
「ダウンジャケット」も「革靴」もデザインや形状を示す呼び名ではない
2021年3月4日 ネット通販 3
最近気になっていることの一つに、衣料品の生地や素材についての虚偽に近いような説明やネーミングが増えているように感じることがある。
正確にいうと、悪質な虚偽だといえるものとして
1,ダウン
2,レザー(本革)
がある。
虚偽ではないし違法性も全くないが、川上・川中の人が突っ込まざるを得ないヘンテコなネーミングとしては
・スエットライクニット
・ニットTシャツ
・裏毛スエット素材
・ニットフリース
などがある。
これらをひっくるめて、90年代や2000年代と比べて、2010年以降はこういう例が増えたと感じられ、業界は大丈夫なのかとちょっと危機感を抱く。
で、昨日、そんな話を山本晴邦さんと一緒にclubhouseで語った。
一応、初老の冴えないジジイも流行りに乗って、2月からclubhouseに登録しているのである。ただし、あまり稼働していない。部屋を作って話したのは10回未満だと記憶している。
clubhouse内での話を公開するのはルール違反だが、山本晴邦さんにも了解を得ており、今回はその要約をご紹介したい。
以前から何度もご紹介しているが、2003年ごろ、カシミヤ偽装事件がユナイテッドアローズを筆頭に多発した。
「カシミヤ混」と表記した商品にカシミヤが0%しか含まれていなかったという事件である。
この時はニュースで相当に問題になった。明らかな嘘だからである。景表法違反でもある。
食品でもそうだが、ビタミンC配合と書かれてるのに、実際はビタミンCが全く入っていないとなるのは大問題である。
しかし、2010年以降はこと衣料品や服飾雑貨品に関しては虚偽表記が明らかに増えた。
その最たる例はネット通販である。
冬のアウターの注目アイテムの一つに「ダウンジャケット」「ダウンベスト」がある。
軽量で暖かく、そして柔らかい。これに慣れてしまうと、昔ながらの硬くて重くて分厚いウールのコートはよほどのことがない限りは袖を通したくなくなる。
そこでネット通販で「ダウン」と打ち込んでキーワード検索をすると、有名ブランドから超無名ブランドまで数えきれないほど表示される。これはAmazonでもYahoo!ショッピングでもZOZOTOWNでも同じである。恐らくは楽天も同様だろう。
そして驚くことに価格が安い物だと2000円台から出てくる。「ダウンジャケット」が2000円台というのは通常正規品では考えられない。
3年くらい前に「うわ、ユニクロの値下げ品より安いわ」と喜び勇んでポチろうとしたが、商品詳細を上から下まで確認したところ
「中綿:ポリエステル100%」
と表示されていた。
ポリエステル中綿を入れたアウターは「ダウンジャケット」ではない。
山本晴邦さんも同様の経験があり、奥様が日常使いのダウンジャケットをネットで検索したところ、大量の「中綿:ポリエステル100%ダウンジャケット」が出てきて驚いたそうだ。
これは今でも変わらない。
おまけに「ファイバーダウン」とか「テックダウン」とか、機能性ポリエステル中綿にそういう固有名称を付帯している物が増えているから余計にわかりにくくなっている。
ファイバーダウンジャケット(中綿:機能性ポリエステル100%)とかテックダウンジャケット(中綿:機能性ポリエステル100%)
とかそういう具合である。
だが、ダウンジャケットというのはあくまでも「ダウン(羽毛)」が中綿の詰め物として入っていなくては虚偽である。
レザー(本革)も同様だ。
レザー、本革のキーワードで検索すると、無数の商品が出てくる。しかも値段が異様に安い物も多い。それらは使用素材「人工皮革」「合成皮革」と表示されている。
人工皮革も合成皮革も本革ではない。
本革とはあくまでも生物の皮(哺乳類・鳥類・魚類)をなめしたものである。人工皮革も合成皮革も生物の皮を使用していない。
「牛肉100%」と表示してあるのに、「使用素材:大豆」と表記してあれば、どうだろうか。食品偽装事件に発展するだろう。
これと同じことがなされている。
「合皮100%の革靴」とか「合皮100%の革ジャン」などという謎の商品がネット通販上にはひしめいている。
これらがOKならば、往年の「カシミヤ0%のカシミヤ混商品」も全く問題がないということになる。
で、ここからはその原因についての考察となるが、考えられる原因は大きく二つあるだろう。
1,売りたいから悪意を持って虚偽のキーワードを登録している
2,ブランド側・メーカー側にまったく知識がない
この二つである。
1の場合は景表法違反で詐欺行為であり、どんどんビシバシ摘発されることを望む。
問題は2の場合である。
アパレル川下の人は、まったくと言って良いほど素材知識のない人が多い。これは一つには業界や会社の教育制度が劣悪だということになる。
clubhouse内でも発言があったが「小売り各社が素材勉強会みたいなものを定期的に開催する必要がある」というのが解決策になるだろう。
もう一つは「ダウンジャケット」「革靴」「革ジャン」という商品名が「素材」由来の物だと知らずに、デザインや形状に対する名称だと思っていることである。
実はこれは相当数存在する。
あの「モコモコしたステッチの入った防寒アウター」は全て「ダウンジャケット」と呼ぶと思っている人が結構存在する。ダウンというのは「羽毛」という意味なので、羽毛が入っていないのはいくらモコモコしてステッチが入っていてもダウンジャケットではない。
革靴・革ジャンも同様だ。
オーソドックスなスーツに合わせる靴(ストレートチップやプレーントゥなど)として「革靴」と呼ぶが、正確にはドレスシューズとかビジネスシューズと呼んだ方が分かりやすいのだろう。革が使われていなければ「革ジャン」でも「革靴」でもない。
デザインや形状に対する名称ではない。
これを理解していない人が多い。
だから、「コスパの高い革靴」としてジーユーの合皮ビジネスシューズを紹介してしまうファッションインフルエンサーが出現してしまうのだろう。
ジーユーの合皮ビジネスシューズは、「コスパの高い合皮靴」であって、「コスパの高い革靴」ではない。
この辺りのいい加減さというのは、2010年以降、ネット通販の隆盛によって、とみに強まっていると感じられる。
目先の売上高はそれで稼げることがあるかもしれないが、長い目で見ると、業界に対して消費者から一層の不信感を募らせることになり、商況をさらに悪くする可能性がある。
また、この手の商品を愛用した人間が業界に入ってきて、拡大再生産してしまうことは業界や物作り側にとっても有害でしかない。
コスト削減が強まる業界だが、1社で難しければ何社か合同で、定期的に販売員向けに講師を招いて素材や仕様の勉強会を開催することを強くお勧めする。
無駄に思えるかもしれないが、知識の底上げをすることは売上高の拡大や顧客の獲得につながりやすいので、最も有望な投資先ともいえる。有力各社はぜひご検討いただきたい。
そんな「中綿:ポリエステル95%のダウンジャケット」をAmazonでどうぞ~
comment
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とおりすがりのオッサン より: 2021/03/04(木) 2:03 PM
Tシャツ一枚1万円以上取るような高級なヤツでも「ニットTシャツ」って言って売ってるトコありますね。つか、私も南さんのブログ読み始めるまでは「ニット=セーターみたいなものってことでしょ?」くらいにしか思ってなくて、Tシャツの生地が編み物だとか意識したことないし、布帛とかなんて言葉も知りませんでしたw
でもYouTubeで服飾系の動画見てても、プロの人でも編み物、織り物の区別ついてなかったりしますね。この前見た大阪のテーラーの店主は「ピークドカラー」とかスーツの襟の説明してました。カラーって言うたら上襟のことやろ!とニセ関西弁で突っ込んでおきましたw -
sakeparadise より: 2021/03/04(木) 10:54 PM
30年以上前 シャネル(風)スーツ、ジャケット なんて品名が普通に雑誌や広告に掲載されてた。本家からのクレームで一斉に使われなくなったと記憶している(グループ名を変えた音楽バンドもいた)。
同じ頃 社名がアルマーニ(英語表記は違う)という量販向け低価格アパレルがあった。本家から内容証明付文書が送られて来たらしいが、日本法人設立前に会社登記済だったので社名変更せずに2000年代に無事倒産した。記事内容とは関係無い内容になってしまった。
これは難しい問題で、「売る側に知識がない問題」と合わせて、「買う側にも知識がない(誤認してる)問題」があると思うんですよね。
買う側も、あのモコモコした服のこと(デザイン)を「ダウンジャケット」と認識していて、「ダウンジャケット」という名称で検索する、と。
じゃあなぜそうなったのか?と考えると、買う側に知識がない(誤認してる)結果、売る側も買う側に認知してもらうために、あのモコモコした服のこと(デザイン)を「ダウンジャケット」と呼称して販売せざるを得なかった…という可能性は、かなりあるんじゃないかな?と。
そう考えると、現在は買う側と売る側で呼称の認識が一致してしまってます。
これはなかなか変えるのは難しい。
おそらく、他の変な名称もダウンと似たりよったりの理由なんじゃないかな、とは思ってます。