逆張りをするメディアの報道によってユニクロの強さが浮かび上がる
2021年3月2日 メディア 0
ニュースの原則というものは、当たり前でないことを報道することである。
例えば、赤信号では必ず止まるということを報道してもニュースにはならない。当たり前だからだ。しかし、赤信号で止まる自動車が少ないということはニュースになる。
普通、靴を履くときは、靴擦れ防止の意味もあって靴下を履く。だから、靴下を履いて靴を履いている人のことはニュースにはならない。だから某アレな芸能人が裸足で靴を履くことがニュースになる。しかし、靴擦れ防止や快適性の面から考えて、わざわざ裸足で靴を履く人間なんていうのは極少数派で、日常生活ではめったにお目にかかれないくらいの人口だろう。
最近、立て続けに「ユニクロが高い」「ユニクロの若者離れ」という記事が何本も掲載されている。
恐らくはそういうニュースの原則の元で書かれているのだろうといえる。「ユニクロは相変わらず好調」「ユニクロはほぼ全国民に愛用されている」というのは当たり前すぎてニュース価値がないということになる。
まずはこちら。
「値段が高い」「中高年向け」… 「ユニクロ離れ」する若者たちの声 | マネーポストWEB (moneypost.jp)
安くて、シンプルで、高機能──。ファストファッションの代名詞として躍進が続く「ユニクロ」だが、最近SNSでは若い世代を中心に「高い」「着ているのは中高年だけ」などの声が上がっているという。はたして「ユニクロ離れ」する若者たちは、どう思っているのだろうか。実際の声を探った。
Aさんのような若い世代は、どこで服を買っているだろうか。
「私はコスパ重視でフェミニンよりならGRL(グレイル)やGU、Honeys 、INGN(イング)あたりかな。低価格であることは大前提、かつトレンドを手軽に取り入れられて可愛いブランドがいいです。どちらかというと、一つを長く着るというよりは、どんどんトレンドのものを楽しみたいので、安くないとやっていけない。ユニクロは、インナーとかならまだしも、アガる服はないので、あまり行きません」(Aさん)
メーカーで働く20代の男性会社員・Bさんにとっても、ユニクロは「高い」イメージがあるという。それゆえか、服を買うときはフリマサイト「メルカリ」を使うことも多い。
「GUとメルカリで服を買うことが多いです。特にメルカリは、未使用品で定価より安いものも沢山あるので、そういうものを見つけるのも楽しみのひとつ。服にかけるお金は必要最低限にしたい」(Bさん)
とある。
しかし、この「若者離れ」には統計やそれに類した根拠が一切示されていない。イキったコンサルふうにいうと「エビデンス」がない。
そりゃ、これだけ多くの人が着ていて、ベーシックなデザインの商品が多いユニクロだから「たまには違う服を着たい」という人も出てくるだろう。初老たる当方だって同じだ。
だが、Aさんが挙げる「イング」だが、年がら年中何10%オフセールをやっているし、その見切り品すら常に大量に店頭にある。さらにいえば、定期的に不良在庫が在庫処分屋に大量に流れてくる。
どう見ても「若者の支持を集めている」ようには見えない。
また、メルカリ愛用中のBさんにも疑問しか感じない。
メルカリには多数ユニクロが出品されており、一説にはメルカリで最も出品されているアパレルブランドはユニクロとも言われる。そして、メルカリで出品されているユニクロ商品は最終値下げよりも高い値段が付けられており値崩れしていないことが多い。+Jなんて定価以上の値段が付けられている。決してメルカリの商品がユニクロの定価より激安ではない。
次にこの記事。
若者が離れるユニクロ、もはや高所得者の御用達ブランド? 世帯年収1500万円以上でも「服はユニクロかメルカリ」という人々 | キャリコネニュース (careerconnection.jp)
内容は同工異曲だ。こういうのがメディアスクラムの典型ではないかと思う。まことに唾棄すべき態度である。
栃木県在住の30代男性は世帯年収1500万円だが、「衣類はほとんどユニクロかメルカリ」と明かす。
世帯年収1800万円の東京都30代女性も「都内の山手線の内側のタワマンで暮らしているので、わが家の生活は”平均的な暮らし”という感覚。生活用品で欲しいものは我慢しなくていいけど、洋服はユニクロかメルカリで買っています」という。
とのことで、要するに世帯年収1000万円以上(夫が500万円、妻が500万円でも達成できる)の富裕世帯がこぞってユニクロを買っていて、低所得者は買っていないという論調である。
だが、これは結果から逆算した筋の悪い推測だろう。
ユニクロの店頭を定期的に観測していれば、こういう結論にはなり得ない。
なぜなら、ユニクロにはいまだに低所得と思われる人達(見た目からの類推)が多数来店して購買しているからだ。特に値下げ品をまとめ買いしている。
事実は記事とは逆で、これまで低所得者が主に買っていたユニクロだが、高所得者も買うようになったというものだろう。
その分、百貨店向けアパレルやファッションビルアパレルが割を食っているということになる。
そして、若者離れという結論にも疑問を感じる。たしかに2009年くらいと比べると、高校生や20歳代前半の若者の利用回数は減っているのかもしれない。
なぜなら、ユニクロのデザインはベーシックが多いから。そして、2010年からジーユーがトレンド商品へシフトしたからだ。
だが、若者がユニクロから全く消えたわけではない。大学生が買いに来ているのも頻繁に見かけるし、+Jを買うために並んだ若者も多数いた。教えていた専門学校生でもコラボTシャツは買いに行っていた。
例えて言うなら、2009年ぐらいはユニクロで10枚買っていた若者が3枚か4枚くらいしか買わなくなったということではないかと思う。
ちなみに身の周りのアンケート結果を貼っておく。
若者(〜25歳くらいまで?)のユニクロ離れについて質問です。代わりに何買ってます?
— 深地雅也 (@fukaji38) July 15, 2019
じゃあイングの業績が上がっているのかといえば、そうではない。ジーユーに吸収されている部分はあるだろうが、それとてファーストリテイリングからすればユニクロで売れようがジーユーで売れようがどちらでも良い。
また、ユニクロのアウターが1万円を越える物があって「安くない」というのも何を基準に書いているのだろうと疑問でしかない。
メンズで考えると、ウール混のテイラードジャケット、一部のダウンジャケット、コート類が1万円を越える商品である。それ以外はほとんどない。
ユニクロでなければ、もっと高額になっていてとても1万円台では収まらないだろう。
また、ウール、ダウンなどの原材料は高騰を続けており、必然的にユニクロに限らず販売価格は上がらざるを得ない。
ウール混、ダウンではない合繊100%スーツとかポリエステル中綿ジャケットと価格が同列になることの方がおかしい。
要するにこれらの記事は、多少はその傾向はあるが、冒頭の「ニュースの原則」に基づいて書かれたといえる。
裸足で靴を履く人が珍しいから記事になる類である。
売上高から見ても、国内8000億円を維持し続けているユニクロから格段に客が離れた形跡はない。
こういう記事にミスリードされないように一般消費者も業界人も心掛けることが重要だろう。