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南充浩 オフィシャルブログ

名選手必ずしも名監督ならず

2021年5月19日 ファッション専門学校 2

かねてより非常勤で講義に通っていた専門学校で今年から「素材」について講義をすることになった。

毎回、当方のトークとパソコンのワードで作ったレジメを配るのもあれなので、文化学園の「テキスタイルハンドブック」というのを教科書代わりに使用している。

 

 

生地名とその特徴が書かれてあって、あと、生地の切れ端が貼り付けてある。

実物の生地を見ながら名前と照らし合わせることができるので、専門学生にも比較的わかりやすいのではないかと思って採用することになった。

 

で、授業開始前にざっと一通り生地名と説明文に目を通したのだが、当初は生地名と説明文の朗読くらいしかやることがないのではないかと高をくくっていた。

ところが、簡素な説明文の中に専門学生では到底わからないような「専門用語」がサラっと使われている。

例えば「40番単糸」「60番双糸」とか「綾織り」とか「平織り」とか。

これはいかんということで、まず、毎回これらの専門用語の解説をしてから、実際に貼り付けられた生地を見てもらうようにしている。

ところが、実はこの専門用語の解説の方が時間が長くなって、生地を見るのがあまり進まない。(笑)

 

前回はこの教科書には書かれていない「天然繊維の種類」と「合成繊維の種類」について話して終わった。(笑)

 

これは文化学園が発行している教科書だが、例えば文化服装学院なんかはどのように授業を進めているのだろうか?

学生たちの表情を見ると、それなりに真剣に聞いてくれてはいるが、イマイチ実感が伴っていない感じがする。当方の話術や進め方が拙い部分もあるのだろうが、実際にアパレルで働いてみないと「単糸」と「双糸」とか「甘撚り」と「強撚」なんて興味と実感を持てないだろうと思う。当方が20歳ぐらいでも同じ反応をするだろう。

 

このハンドブックをどれだけの専門学校が採用しているのかわからないが、このハンドブックで教えられている専門学校生が相当数いるとすると、よく言われるような「素材や糸のことを全く知らないアパレル社員」なんていうのはかなり生まれにくいのではないかと思う。

なにせ、生地を1つずつ見て行くと、必ず説明文に何の注釈もなく「甘撚りの糸で云々」とか「60番手双糸で云々」というような表現が出てくる。

当方の感覚では、こういう単語が出てくるたびに講師が説明をするのだろうと思うが、それをちゃんと聞いていれば、そこそこの知識は身に付くと思うのだが。

 

しかし、現実には「素材のことはまったくわかりませーん」みたいな専門学校卒業生が相当数生まれて、そのままアパレルに就職してしまうのだから、一体どうなっているのだろうか。疑問で仕方がない。

 

で、講師というと「専門家でもないのに教えるのはどうか」という批判が常に業界内に存在する。

コンサルタントやコーチングに対しても同様だ。「企業経営をしたことがないのに」「実績が無いのに」という批判が常にあるが、当方は一概にそうとは言えないと思っている。

これはスポーツのコーチや監督にも同じことが言える場合が多いのだが、「名選手必ずしも名監督ならず」と言われている。

実際に名球会に入るような選手が引退後、コーチや監督になってもさっぱりチームが強くならないことは珍しくない。

これは、自分がプレイすることと教えることとはスキルが異なるからである。

例えばゴルフでもレッスンプロという人がいる。しかし、レッスンプロの人は必ずしも実績のある選手ではない。だが、何度も優勝しているような名ゴルファーがレッスンプロに指導されていることも珍しくない。

レッスンプロはプレイヤーとしては才能がないが、指導することに対しては才能があるということである。

 

企業経営とコンサルタントやアドバイザーも同様だろう。

実際に不可思議な力と運によって成功するアパレル経営者は多いが、じゃあ、この経営者が引退後、別の企業経営を指導しても必ずしもうまく行くとは限らない。

理論構築がなされておらず、説明が下手くそなら、指導された企業はまったく業績が伸びない。

またこの手の直感型経営者は、手掛ける商材によって能力が発揮できたりできなかったりするので、Tシャツメーカーでは成功したが、ジーンズメーカーに行くと失敗したりする。

 

もちろん世の中には机上の空論ばかりと事実誤認のコンサルタントやアドバイザー、講師も少なくない。

アパレル繊維業界にもそんな輩は結構いる。

だが、それを持ってすべてのコンサルタントやアドバイザーが無駄と画一的に判断することもまた違う。

 

話を戻すと、当方は素材や糸のプロではないし、実際に生地を製造したこともないし綿花を紡績したこともない。合繊メーカーの工場でポリエステル糸を製造したこともない。

だが、そもそも繊維や生地についての知識を持ち合わせていない学生に対して「綿花からコンタミを除いて云々してスライバーにかけてどうのこうの」と説明して丸暗記させたところで、意味がないだろうと考えている。

それよりもまず、大きな分類と種類を説明し、覚えさせて、基本的な原理や仕組みを理解させることが重要ではないかと考えている。

アパレル企業に就職すれば、細かなことを知る機会はいくらでもある(逆に知ろうと思わなければ老年になるまで知らないままなのだが)。

そんな感じで、当方は入門編の知識しか持ち合わせていないが、それを説明することが学生の素材理解の一助になるのではないかと、そんなふうに考えている。

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2021/05/19(水) 1:59 PM

    私に損害賠償請求してる某有名経営コンサルタントは、自分でもダスキンの代理店をやってて、「当社には経営の現場がある!経営経験の無いコンサルタントとは違う!」なんて売りにしてますが、そういう謳い文句に結構コロっと騙されちゃう中小企業の経営者さんは多いようす。そのコンサルは現在750社もコンサルタント契約してて、その会費だけでも1社あたり年に30万円なので合計2億2千500万になり、ほとんどが利益として入ってきちゃいます(会員特典で毎月のDVDとか会報とかはあるようですが)。でも、そんなコンサルを信奉していて、100万円以上のセミナーを年に何回も受けて年間数千万円貢いでるような会社でも赤字で潰れちゃったりしてるんで、やっぱり人に教えるのは自分で経営するのとは違うスキルが必要なんですよね。口八丁で稼げる人は羨ましいなぁ。ちなみに訴訟の方は、私の口八丁のほうが代理人弁護士より上回ったようで、賠償金無しで和解に持ち込めそうですw

  • 柳沢和彦 より: 2021/05/23(日) 7:55 PM

    閣僚は専門知識がある人が担当して欲しい。大臣になってから勉強するのではなく、あらかじめ各ポストの試験を合格した人のみが職務に就ける制度にした方が、官僚の作成文章しか発言出来ない発信力の乏しい会見も減るだろう。
    防衛関連に就きたい人は、3か月位自衛隊に体験入隊も必要ではないか?
    シビリアンコントロールで難しいが、本来防衛大臣は各幕僚長が交代で就くのが筋では?

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