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南充浩 オフィシャルブログ

「過剰な高品質アピール」は衣料品ビジネスではあまり役に立たない

2021年5月27日 製造加工業 0

このところ、三陽商会のニュースがあちこちで伝えられており、もちろん良い書かれ方ばかりではないが、広報的にはかなり頑張っているのではないかと思って見ている。

復活への模索が伝えられるのだが、その中で時々気になる表現に出くわす。

これはSNS上にいる製造加工業者やファッションこだわり派からも、似たような見解が10年前から唱えられ続けているのだが「高品質」「品質」という文言である。

先日も

 

三陽商会が描く復活の道筋 “百貨店品質”は若い世代に届くか | WWDJAPAN

 

という記事が掲載された。

内容としてはまあ悪くはないのだが、この見出しはあまり良いとは思わない。

 

それでも大江社長は、「われわれの強みはあくまで(百貨店販路を中心とした)アッパーミドル市場。ラグジュアリーブランドほどではない価格で、デザインと品質を両立した商品を提供していく。ここにはまだまだ開拓の余地がある」と姿勢を崩さない。

 

とあり、品質だけではなくデザインとの両立が不可欠という認識を示しているのだが、見出しでは「品質」だけがクローズアップされている印象が強すぎる。

業界メディアも含めたメディアはともすると「品質」を異常にクローズアップしがちな性癖を持っていて、それが逆に衣料品業界をミスリードし続けてきたのではないかと当方は見ている。

 

もちろん、品質は低いよりも高い方が良い。

だが、衣料品の品質というと、だいたいが使用素材、縫製仕様、パターンの細かい部分、などを指すことが多い。

 

しかし、洋服を選ぶ際、最初に気にするのは、色・柄・デザイン・シルエットだろう。

いきなり「この生地の風合いと糸の密度の高さが素晴らしい」とか「この裾部分の縫製のまつり方が素晴らしい」といって、服を選ぶ人はいない。

色・柄・デザインなどの「見た目」で惹きつけられて、その次に縫製や素材という品質に目が行くのが普通だろう。

 

あのピンクのセーターがかわいい

近づいて触ってみる

試着してみる

使用素材や縫製仕様が良いことに気が付く

検討して買う

 

という流れが一般的だろう。

 

洋服においてデザインと品質は両立できていることが理想であることは言うまでもない。

だが、一般消費者が服を選ぶ際、最初に気にするのは色・柄・デザインである。

 

2009年とか2010年、H&M、フォーエバー21、ZARAなどが上陸し(ZARA、フォーエバー21は実は再上陸だった)、ファストファッションブームが起きた。

ブームは今では沈静化したものの、H&M、ZARAは国内で頭打ちながらも一定規模の売上高を維持している。業界関係者にもZARAファンはそこそこいる。

だが、素材、縫製に関していえば、これらの外資ファストファッションの品質は低い。

それでもH&M、ZARAは今でも日本でそれなりの売上高を稼いでおり、それなりのファンを獲得している。理由は何か?

それは洋服を選ぶポイントが「品質」が第一義ではなく、「デザイン」だからだ。あとは価格とのバランスである。

繰り返すが、品質も重要だが、洋服を手に取る最初の理由にはならない。

 

ここを飲み込まないと、百貨店向けブランドも工場系ブランドも売れることは叶わないだろう。

ファストファッション上陸時にも、その前のユニクロブームにも、その前の青山・AOKIブームでも業界関係者もメディアもこぞって「品質ガー」と言い続けてきた。

結果は皆さんがご存知の通り、連戦連敗である。

たしかにフリースブームのころのユニクロの商品は見た目のデザインもダサい物が多かった。ブームの頃の青山・AOKIのスーツはオッサン臭い物が多かったが、この当時の決め手だったのは価格である。

しかし、ファストファッションはデザインと価格が評価され、品質は二の次だったわけである。

 

メディアや一部の業界人、製造加工業者はことさらに「品質」を強調することが多く、「デザインや色柄」を二の次だと断じる傾向が強いように感じるが、その認識ではいつまで経っても彼らの企画する洋服は売れないだろう。多くの工場系ブランドの売上高が伸びずに離陸できない最大の理由は「品質」を推しすぎ、デザインや見た目を二の次に置いているからだと当方は見ている。

 

先の記事に戻ると、はっきり言うと見出しの通りに「セールスポイントが百貨店品質しかない」「最大のセールスポイントが百貨店品質」なのであれば、三陽商会に限らず、他の百貨店ブランドも今後絶対に売れないだろう。

 

品質を優・良・可・不可に分けたときに「不可」は問題外だが、良か可であれば十分で、超高級品でなければ優を目指す必要性はないと当方は思っている。

また、優・良・可でもそれぞれの中には「上・中・下」くらいのランクはあるとして、マス向け衣料品では「良の中」とか「可の上」くらいあれば十分だろう。

その辺りを考慮せずに「品質ガー」と言ったところで、いくら品質が優でも見た目が野暮ったかったら洋服は売れない。

メディア上でもSNS上でも「過剰な品質論争」は衣料品ビジネスにおいてほとんど役に立っていないというのが実態だと感じている。

まあ「百貨店品質」なんて言葉に踊らされずに、三陽商会には売れる手法を考えぬいてもらいたい。

 

 

三陽商会「エポカ」のお高い商品をどうぞ~

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