製造加工業者が「本物のD2C]を成功させたければ知名度の向上に真剣に取り組め
2021年3月30日 メディア 0
繊維業界の製造加工業は自分たちが思っているよりも世間に知られていない。もちろん、同業他社には知られている。
しかし、川下や消費者は、当事者が予想しているよりも製造加工業者のことを知らないと考えた方が適切な処置が打てる。
例えば、当方は3年間ほど、フェイクファーの国内産地である高野口産地の仕事を請け負ったことがある。
2012年が最後だったと記憶している。その当時、産地の皆さんが思っているよりも川下、消費者にはその存在、名称が知られていなかった。
あれから9年が経過しており、多少は認知度は上がったかもしれないが、それでも「フェイクファーが国内で製造されていることを知らない」という川下、消費者はまだまだいる。
昨年12月にこんな記事が各業界メディアに掲載された。
佐藤繊維がレース企業の社員と技術を継承 下請けから顧客の最前線へ、新しいビジネスの在り方を探る | WWDJAPAN.com
この見出しだけを読むと、毎度おなじみ佐藤繊維が何か新しい技術を開発したのかということになるが、そうではない。
佐藤繊維は、レースに特化した旧カツミ産業から全従業員と技術を継承し、新たにクマムレース(KUMAMU LACE)を設立、佐藤繊維グループ企業として運営すると発表した。
とのことであり、この2行がキモである。
念のために体制についても引用すると
佐藤繊維の佐藤正樹社長がクマムレースの代表取締役となり、檜尾典子旧カツミ社長は、社員として引き続きレース事業に携わる。
とのことである。
この記事が冒頭の話とどう関係するのかというと、佐藤繊維は、トーションレース、ブレードレースの工場であるカツミ産業を買収し、自社のグループ会社としたわけである。
じゃあどうして買収したのかというと、昨年5月に弁護士に一任して倒産したためだ。
カツミ産業(株)|堺市北区|東京経済ニュース (tokyo-keizai.com)
この時の報道はこの味も素っ気もない東京経済ニュースの箇条書きの記事くらいだ。
あとはこの5月の一任以降の7月の破産手続き開始決定が
カツミ産業(株)(堺市)/破産手続き開始決定 – 小口倒産・破産開始-政治経済・時事・倒産情報 | JC-NET(ジェイシーネット) (n-seikei.jp)
このサイトに掲載されたくらいである。
カツミ産業は当方もよく存じ上げている会社である。たしかに売り上げ規模は小さかったから、これくらいの扱いしかされない。
おまけに知名度も高くはないから余計に扱いは小さくなる。この7月の破産手続き開始決定を報じたJCネットなんて、書き口を見ていると、このカツミ産業が何の会社かわからないままに転載していると考えられる。
知り合いの会社だけに、当方も5月以降どうなるのかと心配していた。まさか、電話して「どうなるんですか?」とも気軽に尋ねるわけにもいかない。
このまま廃業か?と思っていたら12月に先ほどの買収の記事が各業界メディアに掲載されたというわけである。
旧カツミ産業は大阪府堺市で1977年に創業。ベーシックなニット糸とファンシーヤーンを組み合わせる独自のトーションレースを開発し成長した企業だ。同社が今春倒産したことで、これまで取り引きのあった佐藤繊維が、希少な技術を継承すべく事業を引き継ぐ決断をした。
とのことだ。
何が言いたいのかというと、佐藤繊維が買収すればこれくらいの大きな記事になる。それも各業界メディアでだ。
対象となったカツミ産業(新社名クマムレース)の事業内容も人員も工場規模も変わっていない。しかし、この報道の差である。
ではこの扱いの差の原因は何か?というと、佐藤繊維とカツミ産業の知名度の差である。
知名度の高い佐藤繊維が動いたからデカデカと各メディアで報道されたというわけであり、知名度の低いカツミ産業が倒産したから小さく扱われたということである。
倒産やその後の買収が大きく報じられることが全て良いとは思わないが、知名度のバロメーターにはなる。
だから、製造加工業者は知名度の向上に務めなくてはならない。特に昨年からの新型コロナ感染によって、店頭の動きが悪いため、製造加工業も生産調整を行わざるを得なくなっている。店頭の商品が売れていないのにどんどん作るわけにもいかない。
そうなると、製造加工業者も生き残るために、自社オリジナル製品を開発し、それをネット通販で売るという選択が浮かび上がる。
10年くらい前からその機運はあったが、昨年の新型コロナが一挙に後押しした形である。実際に昨年くらいからマスクやガウンも含めて製造加工業者がオリジナル品を立ち上げ、ネット通販で売ろうとする取り組みが格段に増えた。
では、それを成功させる要因は何か?
知名度の高さである。
知名度がなければ、その工場名・商品名で検索されることさえない。
佐藤繊維だって昔から知名度が高かったわけではない。当方の記憶だと2004年か2005年ごろに月刊ファッション雑誌「メンズクラブ」にタイアップ記事(取材風広告記事)が掲載されていたのが、当方が佐藤繊維を知った最初である。
ファッション雑誌に工場が掲載されたところでさほど効果はないと思うが、当時の佐藤繊維は下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる的な広告出稿で知名度向上を図ったのだろうと思う。
その後、オバマ大統領夫人のドレスの生地に関してリリースし、現在の知名度にまで到達したが、その間、当方が数えただけで優に5年間くらいはこの手の取り組みを行っていた。
ローマは一日にして成らず、千里の道も一歩より、というが知名度向上の取り組みは5年間くらいは必要なのである。一朝一夕に完成するものではない。
製造加工業者は、オリジナル製品を立ち上げネット通販で販売するという「本物のD2C」を収益の柱の一つに育てたければ、知名度の向上を図る必要がある。そしてそれが実現するには長い時間がかかるということを念頭において取り組むべきである。
トーションレースをどうぞ~