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南充浩 オフィシャルブログ

高額な「こだわりの衣料品」が大量に売れることはない

2021年4月19日 製造加工業 0

10年くらい前から繊維の製造加工業者がオリジナルブランドを発売することが増えた。

ちょうどツイッターやフェイスブックといったSNSが広まり始めたころでもある。SNSの普及とともに発信も容易になったので、これを機会に製造加工業者の生の声が発信されるようになった。

製造加工業者と一口に言っても多数だし、考え方もそれぞれ違う。

とはいえ、製造加工業者に多いのが、洋服の安さを嘆くというスタンスである。しかし、自分はこの心情には理解できるものの、賛同はできない。

なぜなら、彼らの主張は極めて非現実的なものが多く、居酒屋の愚痴程度でしかないからだ。

居酒屋の愚痴は酔っぱらっていることもあってその場で終わるが、SNSの発言は素面なだけにタチが悪いと感じる。

まず、低価格衣料が多いのは日本だけではない。欧米もしかりだが、中国だって内地向けの低価格製品は数多く出回っている。

ただ、特筆すべき点があるとすると、日本は低価格でありながらそこそこ品質がマシなブランドが多い点ではないかと思う。

ユニクロやジーユーは置いておいても、パレモとかハニーズとかウィゴーとか、世間一般的に評価されていない低価格ブランドでもそれなりに品質はマシである。

以前、アメリカの某ワーキングブランドのアメリカ市場向けの3000円くらいの商品を見せてもらったことがあるが、生地はチープだし、縫製はもっとチープだった。

同じ価格帯の日本ブランドとは品質において雲泥の差があった。

 

製造加工業者の多くは、「こだわりの〇〇」を看板にして高価格で売ろうとしている。

それ自体は間違いではないが、彼らの想定している数量は「こだわりの〇〇」だけでは到底売れない。生地とか縫製とか製法にこだわっているのはわかるが、パレモやウィゴーやハニーズといったクラスのブランドでも生地は粗悪ではないし、縫製は丁寧である。アメリカのワーキングメーカーとは比べ物にならない。

そうなると、日本人の消費者からすると、「わざわざ高い商品」を買う理由がほとんどない。

着用できるというレベルではなく、そこそこまともに見えてしまう。

 

「低価格品ガー」とわめいている国内製造加工業者の多くはこの視点が著しく欠けている。

もちろん、自分の商品だからできるだけ高く売りたいという気持ちは理解できるが、それは世間には通用しない。当方だって原稿料を1回20万円くらいもらいたいが、残念ながら世間からすると当方にその価値はないし、そんな知名度もない。

それくらいの自覚はある。

原稿料を圧倒的に高くしたければ、それこそ当方がもっと著名人にならねばならないが、その力量はない。

 

製造業者が作る衣料品は高額な物が多いが、まったく売れないわけではない。

それこそクラファンでもすれば、上手く告知できれば100人や200人くらいは買ってくれる。だが1000人、5000人、1万人が買ってくれるかというと、よほどの工夫を凝らさないと無理である。

工夫を凝らす、ブランドステイタスを上げる。そういう取り組み無しに「こだわりの〇〇」だけでは高額な衣料品が多数売れるはずもない。

 

世の中には高額なブランド品が多数売れるという事象が時々起きることがある。

例えば一昨年のカナダグースのダウンジャケットなんていうのはその典型例だろう。10万円のダウンジャケットを8月から行列を作って買ったというのがニュースになったが、その翌年はどうか?

もうそんな行列はできていなかった。

言ってみれば、10万円のカナダグースが欲しい人の総数はその時に並んだのが全てだったということになる。欲しい人に行きわたってしまえば終わりである。

 

そうでない人は、別に高額な宝くじでも当たらない限りは欲しいとは思わないのである。本州の九州から関東くらいにかけて住んでいる人にとっては、カナダグースほどの保温性は必要なく、いろいろなブランドから発売されている1万円前後のダウンジャケットで十分だからだ。

極地での活動をするなら別だろうが、都市部への通勤生活をするくらいなら、ユニクロのハイブリッドダウンジャケットくらいで十分である。

ブランドに興味がなければカナダグースを買う必要もない。

 

こだわりの製造が云々で、一日に〇〇枚しか製造できないと称する服もあるが、それで生活するには一体いくらの販売価格にするつもりなのだろうか?

一日に30枚として月に20日働いたら、600枚の製造ができる。

600枚を販売して生活するとするなら、どうだろうか、1枚当たりの販売価格は最低でも1万円くらいにする必要がある。

 

この衣料品の種類にもよるが、中軽衣料(Tシャツ、シャツ、ポロシャツなど)で1万円の価格というのはすごく売りやすい価格帯ではない。600枚すべては売れないだろう。

また600枚売れるとしても毎月売れることはない。最初の1か月かせいぜい長くて2カ月か、そのくらいである。

 

それは別に日本人が安物が好きなせいでもないし、経済的に低迷しているからでもない。

逆にそういうことを声高に主張している製造加工業者は自分が使っているすべての商品に低価格品は含まれていないのか?100均で文房具類を買わないのか?100均で日用生活品を買わないのか?

甚だ疑問である。

「衣料品はほかの商品とは異なる」と主張する衣料品至上主義者も時々見かけるが、まったく賛同も理解もできない。衣料品とて他の商材と同じである。逆に衣料品至上主義にとらわれている限り、マス層に売れることはないだろう。

 

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