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南充浩 オフィシャルブログ

最初から最後までピンと来なかった「D2C」という概念

2021年4月15日 ネット通販 1

昨年から始まったコロナ休業によって、繊維業界では、素材メーカーや縫製工場、染色加工場によるオリジナル品のネット直販が増えた。

増えたというより、実店舗が長期休業した上、再開後も2019年並みの売上高に戻らない状況としては製造加工業者としては自衛目的としてオリジナル品の直販を増やさざるを得なかったというのが実情である。

2019年までなら百貨店やファッションビル、専門店などでの期間限定販売が常套手段だったが、コロナのために実店舗の集客力がそこまで見込めないとなると、ネット通販から始めるというのも極めて当然の流れである。

また製造加工場だけでなく、アパレルと製造加工場の仲介を行っている商社もオリジナル品のネット直販に乗り出してきた。

それもまた当然である。

 

しかし、それなりに収益を上げている工場や商社もあれば、まったく売れていないところもある。

 

これらは一様に「流行りのD2C」を名乗っている。

このほかにも個人が始める「D2C」も乱立している。衣料品と服飾雑貨品でいえば、企画・製造ノウハウは業界全体に広まり切っているから、カネさえ払えば誰でもオリジナル品が作れる状態にある。売れるかどうかは別にして。

だが、オリジナル品をOEM屋・ODM屋に企画・生産してもらった個人ブランドが「D2C」を名乗るのはまだしも、韓国の東大門市場、中国の広州市場で買って来た商品を「D2C」と名乗るのはいかがなものか。全然ダイレクトではない。

それなら、プロルート丸光などの現金問屋あたりで仕入れてきた商品をネット販売してD2Cと名乗るのも構わないということになる。

全然ダイレクトでも何でもなく、自身が仕入れ業者である。

 

D2Cという言葉を当方が聞いたのは4年くらい前になるだろうか。

イノベーターではない当方は、だいたい「早い人」に教えてもらう。逆に自分がイノベーティブになりたいと思ったことはまったくないし、これからもなりたいとも思わない。

direct・to・consumerを略してD2Cという。

2017年に出版された「誰がアパレルを殺すのか」にはアメリカの例がいくつか掲載されていたが、正直当方にはピンとこなかった。

それはある程度の企業規模になった例が紹介されていたからではないかと今にして思うのだが、数百億円規模に成長した事例を見せられても、当方からすれば「それってネット通販専用のSPAとどう違うの?」という感想しか持てず、いまだにそれとの区別がわからないでいる。

 

最近になると、製造加工業者や商社、個人から「D2Cやりたいんですよ」という謎の相談を受けることがちょくちょくある。「やってみたらええがな」としか当方には言えない。

なぜなら、実店舗を出店すると、費用云々はさておき、多くの人手が必要になる。自身がメインで売り場に立つにしたって、1人切りで365日の店舗業務を回すのは不可能なので、販売員が最低でも他に2人は必要になる。その2人を確保するというのはなかなかに大変なことだが、ネット通販なら、サイトの構築などは外注するとして、運用なら当面は自分一人でできる。自分一人でできることなら「やるか、やらないか」を自分が決めるだけでスタートできる。一々何を相談してきているのか理解不能である。

 

まあ、しかし、そんな意味不明な相談が当方ごとき業界の底辺の個人事業主に複数寄せられる時点で「D2C」という言葉そのものが陳腐化しているということがわかる。

定義も曖昧になり、紛い物や詐欺師スレスレが多数紛れ込んでいる実情からすると「D2C」という言葉には、イノベーターが注目したころの輝きが完全に失せたということだろう。

だから、当方はメディアやイシキタカイ系がD2Cを連呼する状況を冷ややかに4年前から見ていたのだが、D2Cをやっているご本人までが否定的な見方を示すようになり、逆にこの人に好感を持った次第である。

 

もうD2Cは死語。さよならD2C。|小林百絵 / 台湾発 漢方のライフスタイルブランド DAYLILY|note

 

この座談会の中で、「D2Cってもう死語ですよね笑」と言ったのですが、もちろんD2C特集なので使われることもなくオクラとなりました。けれど正直、世間もすでにそう思っているのではないかなと思っています。

一昨年くらいから「D2C」という言葉が一気に使われはじめ、昨年はたくさんの本がでて、D2Cが「ビジネス手法」としてあまりにも擦られすぎてしまったように私自身は感じています。

そして、店舗を持たずにオンラインだけで販売することや、VCから資金調達をし、広告費につっこみ売上を爆速で上げるやり方、はたまたデザインの系統まで様々な解釈(誤解)が生まれ、それに倣って生まれたよくわからないD2Cブランドがたくさん生まれ、もう完全にカオスです。

 

とあり、外野から眺めていた当方でさえ、ウンザリしていたのだからある程度真面目にD2C活動をされていたご本人からすると当然の感想だろうと思う。

 

そんなこともあって昨年くらいから、もうD2Cと呼ばれることも、一括りにされることも嫌になっちゃうなと思っていました。恥ずかしいから呼ばないでって。

 

この方は漢方のD2Cをやられていたそうなのだが、この記事を読んだ当方の感想としては国内市場において衣料品・服飾雑貨に関していえば、D2Cはもともと成立しにくい環境にあったのではないかと思う。

D2Cでよく言われるのが「中間業者を排除して、ダイレクトに販売することで割安で高品質の商品を届ける」というものだが、衣料品・服飾雑貨品に関していえば、ユニクロのフリースブーム以降、この20年間、そういう物が国内市場には溢れている。今更「さらに割安で高品質な物」が衣料品・服飾雑貨品で求められていない。これはメガネにしてもそうで、国内市場にはすでに5900円くらいでレンズ付きで買えるチェーン店が、ゾフ、ジンズ、オンデーズと3社もある。メガネが高額品のままとどまっていたアメリカ市場とはまったく異なる。

それゆえ、この方のように漢方とか飲食物とかそういう物の方が日本ではD2Cが成立する余地は大きかったのではないかと記事を読んでそう思う。

逆にあまたのD2C関連の本が「ダイレクトに販売することで云々」という説明しかしていないからわかりにくかったのではないかと思う。

 

けれども私たちの夢中になったD2Cと呼ばれるようになるそれらのブランドはそうではありませんでした。

とてもフラットで、身近で、いつまでも自分もその一員だと感じられるようなブランド。

私たちもそんな、対等で、楽しそうで、一緒につくっていけるようなブランドをつくりたい。そう思ったのを今でもよく覚えています。

 

なのだそうだ。心情的に作りてと消費者による小さなコミュニティが形成され、それがD2Cだったというところだろうと解釈できる。

デビューしたばかりのマイナーやタレントや俳優、歌手、バンドなどを熱心に応援すると、演者側も非常に親しみを込めて接してくれ一体感ができるという感じなのだろう。

 

とすると、他人に対してそこまでの一体感・親近感を元来持たない(持てない)当方がD2Cに心酔することは端からあり得なかったということになる。

数年前の「ノームコア」、この「D2C」、コロナ不況で拡大キャンペーンが展開されている「オフプライスストア」など、メディアと業界が掲げる近年のホットキーワードはひどく一般大衆にわかりづらい。恐らく一般大衆にはほとんど浸透しないままにノームコアは終わっただろうし、D2Cも終わりかけている。今後もこの手のホットキーワードが生まれては浸透しないままに消えていくのだろうと思う。

 

 

迷著?D2Cをどうぞ~

 comment
  • OZ より: 2021/04/15(木) 5:45 PM

    イノベーションが起こる時キャッチなキーワードは必要ですよね。
    あえて言うのも恥ずかしいですが、
    SPAとは製造小売で販路が店舗型、D2Cはネット通販型の認識の人は多そうです。
    つまり、南さんおっしゃる「ネット通販型SPA」なだけだと思います。
    顧客の声をダイレクトに〜〜、とかはSPAでも変わらないですし、むしろ取扱う品目によっては直接お客さんと会話できる方が良い場合もあるはず。
    経費云々は重要な要素ですが、商品内容によって、ブランディングの方向感によっては、店舗型の方が良い場合もあると思いますし。
    なんにせよ、参入障壁が低くなり、なんだかわからんがみたいなのが増えて、結果早い段階で陳腐化した、よくあるパターンですかね。

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