
「染め直し」衣料品ビジネスの難しさ
2021年5月7日 トレンド 0
最近、洋服のリサイクルとして「染め直し」に言及されることが増えた。
しかし、この「染め直し」は過去の経緯を見てもなかなかビジネスとしては成立しづらいといえる。また「リサイクル〇〇」という原料のリサイクルについても、回を重ねるごとに品質が劣化するため無限リサイクルは成立しえない。この点をリアルに解説し、発信してくれる「川上」業者がほとんどいないことは我が国の繊維産業にとっては不幸なことだと言わざるを得ない。
ほとんど「理想的解決策」のような発信をしている人は、原料や製造加工についてはド素人に等しい「川下」業界人である。
着古した服、不良在庫化してしまった自社の服を染め直して再販売するという発想は、実は10年くらい前からあり、あちこちで試みられてきた。
最も、大手が取り組んだプロジェクトというと良品計画の「RE:MUJI」だろうが、残念ながらビジネスとしては採算ベースには乗らなかったようで、店舗数はあまり広がっていない。現在はBRINGというプロジェクト名の一つとして変更され、燃料として加工されるか染め直して売られるかという感じになっている。
これ以外にも零細小規模業者が取り組んだ事例もあるが、太いビジネスにはいずれも至っていない。
理由は、染め直すと「工賃」が新たに発生し、古着や不良在庫品なのに販売価格が高くなってしまう点にあるといえるだろう。
「染め直しのリサイクルで安く」ということは、原則として「工賃」が新たに発生する時点で、成立不可能なのである。
そして、その出自が古着、不良在庫品なら、高値販売が嫌われるのはなおさらである。
新品より安く売られることが魅力の古着、定価の価値はなくなってしまった不良在庫品、これらが高値で売られることに対して抵抗感を持たない消費者は数少ないだろう。
当方は、工賃の仕組みがおぼろげながら分かっているから理解はできるが、買いたいとは思わない。
元が低価格品であればなおさら、定価よりも高い販売価格設定、定価と同等の販売価格設定は受け入れられにくい。
例えば、1900円で買った無印良品のシャツが染め直しの工賃を上乗せされて、2900円で売られていたらどうだろうか。
「環境のためニー」と言いながら喜んで買っていく人はほとんどいないだろう。よほどの環境マニアだけだろう。
この「染め直し」品の販売が成立する市場があるとするなら、高額品の染め直しだけではないかと思う。
例えば、旧知の東大阪の染色加工業者の福井プレスが「染め直し屋」というサービスも行っている。
洋服再生計画は染め直し屋 | 福井プレス/東大阪・石切 (somenaosiya.jp)
過去に何度か取材兼雑談をさせてもらったこともある。
料金は、基本料として1色5000円、それに重さ100グラムあたり300円プラスということになる。
100グラムの服を黒一色に染め直してもらうとして、5300円がかかる。200グラムの服なら5600円ということになる。(素材や仕様によって値段はさらに上がる)
単純に考えると、最低でも5300円かけても再生したいと思える服以外にこのサービスを使おうと思う人はいないだろう。
定価が最低でも9800円くらいした服でないとこのサービスを頼む必要性がない。その低価格品が母の形見だとかそういうよほどの事情でもない限り、990円とか1990円で買った低価格品を5300円もかけて染め直したいと思う人はほとんどいないだろう。
はっきり言って、990円で買った服なら染め直すより新しく買いなおした方が安くつく。
だから、ここに持ち込まれる服は、バーバリーのトレンチコートに代表されるような高価格帯のブランド品が多い。
この問題に対してある程度の解決策を打ち出していたのは2010年にスタートした「RE:MUJI」だった。
回収した自社の古着を紺色だけで染め直して、一律2900円で販売する。
回収した自社の古着だから、仕入れ原価はタダである。タダで手に入れた古着を紺色に染め直すから工賃を乗せても2900円で販売できれば、恐らく何割かの粗利益が残る。
そして販売価格2900円というのは、低価格品としても成立しうる範囲の価格設定である。
ビジネスモデルとしては完璧ともいえる設計だったが、10年が経過してもそれほど広がらずにいる。
アダストリアは昨年夏から、不良在庫品を黒に染め直した新ブランド「フロムストック」を開始したが、正直なところ、スタート当初以降それらしい評判を業界内では耳にしない。
恐らくは、評判になるほどには売れていないのではないかと推察される。
自社の不良在庫品を黒に染め直すという考え方は「RE:MUJI」とほぼ同じだ。販売価格がTシャツが4000~5000円、ボトムスは7000~9000円となっているのが、ちょっと微妙に感じる。高すぎるとは言わないが、低価格で買いやすいとも思わない。
まあ、細々と続いていけば良い方なのではないかと思う。
また原料のリサイクルにおいて、ペットボトルをポリエステル化し、そのリサイクルポリエステルを使って生地を作り、それを服にするという試みが増えてきたが、実は20年前から存在する。
リサイクルポリエステルの欠点は、通常のポリエステルに比べて硬くて品質が悪いという点にあった。今はアルテ度は改良されているようだが、それでも通常のポリエステルには追い付いていないだろう。そして再加工する分だけ工賃が発生するため、価格は高くなる。
そして、ポリエステルはリサイクルすればするほど品質は劣化していくので、永久リサイクルは不可能で何度目かには捨てるほかない。
ウールの製品を砕いて再び生地にする「はんもう」という手法もあるが、これも生地の品質としては大幅に劣化する上に工賃が発生するため「安値」では販売できない。某在庫処分業者がはんもうのウールニットを製造したが、買った人から「かゆくてたまらなかった」という報告を受けており、品質と価格のバランスを考えると、マス層からは支持されにくいだろう。
これらは、いずれもリサイクルの手法の一つとしては必要不可欠といえるが、
1、販売価格の高さ
2、品質の低さ
という2つの大きな欠点を抱えており、一挙にマス層に浸透することは難しいのが現状だと言わざるを得ない。
問題を一挙に解決出来得るような「魔法の杖」などではさらさらなく、今後も地道な研究と開発を続けた上で、10年後・20年後にある程度の向上が果たせるというのが、現実的だろう。