MENU

南充浩 オフィシャルブログ

大手低価格ブランドで代替できる商品では勝ち目が薄いという話

2021年3月11日 トレンド 2

1年ほど前に、ある釣り好きの人と久しぶりに話をしたことがあった。

その人は海釣り専門である。

一応繊維業界の人なので、釣りの時に着る服が話題に上ったのだが、やはり最近増えてきているのがワークマンの商品だという。

保温ナンタラとか防水透湿ジャケットとか吸水速乾ナンタラなんていうのは、重宝される。

 

釣り用の衣服には、あまり大手が存在せず、個々の釣り具メーカーがついでに企画製造していたり、小規模ブランドが点在していたりするらしい。

そうなると、釣り用衣服の最大のネックは「価格が高くなること」にある。小ロット生産になるため、店頭販売価格は高くなる。

それに比べるとワークマンは圧倒的に安い。だからワークマンの服を着ている釣り人が増えたそうだ。

機能という点では従来釣り服が優れている部分もあるのかもしれないが、ワークマンの服だって工事現場で使われるくらいだからそれなりの機能は有する。恐らくは機能差はほとんどないだろう。

となると、価格差が2倍~3倍にもなるから、よほどその零細ブランドにこだわっている人以外はワークマンで十分ということになるのも当然である。

 

これと似たような話がスポーツウェアにもある。

当方はなんちゃってランナーを始めてからちょうど10年が経過した。元々運動嫌いの当方はスポーツ用の服を持っていなかったのでカジュアルTシャツに綿裏毛のスエットパンツを穿いて走っていたが、洗濯しても乾きにくいので、やっぱり専用の速乾服が必要だと痛感した。

そこで買ったのが、ユニクロとジーユーのスポーツ向けドライ服である。

定価で買う気などさらさらない。いずれも値下がり品で十分である。590~990円でそろえた。

ポリエステル100%の速乾生地である。

本格的に社会人チームで競技するならこの服では全くダメだろう。しかし、初老が自宅の近所を5キロくらい走るのならこれで十分である。

わざわざスポーツウェアメーカーの高い服を買う理由がない。

 

最近、自宅の近所をちんたら走っていると、本格的なスポーツ自転車を走らせている人を多く見かけるようになった。走る・歩くよりも膝や腰への負担が少ないと言われている。

スポーツとして取り組んでいる人が多いから、ヘルメット着用でスポーツウェアを着こんでいる。全身タイツみたいな人もいる。

当然そこには供給する衣料品メーカーが存在する。

休日はスポーツ自転車で何十キロも走るという人も随分と増えたから、自転車向けのスポーツウェア・機能性服という需要も増えた。

そこに商機を見出して参入しようという動きが増えるのは極めて当然のことだろう。

 

先日、自転車用の服に挑戦したことのある人に会う機会があった。

いろいろとあって、この人はその商品からすでに離れている。

まあ、ひどくザックリといえば方向性の違いで決裂したということになる。

現存している商品群をサイトなどで見てみると、正直なところあまり売れる気がしない。競輪選手みたいなあの自転車を何十キロも走らすにあたって、通常のカジュアル服では不便であることは少し考えれば理解できる。

だが、ガチ競技者でないマス層が、全身をそのブランドの服で固める必要があるだろうか?

当方は全くないと思っている。

その人が一番力を入れたかったのは機能性+デザイン性のあるアウター類だという。アウターの下に着るTシャツ類はユニクロやジーユーのドライ服で十分だと思っているからである。

実際に自分が自転車に乗るときはユニクロやジーユーのドライTシャツ類を着ていて何の不自由もないとのことである。

当方もユニクロとジーユーのドライ上下で、5キロランニングするくらいなら何の不自由も感じていない。

 

なぜ現存するその商品が売れにくいと思うかというと、ユニクロ・ジーユーで代替できる商品が多すぎるからだ。もっと直接的に言えば、通常の吸水機能程度のカットソーならマスのなんちゃってバイカーはユニクロ・ジーユーのドライカットソーで十分だろう。

しかも、当たり前だがユニクロ・ジーユーのドライカットソーの2倍とか3倍の販売価格なのだから、わざわざ高い方を買うという人はニッチ層しかいない。少量しか売れない。

 

洋服のブランドには運営するにおいて様々な考え方がある。

なるべく大量に売ってたくさんの売上高を作りたいというのも立派な一つの考え方である。

逆に少数のコアなファンに売り続けて細々と生き残りたいという考え方もある。

儲かって企業やブランドが存続できるならどちらも正しい。だが、両立させることはほとんど不可能に近いと思っている。

一国内におけるコアなファンの人数は限られているし、そう大きくは増えない。

コアなファン向けのまま商売を拡大するなら、海外進出するしかない。各国で似たようなコアなファンを獲得するしかない。

 

何が言いたいのかというと、釣り服にしろ自転車服にしろ、特殊なジャンルであるためユーザーが求めている機能とアイテムを正確に把握することが必要になる。

その一方で、ガチ競技者以外は代替できる物は安価ブランドで済ませられてしまう。ユニクロ、ジーユー、ワークマン辺りが最右翼である。

例えば速乾カットソー、保温カットソー類なんて、この3ブランドで買った方が圧倒的に安く、機能性もそれなりにある。そこにあえて高い商品をぶつけて勝ち目があるのか?勝ち目があるとするとどの部分なら勝てるのか?カットソーのデザインなのか、機能性の高さなのか、形・形状の工夫なのか、ブランドステイタスなのか。

そこを見極めずに、ブランドネームを付けただけでは相手にもされないだろう。

 

苦し紛れでブランドを立ち上げて製品ビジネスに着手する川上業者・川中業者は増えているが、もう「ブランドを立ち上げました」というだけでは売れない。キチンとした工夫を凝らす必要がある。釣り服も自転車服も工夫無しに展開してもワークマン、ユニクロ・ジーユーに押さえられてしまうだろう。

 

 

この記事をSNSでシェア
 comment
  • K より: 2021/03/11(木) 12:11 PM

    いつも興味深い投稿をありがとうございます。当方も釣りウェアで同様のことを感じていました。釣りだけでなく登山ウェアやバイクウェアが最近低価格なのでワークマンの利用者が増加しています。当方、以前神戸の大手アパレルでリストラの目にあい、現在は異業種に勤めています。ワークマンのような新興勢力をみると旧大手アパレルは打ち手に苦労して迷走していることと想像されます。アパレルに嫌気がさして転職したものの南さんの投稿は欠かさず見てしまいます。

  • とおりすがりの元・服売り より: 2021/03/11(木) 1:58 PM

    自分は競技用自転車に乗る人ですが、乗る時のウェアはたしかに悩ましいです。
    結局はアディダスのランニングウェアを流用して使ってます。

    いかにも全身ピタピタなのは運動しやすいですが、あれはお店に入るときに気が引けるので。
    ランニングウェアでも、入りにくいお店ありますけどね…。
    自転車というのは移動できる距離が遠くなるので、たまたま目に入ったお店に入りたくなるケースが多くなる一方で、あまりにスポーツすぎるカッコだと入りにくくなる、というジレンマを抱えます。
    また、ユニクロのスポーツウェアだと近所より遠くに行くときは気が引けてしまいます。
    これは好みの問題かもしれませんが…。

    なので、そこまでガッツリ運動する気はないので、多少動きやすくフツーのカジュアル服に見えるウェアが欲しい、という需要は分かります。
    自分も欲しい。
    でもなかなかないので、そこそこいいお値段になる。
    昔あったLevi’s COMMUTERシリーズとか、narifuriとかの価格帯になります。
    明らかにメインストリームの価格帯じゃないですね。

    いっぽうで、自転車に乗る時の服ってのは汚れたり破れる確率が上がります。
    そうなると、先ほど書いたような価格帯の服はちょっとためらってしまう。
    いい値段の服はどうしてもガシガシ使うとはなりにくい。
    Levi’s COMMUTERがなくなっちゃったのは、たぶんそういう理由で売れなかったからなんでしょう。

    …で、結局はアディダスのランニングウェアです。
    ここまで書いた葛藤をいい感じにカバーしてくれるし、セールで安く売ってるときもある。
    もしかしたら、ワークマンの服がこの状況に風穴を開けてくれるのかも?とはちょっと思ってはいますw

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ