最近気になるおかしな専門用語の使い方(デニムメーカー、長繊維綿、短繊維綿など)
2021年3月17日 トレンド 0
昔からショップやファッション雑誌、ファッショニスタあたりが業界専門用語をあやふやに使うことはよくあった。
昔から、と言ったところで、当方が知っているのはこの30年間に限られるのだが。
しかし、最近は、業界メディアや生地工場までが専門用語をあやふやに使い始めており、これはさらに大きな混乱を引き起こすのではないかと強い危機感を覚えている。
先日、某業界メディアでスタッフ紹介の欄に「デニムメーカー出身」と書いてあり、当方は「???」となった。しかもエドウインに在籍していたと明言してある。
当方が「????」となった理由がお分かりになるだろうか?
基本的に「デニム」という用語は生地の名称である。だからデニムメーカーと言った場合、普通に考えるとデニム生地メーカーということになり、国内だとカイハラやクロキ、日本綿布などのことになる。
エドウインを指したい場合、ジーンズメーカーとかジーンズ・カジュアルパンツメーカーと言った方が適切である。
言葉は時代とともに移り変わるものだが、「ジーンズ=デニム」という使い方には違和感しかない。文章にした場合、それは生地名を指すのかデニム生地で作られたファイブポケット型パンツを指すのかがわかりづらい。文意から読み取るほかない。
デニム生地で作られた服はほかにも存在する。デニムシャツ、ジージャン、デニムウエスタンシャツあたりは定番だろう。しかし、これらの場合「デニムシャツ」「デニムブルゾン」という表記が一般的であり「デニム」とは表記されない。
この扱いの差は何なのだろうか?
話を戻すと、ジーンズ=デニムという使い方をファッション雑誌やスタイリストあたりがするのなら、百歩譲っても理解はできる。
ファッションには「雰囲気」も必要だ。当方は嫌いだが、雰囲気が無ければ盛り上がらない。
しかし、業界メディアがこの使い方をすることはいかがなものか。
しかも川下だけでなく、そこそこに川上まで取材掲載する媒体であるからなおさらである。
次に驚いたのが、昨日、突然、某山本晴邦さんからメッセンジャーで飛び込んできた「長繊維綿」「短繊維綿」という表記を見かけたという話である。
またどこぞの川下ファッソニスタが書いているのかと思ったら、生地工場の人だったので驚いてしまった。
なぜ驚いてしまったのかというと、長繊維、短繊維というのは、それこそ戦前から別の意味として使われている専門用語であるからだ。
繊維長の長い綿、短い綿ということを伝えたかったのだろうと思うのだが、この使い方は従来の長繊維、短繊維という言葉と無用な混乱を招くことになる。
長繊維とはカタカナではフィラメントとも表記し、合繊と絹があたる。
一方、短繊維とはスパンやステープルファイバーとも表記し、絹を除く天然繊維があたる。
綿の繊維長(繊維の長さ)はだいたい3センチ前後で、どんなに長い超長綿でもまさか10センチにも届かない。
一方の絹は、だいたい1200~1500メートルあり、ポリエステルやナイロンなどの合繊は理論上無限の長さで作り出すことができる。
同じ天然繊維たるウール、麻もセンチ単位の長さしかない。
絹・合繊とは長さが桁違いなのである。
綿の場合、繊維長の長さに応じて既に
短綿、中綿、中長綿、長綿、超長綿
という呼び名が存在している。
たしかに「短綿」と言われると音だけを聞くと「タン麺」「担々麺」などを想像してしまうし、長綿というと「帳面」を想像してしまう。
が、それならどうして「超長綿」だけは嬉しげに店頭でも使用しているのだろうか。この辺りはダブルスタンダードも甚だしいと言わねばならない。
そして長繊維も短繊維も決して死語ではなく、今も各合繊メーカーや各紡績では日常業務として使われている生きた言葉なのである。
これをごっちゃにして使ってしまえば、生地工場もブランドも合繊メーカーや紡績とは意思疎通することが困難となり、製造物にも支障をきたすことになる。
こちらも百歩譲ってブランドやショップ、スタイリストあたりが仲間内だけで使っているならまだしも、本職たる生地工場が使って発信するというのはいかがなものか。それこそさらに混乱を引き起こすことになる。
また、本職たる生地工場が使うことによって、そういう使い方にお墨付きを与えてしまうことになり、混乱に拍車をかけてしまうことにもなる。
このブログをアップした後、このような指摘があった。決して誤用ではないとのことである。
繊研新聞社「新・繊維総合辞典」綿の繊維長
繊維社「せんいの基礎講座」繊維長による綿の分類
いずれも、国際綿花諮問委員会が繊維長により短繊維綿、中繊維綿、中長繊維綿、長繊維綿、超長繊維綿に分類しているという記載があります。— oshimas (@oshimas3) March 17, 2021
これは勉強になったが、実際のところは、紡績でも長繊維綿・短繊維綿という言い方はほとんどしていないようで、紡績でさえ使われなくなった理由を類推すると、やっぱり合繊の長繊維・短繊維という言葉とごっちゃになるというのが最大の理由ではないかと思う。
ではなぜ、近年突然こんな死語が復活したのかというと、近年は「売らんがため」にどんな素材にも蘊蓄が求められる傾向にあり、ブランド側が蘊蓄を過剰に欲している。
そこでいわくありそうな蘊蓄として、利便性の上から使われなくなった長繊維綿・短繊維綿という呼び名を復活させたのではないかと類推できる。
聞いたことがないがゆえに「なんか凄そう」みたいなイメージ付けである。
しかし、やっぱり当方の結論は変わらない。合繊との無用の混乱を引き起こしかねないので使用は避けるべきであると考える。
あと気になっているのが「メルトン」という生地の呼び名である。
メルトンとはウールを縮絨させた生地である。ウール100%もしくはウール高混率でないと縮絨することはできない。
だが、最近は「ポリエステル100%のメルトン」を使った謎の商品が多数販売されている。ウール原料の高騰と店頭販売価格の下落でウールが使いにくいことは理解しているが、「メルトン ポリエステル100%」というのはいかがなものか。
せめて「メルトン風」とか「フェイクメルトン」とか「メルトンライク」とかそういう表記にするべきではないかと思う。
もちろん、伝わりやすいような言い方を工夫するのは必要だが、既存の言葉の意味を混乱させるような使い方はまずいのではないかと思う。
何よりも業界メディアや生地工場までがそういう使い方に加担するのはちょっと危機感を覚えてしまう。