性上非常に効果的で、なまじ自称マーケッターの人間にやらせるよりはよほど正確な分析と予測ができるだろう。

しかし「需要予測」はことアパレル製品に関してはほとんど意味をなさない。

 

識者の中には「需要予測」は食料品や消耗品に対しては有効であると唱える人もいる。

これはたしかにそうで、食料品や消耗品の場合、使用すれば必ず無くなる物だから「Aさんが次に食パンを買いに来るのは何日後だ」という予測は立てやすい。

もちろん、人間は常にイレギュラーな行動をするから、この予測が外れることもある。例えば、Aさんが突然ホームパーティーを開催して、買った翌日に食パンを使い切ってしまうなんていう不測の事態も起こりうる。

だが、そういうイレギュラーな行動を除くと食料品や消耗品を再度購入するまでの期間はほぼ一定である。

 

一方、衣料品だが、食料品や消耗品のように一定期間が来れば必ず買い足すという性質のものではない。

破損したから買いなおすという場合もあるが、買って数週間後に自転車で転んで破損して買いなおす場合もあれば、丁寧に着続け何のアクシデントも起こらなかったので、5年間買いなおす必要性がなかったという場合もある。

また、破損していないけど買い足すという人もいる。

 

さらに衣料品を購入するプロセスを考えてみると、肌着や靴下などは一定期間が過ぎると買いなおすという場合が多い。また仕事着(作業服やエプロン、制服など)もその傾向が強い。こういう物に対して「AIによる需要予測」はある程度有効性があるかもしれない。

けれども、いわゆる「カジュアル」「おしゃれ着」「外出着」などは「AIによる需要予測」が最も効力を発揮できない。

自分の購入プロセスを振り返ってみると、別に購入したい物などあらかじめ決まっていない。当方は特に会社勤めをしているわけではないから、スーツやワイシャツを定期的に買いなおす必要もない。

そうすると年がら年中カジュアルを買うわけだが、スエットパーカのようなドカジュアルを買いたいと思うときもあれば、(着る予定はないけど)カジュアルにも使えるテイラードジャケットを買いたいと思うときもある。

そこに何か「定期的」とか「定量的」という決まりはない。何となくそう思ったり、数日前に会った知人に感化されたり、そういうイレギュラー要素しかない。

メンズはレディースに比べて洋服のアイテム数自体が少ない。夏のカジュアルトップスといえば半袖Tシャツ、半袖ポロシャツ、半袖シャツの3種類しかない。

それでも「6月になったから半袖シャツを絶対に買いたい」なんていうことは思わないし考えない。

一昨年くらいからは半袖Tシャツばかり買っているが、それでも6月に絶対に買いたいとは思わない。半袖Tシャツは山ほど持っているから(かっこいいかどうかは別として)、8月に値下がりしてから買っても何の問題もない。

 

ふと立ち寄った店で、いきなり値下がりしていたから予定もなかったけど買ってしまうとか、店頭のディスプレイを見ていたら欲しくなったから買ってしまうとか、そういう買い方をすることもある。

 

ここではあまりにも煩雑になりすぎるので、記事を紹介しないが、衣料品の購入動機ので「衝動買いをする」とか「買う物を店で決める」とかそういうイレギュラーな買い方をするという数値が異常に高いことを示すアンケート結果は数多く発表されている。

検索しただけでもそれこそ無数に出てくる。

この衝動買いの割合も2割とか3割程度ではなく、最低でも5割弱、高い数値だと8割くらいを占めている。

ということは、5~8割くらいの人の洋服の購入は、統計的に予測できるものではないということがわかる。これを予測できるのはコンピュータではなく勘ピュータであり、それこそ直感や第六感を備えた人間にしか不可能である。

 

トレンドを予測することで需要予測が可能ではないかという意見もあるが、これも難しい。

例えば、「黄色いマウンテンパーカが流行る」という予測が出たとして「黄色のマウンテンパーカなら何でもいい」という人もいれば「特定の〇〇ブランドのマウンテンパーカしか欲しくない」という人もいる。

前者に焦点を当てるなら、別にAIを導入したその店でなくても構わないわけで、それこそ買う側にとって最大メリットのある店を選ぶだろう。買う側にとってのメリットはその人それぞれ異なるが、例えば「一番安い店」というのもあるだろうし「一番ポイントが貯まる店」というのもあるだろう。もしかしたら「お気に入りの販売員が要る店」というのもあるだろう。

また後者に焦点を当てた場合、その特定の〇〇ブランドを扱っていない店なら、いくら「黄色のマウンテンパーカ」を揃えたところで無意味である。

「ノースフェイスの黄色いマウンテンパーカ」が欲しいと思っている人に「アウトドアプロダクツの黄色いマウンテンパーカ」をいくら勧めても買わない。

 

AIによる需要予測というのがアパレル分野ではあまり話題にならなくなってきたというのは、順序だてて考えれば極めて当然の結果でしかなく、喜ばしいことである。

需要予測に限らず、何事においても新技術に対して過大な期待を掛けすぎる風潮が強すぎるように感じる。そんな魔法のような技術はこの世には存在しないのだから、研究を続けることは重要だが、慌てて飛びつく必要性は全くない。

 

 

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 comment
  • Chuck より: 2021/06/02(水) 2:43 PM

    ありがとうございます。。。
    ちょうどワークマンの土屋専務の寄稿を拝見しました。
    AIを(ロジックがブラックボックスのまま)活用しようとするよりも、エクセルをベースに、関数・マクロをあれこれ用いるなどして、自ら汗をかいたほうが、想像力・創造力がたか〇、というお話でした。
    https://diamond.jp/articles/-/267794
    他方、ユニクロのように、ここをガツンと、何らかのハイレベルなモデルを構築して、ブレイクスルーを・・・と狙っている企業もあるようです。
    https://ai999.careers/1298/

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