MENU

南充浩 オフィシャルブログ

産地が立ち上げたオリジナルの洋服ブランドのほとんどが成長できない理由

2021年4月20日 製造加工業 0

生地産地とデザイナーのコラボというのは、新しいように見えて結構古くからある取り組みである。

自分が業界紙記者になった24年前からすでにあった。

 

デザイナーズブランドに産地が生地を供給するというスタイルと、

産地が独自の製品ブランドを立ち上げてその製品デザインをデザイナーが手掛ける

 

という2種類があった。

どうだろうか?この2種類でビジネスとしてある程度成功している事例がどれほどあるだろうか?皆無とは言わないが。

四半世紀もやり続けてそれでいて、いまだにほとんど成果が上がっていないということは、根本的に取り組み方が間違っているのではないかと思う。

 

ブランドへの生地供給については、恐らくは継続的な情報発信が欠けているのではないかと思う。

ありがちなのは、スタート当初だけ大々的に業界メディアに告知して、そのあとの告知が一切なくなることである。発信側からすれば「一度発信しているからもう大丈夫だろう」と思いがちだが、業界メディアとて日々様々な企業の動向を追っているから一産地の取り組みなんかを何年間も覚えているはずがない。一般メディアに至ってはさらに覚えていない。

かくして、初回だけ大々的に告知されて、その後はすっかり忘れ去られるというパターンである。

この24年間このパターンは死ぬほど見てきた。

重要なことは告知を継続することである。毎回はニュースに採りあげられなくても、何度かは報道される。それを狙うべきである。

 

次に、産地がオリジナルで製品ブランドを立ち上げ、その製品のデザインをデザイナーに依頼するというケースだが、有名デザイナーも珍しくないが、世間的には無名デザイナーである場合も多い。

産地というのは生地作りしか基本的には機能がないことが多いから、オリジナルの製品を作るならデザイナーに依頼するという考え方は、当方のような外野からしても納得しやすいが、実はこの発想が間違いなのではないかと最近思うようになってきた。

 

製品のデザインが必要だからデザイナーに依頼する

 

これは一見すると正しいことのように感じる。もちろんだれかがデザインをしなければ製品は出来上がらない。実は稀に、産地のオッサンが自分の家族や親戚にド素人にもかかわらず、デザインをさせる場合がある。これは製品ビジネスを舐めた発想で、全く売れない。

ド素人へのデザイン依頼は論外だとして、有名無名を問わずデザイナーであるなら、ある程度はまともな製品デザインができる。しかし、24年間の結果として、ほとんどが売れていない。開店休業状態の産地ブランドも珍しくない。開店休業でなくても売上高は細々と低空飛行というブランドは掃いて捨てるほどある。

 

どうしてそうなるのかという原因について、誰からも頼まれもせず依頼もされないのに勝手に考えてみた結果、マーチャンダイジングが欠落しているからではないかと、最近思い当たるようになった。

たしかに製品のデザインは重要である。当方もデザインの力を否定しているわけではない。

 

しかし、衣料品やそれに類するファッション雑貨(ストールや靴、バッグなど)となった場合、単品のデザインだけでは商品は売れないし、ブランドとして継続することは難しい。

世の中に単品ブランドは存在する。製品ビジネスをやったことがない産地という集まりは、総合的なコーディネイトブランドよりも単品ブランドから着手した方がまだやりやすいだろう。

単品ブランドなら製品デザインだけで何とかなると考えるかもしれないが、1シーズンか2シーズンだけで売り切って終わるなら、それでもある程度は通用するだろう。(発信やプレスなども噛み合ったとして)

だが、何シーズンも続けて行くつもりなら、単品のデザインだけでは限界が来る。

単品のデザイン変化なんてバリエーションも知れていて、何シーズンか経過すればいずれは焼き直しやリライトみたいな「一度見た感じ」のデザインにならざるを得ない。

そうなったときに、それでも買いたいと思わせるほどのブランド力が、産地企業にあるだろうか?当方は経験的にほとんどないと見ている。

 

単品のデザインを向上させることも重要だが、それにのみ依存するということは、一発必中の狙撃みたいなものであり、甚だ効率が悪い。

単品でもそうだが、デザインだけではどうしようもなく、ブランドとして売り続けたいなら、例えば春先はジージャン、その後はシャツ生地くらい薄くしたジージャン、夏場は半袖シャツ、秋にまたジージャン、その後の冬は中綿入りにする、というような展開が必要になる。

〇〇デザイナーがデザインしたジージャンだからといってそれを年柄年中売り続けても春と秋以外はほとんど売れない。

そういう品揃えの調整を行うのは、デザイナーではなくマーチャンダイザーだろう。

極端な言い方をすれば、「カッコイイジージャンを作ってくれ」という依頼にデザイナーは対応できるが、「何シーズンも継続できるジージャンブランドを考案してくれ」ということになるとマーチャンダイザーが専門だろう。

 

もちろんマーチャンダイザーの仕事は品揃えだけではない。適品・適量・適価・適所・適時の五適をコントロールするのがその業務なので、品揃え(適品)や投入時期(適量)だけでなく投入量(適量)も合わせて判断する。そして、これなら売れるという価格を決定(適価)し、売れる販路で売る(適所)を考える。

もちろんこの能力を持ったデザイナーもおられるだろうが、依頼するときに「デザイン」を依頼するのか「マーチャンダイジング」を依頼するのか、ではそのデザイナーが発揮する能力が変わってくる。

当方なら、デザインを依頼されたらデザインしかしない。恐らくほとんどのデザイナーも同じだろう。

 

だから、業務を依頼する産地側にマーチャンダイジングという概念が欠如していることが、四半世紀もやり続けていまだに産地ブランドが浮上できない根本的な理由ではないかと思っている。

今後、産地ブランドを立ち上げる際の参考にでもなれば幸いである。

 

 

 

MDといえば、マサ佐藤氏の初期の著書を入門編としてどうぞ~

この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ