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南充浩 オフィシャルブログ

アパレル製品の生産数量削減に対して即効性のある施策は無い

2021年3月9日 産地 0

「洋服の大量生産ガー」というキーワードが叫ばれ、ついに「アパレルの在庫8割減」なんていうビックリ提言まで出てきて驚くしかない。正直なところ、これを劇的に即座に解決できる施策など存在はしないと見ている。

まず、洋服の製造量や仕入れ量は個々の企業の計画であるから、個々の企業が自社で調整すれば良い。オーダーもその一つの方策ではある。

 

では、それによって、国内業界全体、ひいては世界的なアパレル製品需給バランスが整うかというとそうではない。

川上の存在を1ミリも認識していないからだ。

わかりやすく、デニム生地で例を出してみる。なぜデニム生地かというと、大手生地工場の生産数量がときどき公開されているからだ。

国内最大手のデニム生地工場カイハラ。

ユニクロとの取り組みもあって、この20年で消費者への知名度は大幅に高まった。ちょっとでもジーンズの好きな人ならほとんどの人が企業名は知っているだろうと思われる。

で、このカイハラの生産量だが、2014年の記事では年間3600万メートルとされている。

 

どうなるメード・イン・ジャパンデニム | WWDJAPAN.com

 

日本では紡績からロープ染色、織布までの一貫生産体制を持つ企業はカイハラのみ。年間3600万mの生産能力を持つカイハラは、日本製のデニム生地では圧倒的なシェアを占めていると見られている。

 

とある。掲載日は2014年11月17日である。

そして、2019年10月19日のカンブリア宮殿では

 

こうして生まれるカイハラデニムは年間2400万メートル

 

とある。

国内シェア50%超~あのユニクロも頼る会社 :読むカンブリア宮殿|テレ東プラス (tv-tokyo.co.jp)

 

5年間で1200万メートルを減産していることになるが、どちらにせよ膨大な数量で、これをジーンズという製品にすればこちらも膨大な数量だといえる。

カンブリア宮殿では、「2100万本のジーンズ」と試算している。

例えば、カイハラ1社に照準を当てたとして、この2400万メートルの製造をやめさせろというのだろうか。むろん、何らかの法を整備してやめさせても構わない。当方の腹は全く痛まないからだ。

しかし、強制的にやめさせた場合、カイハラが地元・福山市で行っている雇用を守ることはできなくなる。「環境ブームのためなら、田舎の雇用なんてどうでもええやんけ」と言い放てる人間が一体どれほど存在しているのか?当方はこれを平然と言い放てる人間だけが、川上に減産を求める資格があると思っている。

 

しかし、世界に目を向けると生地はもっとたくさん作られている。国内アパレルはもちろんのこと、海外アパレルも日本の生地だけを使って製造しているわけではない。むしろ、日本の生地の生産量は世界的に見れば、現在だいぶと減っている。

デニム生地でいうと、世界の大手企業はカイハラの10倍くらいの量を生産している。

例えば、トルコの最大手デニム生地メーカーのISKOは年間3億メートルのデニム生地を製造している。

 

ミラノサローネ2019 ベストセレクション 世界最大のデニム生地ブランドがデザイン界に進出!?「ISKO(TM) DENIM SOUND TEXTURES」展が日本初上陸|イスコジャパン株式会社のプレスリリース (atpress.ne.jp)

 

年間3億メートル(地球を約7.5回ラッピングでき、約2億本のジーンズの製作)の生産規模を誇っています。

 

とのことである。

中国にも年間1億メートルを越える生地工場が何社かあるから、ISKOだけが突出して大量生産しているわけではない。また、ISKOが「トルコ最大手」ということはトルコ国内にも2番手、3番手、それ以下が存在しているということになるから、トルコにせよ中国にせよ、1国あたりの生産数量はもっと増えるということになる。

 

中国の工場やトルコの工場に生産をどうやってやめさせるのか。そんなことが現実的に可能だと思っているのか。

デニム以外の生地でも同様だし、生地を構成する綿糸、合繊糸の製造についても同様である。

 

またアパレル自体に目を向けたとして、自社のMD計画以外で製造量を強制的に減らせる手段はない。まさか共産主義の計画経済を導入して各社に生産数量を強制的に割り振るわけにもいかないし、新規参入を認めない法律を作るわけにもいかない。

個人的に近年のメディアの報道で気色悪いなあと思っていることの1つとして、「アパレルの生産数量を減らす」みたいなことをスローガンに掲げながら新しいブランドが新規参入してきたり、既存アパレル企業が新しいブランドを立ち上げたりすることが続いている点である。

そこまで生産数量を減らしたいと思うなら、わざわざ参入したり、新規ブランドを立ち上げるのをやめたらどうか。その行動こそが生産数量を増やしているという矛盾である。

 

このアパレル生産数量に限らず、エコとかエシカルとかサステナブルとかエスディージーズとか呼ばれている活動のほとんどは、当方の目から見れば、人間の手に余る過剰な理想の夢物語を急速に実現しようとしているようにしか見えない。

しかし人間なんて所詮は神ならぬ単なる動物に過ぎず、不完全極まりない存在である。おまけにだいたい80歳前後、遅くとも100歳くらいで必ず死ぬから永続性もない。

 

当方の目には、世界的に一部のブランドを除いて行き詰った業界だから、既存体制を一挙にご破算にして、新しい切り口で再編することで新たな経済成長を目指しているようにしか映らない。言ってみれば、経済成長のために、わざわざ既存体制をご破算にしているようにしか見えない。エコアパレルにしろ、電気自動車にしろ。

 

糸、生地などの川上が今の仕組みのままで、川下の個々のアパレルやショップが仕入れ量や生産量をいじったところで根本的な問題は何も解決しない。

 

 

ISKOのデニム生地で作られたマウジーのジーンズをどうぞ~

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