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南充浩 オフィシャルブログ

国内市場で衣料品・ファッション雑貨のD2Cブランドが広まりにくかった理由

2021年4月16日 トレンド 0

以前にも書いたことのリライトになるが、3年か4年前にD2Cという売り方を聞いた時、正直に言うと、ちょっと何を言っているのか理解ができなかった。

D2Cの紹介としては

 

「中間業者を排除することで割安で高品質な商品を提供する」

 

というものが主流だったからである。

他の分野についてはわからないが、こと衣料品とそれに類するファッション雑貨品に関していえば、中間業者が介在しているかどうかは別として「割安で高品質な商品」というのは、日本市場に20年くらい前から溢れかえっているからである。

だから、イデオロギー先行型の大手メディアに「これが新しいんだ!」と言われたところで、「20年前からたくさんありますが?」という反応しかできなかったわけである。

衣料品のエポックメイキングといえば、98年のユニクロのフリースブームだろうが、それ以前にもすでにメンズスーツでは青山、AOKI、はるやま、コナカ、フタタなどのロードサイド低価格チェーン店が全国的に店舗網を広げており、90年代前半には、オッサン向けビジネススーツとしては「割安でそこそこマシなスーツ」というのが大量に出回っていた。この当時はシーグラーとかスリーエムなんていうチェーン店もあったが。

メンズスーツでいうと、99年にオンリーが「ザ・スーパースーツストア」で開始したツープライススーツショップもそれに属するだろう。こちらは若手社員向けのトレンド型ビジネススーツが主流に揃えられており、これによってスーツは2万円弱~3万円弱で買える物となった。

スーツに対して一家言ある人々からはいろいろと言われることもあるが、ビジネス作業服としてスーツを着用するマスの若手サラリーマンからすればこれで十分という商品である。

 

カジュアルでいえば、80年代の無印良品にその源流は求められるのかもしれないが、一般大衆にまで拡大できたのは間違いなく98年のユニクロブームだろう。

ただ、当時のユニクロは微妙な出来の商品が多かったので、ここが完成形ではなく、むしろスタート地点になったと言うべきだろう。

2004年から始まったユニクロファッション化によって徐々にレベルアップしていったというのが実態だと当方は見ている。

デザイナーズインビテーション(期間限定のデザイナーズコラボ)を経て、2009年の+J開始によって、生地や縫製の品質だけではない、ある程度のファッション性とブランド力も培って今に至る。

 

たしかに80年代後半のDCブーム時には、高額なDCブランドとスーパーマーケットの低価格衣料品には、品質だけでなく、デザイン・シルエット・色・柄などの「見た目」にも天と地ほどの差があったが、バブル崩壊以降の企画と製造のノウハウの大規模流出が起き、2000年代後半にはその差は大きく縮まっていた。

 

そんな環境がすっかり定着した日本において、2017年くらいに「これからはD2Cだ。割安で高品質な商品を!」と言われたところで、売り方や概念は別として、「すでに日本にはそんな商品だらけですけど?」としか思えなかった。

イシキタカイ系業界人とイデオロギー系メディア人、自称イノベーターを除いた一般大衆も恐らくは当方と同様の認識だろう。

 

最初から最後までピンと来なかった「D2C」という概念 – 南充浩 オフィシャルブログ (minamimitsuhiro.info)

 

これが、前回も書いたD2Cが我が国の一般大衆にはほとんど響かなかった理由だろう。

メガネに関してもゾフ、ジンズ、オンデーズの3社が店舗網を全国展開している時点で、すでに高品質で割安な商品が誰でも買える状態にある。

アメリカでD2Cメガネが話題となったのは、アメリカに高額なメガネブランドしか存在しなかったことが最大の理由である。

メガネというのは、ファッション性もあるが、同時に視力を補う医療器具でもある。そのため、オンデーズ社長の著書「破天荒フェニックス」にも書かれているように、各国でその扱いや取り決めが異なる。より医療器具に近い扱いをする国もあるから価格が高止まりすることも仕方がないといえる。

 

低価格高品質な衣料品といえばユニクロというイメージがあるが、苦戦続きでイメージもさほど高くはないがスーパーマーケットの衣料品も決して侮れない。

ふと西友で、岡本がライセンス生産しているアシックスの3足組のスポーツソックスを買った。

3足組の定価は970円だが、これが税込み770円に値下がりしていた。1足当たりの値段はわずかに257円弱である。ユニクロの靴下の定価は1足390円で3足だと990円になるから、定価で比べた場合は西友が仕入れているスポーツブランドソックスの方が20円お得である。

 

 

 

当方が買ったのはフィット感重視と書かれているが、このほかにも「吸水速乾」だの「つま先とかかとを分厚くして破れにくくしました」だの「保温」だの様々な機能性靴下がスポーツブランドの名前で発売されている。

アシックスは岡本が、ニューバランスはレンフロジャパンが、アディダスは福助がそれぞれライセンス生産している。

買った岡本製アシックスを着用してみると、かなりのフィット感があり、編地も悪くはない。257円なら十分すぎるほどのクオリティである。

わけのわからないD2Cブランド靴下よりも、アシックス3足組970円の靴下の方がよほど割安で高品質だといえる。

 

こういう商品を日常的に手軽に買える日本国民にとって、D2Cというのはひどくわかりにくい。このビジネスモデルが成立するアメリカという国の市場は、高品質な高額品と安かろう悪かろうの低価格品という構造になっているからではないかと思う。

これを無理押しして、声高にアピールするからますますわかりにくくなるし、山師からすると「儲かりそうな新しいキーワード」と映るから、「韓国仕入れの意味不明なD2Cブランド」とか「大手メーカー・大手商社が開発したD2Cブランド」なんていうものが多数現れ、カオスな状態となり「D2C=わけわからん・胡散臭い」という構図が成立してしまうことになったといえる。

 

前回も引用したD2C業者が説くように「D2C=作り手と消費者が一体感を感じられる」という点がキモだとすると、D2Cとはミニコミュニティ以外では成立できないビジネスモデルということになり、今後、日本市場で残れるのはそういう小規模なD2Cブランドだけだろう。D2Cでビッグブランドを目指すというのは、衣料品とファッション雑貨に限って言えば、日本市場ではほぼ不可能で、力説すればするほど錬金術な胡散臭いブランドという見え方になっていくと考えられる。

 

破天荒フェニックスをどうぞ~

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