単品志向の限界
2013年10月4日 未分類 0
いわゆるナショナルブランドと呼ばれた大手ジーンズアパレルが苦戦して久しい。
この原因について、マスコミはユニクロが引き起こした低価格化の影響だと指摘する。
もちろん、それも原因の一つではある。しかし、すべてではない。
筆者は、ブランド数が増え、ジーンズを扱う売り場が増えたことによる分散化・拡散化の影響も強いと考えている。
そして2007年に高額インポートジーンズブームが終息すると、現在までの5年間はジーンズ不振の時代が続いている。
先日お会いした、某ジーンズカジュアル系のトータルブランドを展開する社長はこんな指摘をしておられた。
「ジーンズというアイテムの地位は向上したが、ジーンズ専業アパレルの地位は向上しなかった」
かつてジーンズはジーンズ専業アパレルが製造し、ジーンズ専門店でのみ販売されていた。
93年とか94年当時を思い出してみると、まだDCブームの残滓があった。
筆者もいくつもDCブランドを見て歩いたが、ジーンズを企画・製造・販売しているブランドはなかった。
20年前というとひどく昔のように感じるが、オッサンにとって、93年というとつい昨日のことのように感じられる。
ジーンズというアイテムは、製造も販売ルートも特殊だった。
ところが、現在はセレクトショップもSPAブランドも婦人服ブランドもジーンズを企画・製造・販売している。
ジーンズを販売していないブランドの方が少数派ではないだろうか。
社長はこの状況を指して、「特殊アイテムだったジーンズが各販路に広がったのは【ファッションアイテム】として認められたからに他ならない。だからジーンズの地位は向上した」と説明する。
一方、ジーンズ専業アパレルの多くは苦戦を強いられているのは「ジーンズ専業アパレルの地位が向上しなかった」せいだと指摘しておられる。
ジーンズ専業アパレルに対して「ファッション企業」だと認識している人は業界の内外を問わず、酷く少数ではないか。
地場産業、工芸品、匠の世界、産地、ワーキング、ビンテージ、こだわり
そんなイメージを持つ人がほとんどではないだろうか。
そういうイメージの商品を好むコアな層はたしかに存在するが、マスではない。
90年代半ばのビンテージジーンズブームによって、新興ブランドが多く生まれた。
2000年以降もデニムの産地である三備地区(児島、井原、福山)を拠点とするブランドが数多く生まれている。
2000年以降に生まれたブランドの多くは小規模で「こだわり」の商品を企画・製造・販売している。
そういうブランドが存在しても良いとは思うが、そこに特化している間はブランド規模が大きくなることは難しいだろう。
それらの多くのブランドは単品志向で、糸だとか染色だとか縫製仕様だとか生地の表面感だとか洗い加工の風合いだとかを重視している。
もちろん、ジーンズというアイテムにおいて、そういう要素は非常に重要である。
けれどもそれのみを追求しているのは疑問を感じる。
ジーンズは衣料品なので穿く物であり、消費者はそれを様々なトップスや雑貨類とコーディネイトして使用するわけである。
なら、どのようなトップスに合わせるのか、どのようなテイストの着こなしに合わせるのか、ということを考えて商品企画する必要があるのではないか。
むろん、小規模メーカーがトータルアイテムを企画・製造・販売できるわけではないから、ジーンズという単品に集中することは仕方がないが、それでもどういうファッションに合わせてほしいのかということを想定しながら企画するべきではないか。
筆者は、多くの小規模メーカーが、材質や加工法、製造法のみにこだわりすぎ、ファッションコーディネイトを想定せず、工芸品的完成度を追求しすぎているように感じられる。
そういう姿勢の物作りを続けている限り、ジーンズ専業アパレルは現在の規模の大小を問わず、今以上の規模に成長することは難しいのではないか。
社長の意見を伺って、そんな思いを改めて強く認識した。