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南充浩 オフィシャルブログ

巷に蔓延する「おかしな表記」と「嘘の神話」

2021年3月12日 ジーンズ 1

97年に業界紙に入ってから24年が経過して、過ぎ去りし日々を振り返るたびにジジイになったことを噛みしめる今日この頃だが、最近、とみに業界メディアの言葉遣いや説明文に違和感を感じることが増えた。

これが老化だと言われればその通りなのだろう。自分の肉体、精神は確実に老い衰えておりそれは自覚している。

フィラメントが長繊維、スパンは短繊維。

とか

長繊維と繊維長は構成する漢字は全て同じだが、意味は全然違う。

とか、そういう小難しいことではない。

 

もう根本的な意味合いがおかしいものが増えた。

最近、最も気になっているのが

・「天然コットン」

・「天然ダウン」

という表記である。

これのどこがおかしいかお分かりだろうか?川上・川中業者の方なら一瞬でその可笑しさがお分かりになるだろう。

 

「天然〇〇」という用語を使うのであれば「人工〇〇」「養殖〇〇」というものが存在していないと意味をなさない。

「養殖〇〇」というのは漁業以外はほぼ使わないから、繊維で使えるとするなら「人工〇〇」だろう。

 

しかし、

「人工コットン」

「人工ダウン」

なんて聞いたことがあるだろうか?

高機能性ポリエステル中綿を指して「人工ダウン」と呼ぶことはあるが、ハッキリいうとそんな優良誤認を招くようなややこしい呼び方をせずとも「ヒートナンタラ」とか「ホットナンタラ」と呼ぶ方がずっとスッキリする。

むしろ「ダウン」という呼び名を「羽毛」だということを周知させた方が効率的だ。文字数から言っても2文字削減できる。

それを徹底しないから、「中綿ポリエステル100%のダウンジャケット」なんていう謎の製品が市場やウェブ上に溢れかえることになっているのである

 

高機能性ポリエステル中綿を「人工ダウン」だと仮定すれば「天然ダウン」という表記は百歩譲れば許せる。

しかし、「天然コットン」とは一体何を言っているのだろうか。

「人工コットン」なんて繊維がこの世に存在するのか。

むろん、過去には人造絹糸という呼び名はあった。今はレーヨンと呼ばれているが。

 

話しは少し逸れるが、日本の合繊メーカーはほぼ、レーヨンの製造を祖業として創業された。その証拠に社名にはレーヨンにまつわる名残が残っている。

例えば、東レとクラレ。「レ」はレーヨンの「レ」である。

また帝人。「人」は人造絹糸の「人」である。

とはいえ、今時、レーヨンのことを人造絹糸とか、それを略した人絹などと呼ぶ人はほとんどいない。余談だが帝人の元の呼び名である「帝国人造絹糸」という社名は物々しくてすごくカッコイイと感じてしまう。(笑)

 

それはさておき。人工コットンや人造コットンなどという繊維は、小売店時代も含めて業界歴27年の当方でも聞いたことがない。

とすると、「天然コットン」などという表記は無意味であり、「コットン」で十分である。

もしかすると、野生のコットンなどという物が存在しているのかもしれないが、野生コットンが仮にあったとしても商業化できるほどの数量ではないだろう。野生で賄えるならとっくの昔に賄っている。

 

この二つのおかしな「天然」表記は恐らくは、天然素材であるコットン、ダウンという文節の省略方法を誤っているのだと考えられる。

もしくは、過剰な「嘘の神話」を作ろうとしていたか、である。

 

元々、繊維・アパレルには「嘘の神話」が溢れている。

しかし、近年のSNSの普及によって、その傾向に拍車がかかっていると、ジジイには感じられてならない。

 

代表的な「嘘の神話」といえば

 

「ジーンズを洗濯してはいけない」

 

だろう。

たしかに、ヒゲやアタリを綺麗に出すためには、穿き始めてから一定期間洗濯せずに穿きジワを付けた方が良い。しかし「洗わなければ洗わないほど良い」というのは明らかに誤っている。

逆に色落ちさせるためには定期的に洗濯しなければならない。デニム生地の色落ちとは洗濯と摩擦によって引き起こされるからである。

また、定期的に洗濯をしないと、皮膚からにじみ出る皮脂や塩分によって綿繊維は劣化する。劣化すれば、破れやすくなり、大枚をはたいて買ったビンテージジーンズの寿命は短くなる。

 

最近だと気になった「嘘の神話」はこれだ。

ユニクロ「+J」春夏はデニムをマストでチェック、実物を見て6つのキーワード紹介 (fashionsnap.com)

まあ、ほとんどが+Jの説明記事であり、ユニクロのカタログやサイトで語られていることのリライトにすぎないのだが、気になるのがこの一節である。

 

LifeWear magazineに掲載されたインタビューでジル・サンダー氏は「旧式のシャトル織機で作られており、折り目がきついので、ほどけず、型くずれしません。丁寧に作られた製品であれば、セルビッジジーンズは一生ものにもなるアイテムだと思います」とコメントしており、

 

要するに、ユニクロのカタログでジル・サンダーがこう言っていたよ、という内容なのだが、「一生もの」は明らかに嘘である。

なぜなら、このセルビッジジーンズの生地の組成は

 

[01 OFF WHITE,09 BLACK] 本体: 99% 綿,1% ポリウレタン/ パッチ部分: 合成皮革

[69 NAVY] 本体: 98% 綿,2% ポリウレタン/ パッチ部分: 合成皮革

 

とユニクロの公式サイトに明記されているからである。

白と黒はポリウレタン1% ネイビー(要するに普通のジーンズ)はポリウレタン2%が含まれている。

ポリウレタン繊維は3~10年で必ず断裂する。断裂すればストレッチ性は無くなる。

となると、到底「一生もの」ではない。別にこのジーンズに限らずポリウレタン混ストレッチ素材を使用した服はすべて「一生もの」ではない。

さらに言えば、パッチ部分の素材は「合成皮革」である。合成皮革にもさまざまな種類があるが、黒とネイビーに関していえば、ポリウレタン合皮ではないかと画像からは見える。

ポリウレタン合皮の場合、これも必ず3~10年で剥離が始まる。剥離すればリペアは不可能である。白はスエードっぽい合皮で、こちらはポリウレタンではないように見えるので、このパッチの寿命はもう少し長いだろう。

さらに加えていうなら、旧式のシャトル織機で織ったセルビッジデニムは織り目がきつく耐久性があるというのも当方は「嘘の神話」ではないかと見ている。

旧式のシャトル織機よりも現在の織機の方がスピードは速く織り目をきつく高密度で織りやすい。(もうしわけありません。指摘をいただいたので、この部分は修正します)旧式のセルビッジデニム生地の方が耐久性が高いという話は27年間聞いたことがない。

 

衣料品の価値というのは本当にわかりにくい。当方にもよく分からない部分がある。基本的に家電や機械のような「高価格=ハイスペック」ではないし、貴金属や宝石のように「何百年も使用可能」でもない。

そういう価値観に当てはめて説明しようとするから、このような「嘘の神話」が定期的に作り出されてしまうのだろうと思うが、却ってそれは業界に不利に働いているのではないかと思う。

 

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2021/03/12(金) 2:08 PM

    この前、勢い余って私服用にコットンスーツをオーダーしちゃったんですが、その生地がラルスミアーニ(とメーカー名がすぐに出るようになったオレすげぇ。2年前なら全く知らなかったw)の綿にポリウレタン2%混紡のストレッチ素材のヤツだったんで、お店の人に「ポリウレタン入ってると劣化しますよね?」と訊いたらあんまりピンと来てないようでした。「合皮とかはボロボロになるじゃないですか」と説明したら意味が分かったようですが、その店員さん曰く「大丈夫です」とのこと。ま、劣化するまでは大丈夫なんだろうなぁ、と思うことにしましたw

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