マーチャンダイジングがおろそかなアパレルは必ず破綻する
2021年4月21日 ネット通販 1
異業種がアパレルに参入するのと、アパレルが飲食に参入するのは、だいたいが失敗に終わる。
異業種経験者が参入するのは、まだしも、ちょっと売れた企業が「横展開」とか言って、アパレルや飲食店に参入するのはほぼ失敗に終わる。
このコロナ禍で、不振業種として挙げられるのが、旅行、飲食、アパレルで、そこにどうして今の時期に「わざわざ」新規参入したいのか理解に苦しむ。
コロナが収束してからでも良いのではないかと思う。
先日、在庫処分の相談をチラっと見かけた。
インテリア系の異業種が「アパレルに参入しようとしたけど失敗した」とのことで「1000枚の在庫を引き取ってもらいたい」ということだった。
まあ、1000枚くらいならそう大きな痛手ではないだろう。個人経営ならそうではないだろうが。
商品を見ていないし、なんとも言えないのだが、失敗に終わった原因の一つは、チラっと概要を聞いただけで察することができた。
1000枚の在庫と言っても、その中身である。
例えば、5型を200枚ずつ(サイズ込み)作っても1000枚だし、1枚ずつ1000型作っても1000枚である。
通常のアパレル経験者なら、1000枚作って仕掛ける際、型数はどれくらいを想定するだろうか?恐らく5型200ずつとか、10型100枚ずつくらいではないか。
たかが1000枚程度の製造量で、20型(50枚ずつ)以上に型数を増やすことは危険であるということは、ド素人の自分でも想像できる。
何よりもたかが1000枚程度の製造量で20型以上に型数を増やすのは、管理も煩雑になるばかりでなく、国内生産だとすると縫製工場のミニマムロットに引っかからなくなって、縫製コストが上がる。利益の確保云々以前に、値段を抑えて売ることが不可能になる。
高い物を売ればいいという声が聞こえるが、ネームバリューのない新参アパレルが高額な商品をいきなり販売しておいそれと売れるはずもない。
知名度のない新参者が高額な商品を販売するためには、高度な販促テクニックやブランドの組み立て、広報活動などが必要になる。何の気なしにネットにアップすれば売れるというわけではない。
そういえば、フォロワー何万人のインフルエンサーでもプロモーションを依頼すると160枚くらいしか売れなかったという話もある。インフルエンサーへの過度の期待は無意味である。
しかし、この1000枚の在庫はなんと70型くらいあるのだという。1型あたり10数枚ずつの在庫である。
これでは失敗するのも当たり前だろう。
生産数量が10数枚というのは最初は手探り状態なので高くついても仕方がないと思うが、70型は多すぎる。管理が煩雑になる。
もしかしたら、この新参アパレルはネット販売を主体にしていたのかもしれない。
ネット販売は型数が増えやすい。理由はいくつかある。このあたりは専門である深地雅也さんにでも尋ねられた方が正確だろう。
素人なりにいくつか挙げると、
1、陳列スペースが理論上無限にある
2、通販モールの中には型数を増やしたり色数を増やすと上位に表示されやすくなるところがある
というのがある。
とはいえ、70型で10数枚ずつというのは、製造から考えても販売から考えても愚策である。
素人だから、型数を増やした方がいろんな客に対応できると考えたのだろうか。それを実現すると資金の関係上10数枚ずつという生産数量になってしまったのだろうか。
自分もド素人なので、そう考えたくなるのは理解できるが、経験的にそれは悪手だということも理解できる。
では何が欠落していたのかというと、マーチャンダイジングである。
マーチャンダイジングとマーチャンダイザーが圧倒的に欠落していたのだろうと思う。ここでいう「マーチャンダイザー」とは、社内の役職ではない。役職だけなら社内にいたのかもしれない。
しかしそんなものは、「肩書だけデザイナー」とか「肩書だけライター」「肩書だけプロデューサー」などと同じであり役には立たない。
前回のブログでも触れたように、製造加工業がオリジナルブランドを立ち上げる時に圧倒的に欠けているのがマーチャンダイジングである。それ以外にも欠けている場合も多々あるのだが(笑)。
で、この新参業者も同じで、マーチャンダイジングの「適量」がまったく考えられていない。
10数枚という枚数はたしかに自社の販売の実力に見合った物かもしれないが、70型というのはどうだろうか。70型全てがある程度完売できると思っていたのだろうか?
1人のお客が一体、自社で何型買うのか?トータルコーディネイトで1人で平均5~6型買うだろうか?
それは新参ブランドにはなかなか難しいと当方は思う。
それが簡単にできるのなら、アパレル各社の売上高はもっと伸びている。
結局のところ、アパレルビジネスにおいては、物自体の品質やデザインも重要だが、マーチャンダイジングがことのほか重要だということがわかる。
恐らくは過去のファッションビジネスでは、ブームになった単品やスタイルに特化して大量投入すれば、それで売上高が作れたし、在庫は最終的にブームの終盤で投げ売りすれば捌くことができた。
だが、2010年以降そんな消費行動は日本国内においては存在しない。
もちろん、プチブームになった商品や人気のスタイルはある。しかし、過去のような売り方では売れないし、一歩誤ると在庫過多になってしまう。
過去に比べるとマーチャンダイジングの必要性が特段に増しているといえる。
そのため、本来は専門でない経営や戦略担当のコンサルタント諸氏までがマーチャンダイジングのコンサルとして参入しようとしているのだろう。まあ、そのカネに対する嗅覚は素晴らしいものだとは思うが(笑)。
そんなわけで、自分も含めてアパレルに携わる人、携わろうとする人は単品アイテムやスタイルに特化して考える志向が強く、趣味の分野ならそれでもかまわないが、洋服を売ってビジネスをするにはしっかりとしたマーチャンダイジングを身に付ける必要がある。
今年の2月くらいに某大手セレクトショップがクラウドファンディングで「ジャケットの襟元を汚さない襟高が高いTシャツ」みたいなものを売っていて、なんか良さげだと思って参加しちゃいました。で、そのTシャツは何を思ったのか、色10種類、サイズXS~XLまでそれぞれ細身、太身の2種類で合計10種類で、色とサイズを掛けると100SKUという素人から見ても大丈夫なんか?というものでした。結果はどうなったかというと、申し込まれた枚数は合計2,095枚で合計890万円、3月末までに届く予定が4月も終わりが見えて暑くなってきた今日この頃なのに、未だに届いていませんw
言い訳としては「コロナ禍で工場の稼働が正常でなく、ミャンマーのクーデターもあって他の工場からの受注が増えて云々」みたいなことを言ってますが、たぶん単に100型もあって対応できてないんじゃないかと邪推してしまいます。買った人も「暑くなって長袖Tシャツとか送られても着ないからキャンセルしたい」とか掲示板に書いてて、何とも大変そうですw