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南充浩 オフィシャルブログ

オリジナルで生地を作ると時間がかかりますよという話

2021年2月1日 製造加工業 0

今日から2月である。

長期天気予報を見ると、関西は暖かい日が多い。水曜日に少し寒くなるくらいであとは概ね、最高気温10度を越えている。

寒い年だと、2月中頃までにもう一度寒波がくるが、それはなさそうなので、このまま春になると思われる。

 

そうなると、2月中にダウンジャケットのセール品を売りさばくことは難しくなるだろう。大手は翌年まで持ち越せばいいが、体力のない企業はどうするのだろうか。

 

 

コロナ禍が始まってもうすぐ1年になるが、店頭の動きが鈍いため、実は糸・生地の業績も悪化している。日本の国内産地も今まで以上に冷え切っている。

イシキタカイ系の皆さんが「新しい物は作るな」と言えば言うほど、製造加工業は窮地に追い込まれていく。これは国内ばかりでなく海外も同様だ。

イシキタカイ系の皆さんの中には国内の産地を守れと言う人も多いが、「新しい物を作るな」という主張と「国内の生地産地を守れ」という主張は両立できないのである。いい加減にそれくらい分かれよ。

 

コロナ禍で店頭が動かなくなって、国内の各生地産地もかなり厳しい。週休3日制とか4日制になっている工場も多いと聞く。

そんな状況なので、「各産地がピンチ」という状況なのだが、昨年5月ごろはその中でも特に「北陸合繊産地がピンチ」という業界紙の記事が多かった。

今回はその理由について考えてみたい。

 

北陸合繊産地というのは、主にポリエステルやナイロンなどの織布がメインとなっている。

産地からの納入先は幅広いが、アウトドアやスポーツウェアなども主力の一つとなる。勘の良い方は、ここでお気付きになったかもしれないが、冒頭に書いたダウンジャケットの外側の生地も北陸合繊産地の主力商材である。

 

昨年3月下旬から5月中頃まで非常事態宣言が出され、今以上に各企業は自粛した。

3月ごろというと秋冬物のアパレル展示受注会の最盛期だが、当時は多くのアパレルブランドが展示受注会を延期ないし中止した。

当然、ダウンジャケットの展示受注会も中止ないし延期が多かった。予定通りに開催しても、小売店の来場が極端に少なく、結局受注がまとまらないというケースも多かった。

 

そうなると、当たり前だが、生地の受注も激減してしまう。

2月・3月の展示会で受注して、それ向けの生地を製造し始めるのが4月・5月ごろということになる。だから、5月ごろに早くも北陸合繊産地が目立って苦境に陥ったというわけだ。

 

何が言いたいのかというと、ダウンジャケットというちょっと特殊なアイテムを例にとったが、製品が店頭に入荷されるのと、生地製造を開始するタイミングはこれくらい離れているということである。

ダウンジャケットの店頭投入は恐らくは10月半ばから下旬にかけてだろう。早いところでも9月半ば以降だ。

展示会は2月・3月ごろで、4月くらいから生地の製造がスタートするという流れになる。

 

手芸店向けも含めて広く市場に流通している「在り物」の生地を除くと、生地からオリジナルで作るということは、これくらいの時間が必要だということになる。

また、織布工場はほとんどの場合、備蓄をしない。

受注通りの数量を作って出荷して終わる。備蓄をしておくのは元来、生地問屋の役割だった。

 

受注生産型のD2Cブランドとかインフルエンサーブランドとイキがってみたところで、生地からオリジナルで作るなら本来はこれくらいの時間が必要になる。

またオリジナル生地を使いながら、納品までの時間を短縮したいのであれば、生地問屋に備蓄させておく必要があるということである。

スマートファクトリーだ、全自動化だ、と言ったところで、生地や糸の製造や加工はド素人が思い描くような時間短縮は不可能なのである。

 

逆に受注型ブランドが1ヶ月くらいで購入者の手元に届けられるのは、生地はあらかじめどこかが備蓄しているからに過ぎない。

それは、インフルエンサーブランドの製造を手掛けるOEM業者かもしれないし、商社かもしれない。また生地問屋かもしれないし、生地工場かもしれない。

IT化、デジタル化というが、織機も染色機も編み機もデジタルでは動かない。

IT化して効率化できるのはせいぜいが情報伝達のスピードが速まるくらいだ。機械はウェブで指示操作はできない。

スマートファクトリーを作ればいいという人もいるが、繊維部門でスマートファクトリーがまともに作られた事例は寡聞にして知らない。

 

以前にも書いたが、スマートファクトリーをぶち上げたアディダスは全面的に後退している。ZOZOは構想倒れに終わった。

自動車や家電ほど数量も売れないので、機械メーカーも繊維の製造加工向け機械をそんなに積極的に開発しない。(要は開発コストに見合わない)

 

受注販売型ブランドをあたかも最先端ビジネスかのように持ち上げる報道も見かけるが、実は昔からあるやり方で、これを入荷までの時間を短縮しようと考えるなら、生地問屋の機能を拡充強化しなくてはならない。それはかつてタキヒヨーや瀧定などの大手生地問屋が強大化していった経緯と軌を一にする。

最先端のように見えて先祖帰りしているに過ぎない。

 

川上に詳しくない方は、とりあえず生地をオリジナルで作ったら、これくらいの時間がかかりますよということは理解しておく必要がある。

 

 

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