MENU

南充浩 オフィシャルブログ

繊維業界における商社の役割を初心者向けにまとめてみた話

2021年5月24日 企業研究 1

繊維・アパレル業界にあって「商社」の役割というのは理解するのが難しい。

正直なところ、業界紙に在籍したころは全く理解していなかった。メーカーでもないし小売店でもない。

その後、長いこと生きてきて何となくうっすらと役割をほんの少し理解できたというような感じである。

 

そんな当方に「商社」についての原稿依頼があって、「書きます」と返事はしたものの、そこまでの深い知識はない。プロ向けに書けるはずもないから、昔の当方のような人たちに向けて初心者向けの解説にしようと考えた。

深くは知らないけれど入り口くらいは知っているという人間の役割は、入り口とぼんやりとした全体像を説明することではないかと思うし、それはそれなりにいつの時代もどんな分野でも需要はある。

ガンダムのプラモデル作りのノウハウ本やノウハウ動画は、基本作業についてはどれもこれも同じことを言っている。当然、中級者や上級者は「そんなことは当たり前で知っている」と思うだろうが、ガンプラ製作を始めたばかりの人はその基本作業さえ知らないわけだから、基本作業の説明の需要は常に一定数ある。

まあ、世の中はそんなものだと思っている。

で、指定された事象と字数でまとめたのがこれである。

 

生き残る繊維商社はどこか 相次ぐ統合・買収から考える業界の未来 (fashionsnap.com)

 

商社とは何かなんて、多分、アパレル川下の人は知らない人が多いだろう。もっとも川下の人でも大手流通の経営陣ならご存知だろうが、販売員や現場の人はほとんどわからないだろう。

そういう人の理解の足しになるのではないかと思っている。

 

商社には総合商社と専門商社がある。

総合商社というのは、儲かりそうな商材ならなんでも扱う商社である。「ラーメンからミサイルまで」というキャッチフレーズが昔あった。そんな感じで身の回り品から天然資源から何でも取り扱う。その中に「繊維」「衣料品」も入っている。何年か前のテレビドラマ「不毛地帯」を見ていれば、ドラマ用・小説用に誇張されているが、何となく雰囲気は理解できるだろう。

 

専門商社というのは「特定の商材」を「専門」に扱う商社である。各分野に専門商社があり、食品専門の商社もある。当然、繊維の専門商社もある。

繊維の専門商社の場合、生地問屋、繊維問屋からの出自が多い。

 

アパレルの既製服が生まれたのは1960年代なので、元々の商社の役割は生地や原料の輸出入だった。

1970年代の高度経済成長、1980年代のバブル期で既製服ファッションへのニーズが飛躍的に高まる一方で、明治以降主力産業の一つだった紡績・製糸・生地製造などの川上産業がピークアウトした。

これがどういうことかというと、繊維ビジネスは、素材や生地がメインではなく、衣料品がメインとなったということで、極端な言い方をすると、川上が主ではなくなって従になり、川下が主となったということである。

そのため、商社も生地や原料の輸出入だけでは繊維ビジネスとしては立ち行かなくなった。

欧米ブランド衣料品の輸入だとか、ブランド商標権の所有だとかそういうことにも商社は乗り出すようになった。

 

その一方で、1990年代からブランド向けのOEM(相手先のブランドの製造を請け負う)ビジネスが少しずつ世の中に登場するようになった。

また衣料品市場も90年代でピークアウトし始め、これまでのように商社も生地の売買が伸びなくなった。

そこで、専門商社や、総合商社の繊維部門はOEM生産を手掛けるようになっていく。

特に生地問屋と呼ばれるような専門商社は「生地を売るため」の仕掛けとしてOEM生産を手掛けるようになった部分もある。

これまでのように「生地だけ」では売れなくなったから、「うちの生地を買ってくれたら、プラスアルファの支払いで衣料品も作りますよ」というような具合である。

 

現在、専門商社のヤギ、モリリン、豊島などの主力事業がOEMとなっているのは、そこからの流れがある。

このOEMがさらに丸投げ度合いを強めて「ODM(デザインから生産までを請け負う)」となり今に至る。

もちろん、総合商社の繊維部門もOEM生産(実質的にはODM)を手掛けている。

 

このほか、わかりにくいが商社はファイナンス機能も有している。

例えば、生地メーカーが問屋を通さず、直接にアパレルと取引する場合がある。その場合、関係性が深ければ直接やり取りしていると思ってしまうが、ほとんどの場合、商社が中間に入って決済している。

当然商社には何%か手数料が入ることになる。

国内デニム生地工場と大手ジーンズアパレルの関係性は非常に深い。商品企画についても密接にやり取りをしている。若い頃に驚いたのが、こういう関係性の深さにもかかわらず、商社を経由して売買しているのである。

一見すると「無駄金」に見えてしまう。この何%の手数料を削減できればもう少し製造原価率を下げられるのではないかとも思う。

だが、その一方で、何千万円・何億円という多額の取引の場合、相手が倒産した場合、売掛金が回収不可能になったりすることもあるので、そのための保険という要素もある。

必ずどんな物事にもメリットとデメリットが存在する。これもその一例ではないかと思う。

 

先ほどの原稿にも書いたように、衣料品のOEM・ODMというのは儲けが元々少ない上に、2000年代半ば以降の衣料品の低価格化、リーマンショック・コロナショックによる不況、少数の勝ち組アパレルと大多数の負け組アパレルの格差、などの問題によって、さらに儲かりにくくなってきた。

そのため、繊維部門や専門商社の吸収合併や統廃合が起きており、今後もその流れは続くだろうと考えられる。

特に「繊維以外で儲かる部門」を持っている商社は、今後、繊維部門や繊維事業の廃止や売却ということが続くのではないか。

個人的に考えてみても衣料品で今更、ビッグビジネスを立ち上下られるとは到底思えない。成功を収めたとしてもスモールビジネス、中規模ビジネスくらいだろう。

そうすると、売り上げ規模が巨大な商社からすると繊維・衣料品というのは、めんどくさい割に間尺に合わないということになるのも当然だといえる。

 

この記事をSNSでシェア
 comment
  • ビギナー より: 2021/05/29(土) 10:18 AM

    こんにちは
    テーマのリクエストです。

    繊維商社とOEM業者の違いがよく分かりません。
    私の理解は以下の通りです。

    OEM業者→仲介型と工場型に分かれる。
    注文の流れは、発注メーカー→仲介型→工場型。

    繊維商社→仲介型OEM業者のジャイアント版。
    注文の流れは、発注メーカー→繊維商社→世界中の工場型。

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ