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南充浩 オフィシャルブログ

考える力・分析する力が無ければどんな道具や指標を導入しても効果は無い

2021年3月23日 企業研究 1

2021年現在、新型コロナによる自粛に伴い衣料品の売上高は大きく減った。もしも2020年に新型コロナの大流行がなかったとしたら、2019年並みの売れ行きだっただろうと考えられる。

大きく減らなかっただろうが大きく増えることもなかっただろうということである。

60年代~97年ぐらいまでは洋服が売れに売れた時代である。97年というと、今の人は首を傾げるかもしれない。なぜならバブルはとっくに崩壊していたからだ。

バブルが崩壊しているのに服が売れた?と疑問に感じる人もいるのではないかと思うが、バブル崩壊によって売れ行きは幾分か落ちたが、それでも「ブーム」の生まれ方はバブル期と変わらないものだった。

もう何度も書いているが、90年代半ばはビンテージジーンズブーム、追い剥ぎまで出没した95年のエアマックスブーム、97年のアムラーブームなどである。

巨大ブームがほとんど生まれ無くなった2015年以降から思い返せば、まるで別世界である。

 

そうなると、往年を知っている人ほど何かに縋り付きたくなる。

その結果、やれPOSだ、MD改革だ、KPIだということになるのだが、結局のところそれらを導入しても大多数のアパレル企業は上手く行かない。なぜなら、冠をかぶせただけだからである。

最近初老になってきて昔の記事なんかを読み返すと、今と根本的にはあまり物事の本質は変わっていないと感じさせられる。

例えばこの記事。

 

セブンイレブン鈴木敏文氏の経営判断の軸は「常識のウソ」:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)

 

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当方は無料会員登録しているので全文を読んだが、今読んでも内容は全くおかしくない。しかしこの記事はなんと90年に掲載されたものだから、今から31年前の記事である。

当然、携帯電話も一般人には普及していないし、インターネットも存在していない。

それでも内容的には今と全く変わらない。この鈴木敏文氏の語っている内容は時代を越えた真理の部分が多いからだ。

 

ほかにも常識のウソはたくさんある。今は多様化の時代だという。ところが実は全然多様化なんかしていない。今ほど画一化している時代はないんです。

鈴木:確かに商品はたくさん出ています。そうすると、「これだけたくさん出ているのだから多様化だ」ということになる。ですけど、本来の多様化は横に広がる。差別化された商品がたくさん出てきて、消費者の選択の幅が広がることです。それが今は縦になっている。同じようなものが多い。

 

衣料品でいえば現在はもっと画一化されているのではないか。

マスに売れるデザイン、価格帯はほぼ決まっている。しかし、その通りに店作りをすれば極度の同質化が起きてしまう。ブランド数だけはやたらにあるから「多様化」のように見えるが、売っている物・売れている物は似ているから画一化しているといえる。

消費者というのは社会活動家やコンサルが言うような「多様性」は今も昔も望んでいないのかもしれない。

90年というのはちょうどPOSレジが出始めたころだが、すでにPOSについての真理も語っているから若き日の鈴木氏の頭脳というのはすさまじかったといえる。

 

ー絞り込みは売れ筋情報を見ながらやるのですか。

鈴木:そうではなくて、我々は売れるであろうと思う商品を仕入れるんです。売れたから追加するのではない。仕入れた商品が売れるかどうかという未来の話は、POS(販売時点情報管理)システムでも分からない。仮説を証明するのがPOSです。売れるという仮説が立てられない商品は仕入れてはいけないのです。

 

とすでにPOSデータの見方についての真理を述べている。

これの何がすごいのかというと、この記事の後年、97年以降、アパレル各社もSPA化によるPOSの大幅導入とそれに基づいたQR(クイックレスポンス)対応に血道を上げることになるのだが、結局どの企業も上手く行かなかった。新型コロナ以前からワールド、TSI、オンワード樫山、イトキンが大量閉店しているのを見ればわかるだろう。上手く行ったのならなぜ20年後にそんなに不振に陥ってるのか。

下手を打った原因の一つにPOSデータの安易な分析にある。これも以前にこのブログで書いたことがある。

どんなブランドでも売れ行きが多いのは比較的ベーシックな商品である。例えば黒無地のTシャツとかそういう類の物である。そのデータを表層的に分析すれば、じゃあ黒無地Tシャツだけを追加すればいいということになり、店が超ベーシックになってしまう。しかし、そんなブランド店では今度は売れなくなる。だからデータが重要なのではなく「データをどう分析するかが大事」ということになり、多くのアパレルは表層的なデータ分析しかできる人材がいなかったということである。

という内容だが、これに対して某大手アパレル社員から、当方が懇意にしていた別の社員に対して「我が社の機密が漏洩している。あんなに正確にPOS運用の不味さを指摘できるのはおかしい」という指摘があったと耳にしているが、その指摘のズレに笑ってしまった。こんな物は機密でもなんでもない。実際に93~96年まで売り場でPOSを触っていたのだからその弊害も理解できる。逆に理解できなければ考える力が足りなさすぎだろう。

 

鈴木氏が主戦場としたコンビニとスーパーの主力商品は食料品だから、衣料品とは売れ行き・売れ方・単価も異なる。だが、それを度外視しても2010年代の某大手の社員とは比べ物にならないほど真っ当なことを90年の鈴木氏は述べている。

真理は30年後でも不変であるということである。

 

今の様々な「流行りの提案」というのは、本質を誤魔化して冠をかぶせただけのようなものが多いように見える。本質は変えずにスローガンや使っている道具だけ変えるのだから上手く行かないのも当然である。POSという道具でさえ使い道を誤ると今の大手アパレルのようになってしまうわけである。

「〇〇(システムやスローガン)を導入しさえすれば必ず売れる」なんてものはこの成熟社会には存在しない。どんなシステムやスローガンを導入しても考える力がなければ、何の効果も出ない。それは30年前から変わっていない真理である。

流行りの新しい〇〇に飛びついたところでそう簡単には服は売れない。それよりももっと考える力を養ったり、考える力を持った人材を育成する方がはるかに重要であることをこの90年の記事は教えてくれる。

 

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2021/03/23(火) 11:25 AM

    某大手アパレル社員氏、運用のまずさが分かってるのに改善できなかったんすね。
    うちの潰れかけの金属加工工場も、バカ社長が何かやりはじめると、アホ幹部たちはその意義なんかは考えずに社長に言われたことを社長が喜ぶようにしかやらないんすよね。私なんかが「コレじゃ意味無いっすよね?」とか指摘すると「そうしたら数字合わなくなっちゃうからダメだ!」とか目的と手段が入れ違ったアホ回答が来ちゃいますw
    件の大手アパレル社員氏も、アホ上司を説得できずにダメ施策を続けてたのかもしれないっすね・・・
    と、横に社長がいる中、サボって書き込んでるんですがw

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