
展示会受注形式のアパレルって結構「エコ」だったんじゃないの?
2021年1月26日 トレンド 0
最近、「洋服の受注生産こそが環境に配慮したビジネスモデルだ」という言説が見られるが、売れる見込みの枚数よりも相当多く作って残すよりはたしかに環境に配慮したモデルなのかもしれないが、イシキタカイ系が考えているほど、繊維業界全体での製造量は減らない。
洋服を作りすぎるという問題の場合、はっきりと言えば、マーチャンダイザーや経営者がアホな場合に引きおこることが多く、工業製品の大量生産システムが悪なわけではない。
例えば、某ブランドショップで働いている人の話によると、このブランドショップはたしかにそれなりに人気もあって、初回入荷した商品はほとんど完売できるとのことだ。
仮に50枚入荷して何週間かかけて50枚を完売したとする。ここで新しい商品に切り替えるという手がある。また好調商品なので追加投入するという手もある。
追加投入を選ぶのは、間違いではないが、追加数量は考えなくてはならない。
その人によると、完売までに何週間か日数が経過しているのに、追加投入される数量は初回を越えることが常なのだという。
それでは売れ残るのは当たり前である。
1月26日現在で考えてみよう。
年末から寒波が来たため、恐らくは防寒アウターや厚手のトップスの売れ行きは良かったはずだ。厚手のトップスが完売したとして、これを大量に追加補充すれば売れ残ることは目に見えている。
なぜなら、寒波は過ぎてしまい、寒い日もあるが3月並みに暖かい日もあるようになった。
こうなると、防寒アウターや厚手のトップスは動きにくくなる。
2月に寒波が来れば値下げ処分で捌ける可能性もあるが、初回に50枚投入したのに、再度100枚投入するのは愚の骨頂である。
「そんな奴ぁおらんやろ~」
という声が聞こえてきそうだが、実際にこういう店もあると販売員からは聞く。
追加補充の精度を高めれば売れ残りの量は減らすことができるが、こういうブランドは精度を高める努力をまったくしていない。
受注生産にするとたしかに、ブランド側の不良在庫は減るかもしれない。だが、それを持って繊維業界全体の製造量が大きく減るかというとそうではない。
盛んに「受注生産ガー」「直販だから割安で」と言って、ウェブ上で受注を募っている某インフルエンサーブランドがあるが、製造に関してはODMを使っているし、何よりも生地は生地問屋や生地メーカーが必要だろうと思われる数量+αを抱えているのである。
結局のところ、数量を抱えるというところを生地関係者に押し付けているに過ぎない。
また、売れると考えられる数量+α分をあらかじめ生産しておく必要があるし、有り物で対応するにしても、ある程度の数量は確保しておかねばならない。
受注生産ガーブランドは、多くの場合、手元に届くまでの期間を1か月後くらいに設定している。
この納期で、生地を作るところから始めるのは時間的に不可能なのである。生産数量にもよるが、生地を生産するだけで少なくとも3カ月くらいはかかる。糸からオリジナルで作ったりすれば半年くらいはかかってしまう。
だからあらかじめ生地を抱えておく必要がある。
マーケティングでは槍玉に挙げられる旧型アパレルの展示会受注方式だが、半年先に納品する商品を展示して、受注を集めるというやり方は、ある意味で合理的だった部分もあるといえる。
半年あればオリジナル生地を作ろうと思えば作れるし、何よりも展示会というのは、受注生産方式である。
たくさん受注が集まった品番はたくさん作るし、受注がほとんど集まらない品番は「ドロップ」といって生産をしない。
とりあえず作って店頭に並べてから反応を見るというSPA型のクイックレスポンス方式よりは生産ということに関してははるかに合理的だといえる。
展示会受注形式が廃れてしまった理由は、トレンドの移り変わりが速くて、半年前の企画提案では対応できないという理由からだったが、これもジャンルによるのではないかと思う。
メンズはそこまでトレンドの移り変わりは速くないし、ジャンルによっては速くてもそれはニッチである。
レディースでも例えばナチュラル系やベーシック系なんかはあまりトレンドの変化速度が速いとは感じられない。ジャンルによっては展示会受注形式でも対応できるのではないかと思うがどうだろうか。
以前にも書いたが、繊維産業で製造・加工に使っている機械は基本的に大量生産に対応したものなので、少量生産には適していない。
さらにいえば、海外工場を含めると、何千万人もの従事者がおり、彼ら全員にある程度の職を与えるとなると大量生産以外に方法はあり得ない。
みんながそこそこの水準で暮らせて、少量の仕事で潤沢な報酬を得られて、それでいて、出来上がる商品は値ごろ感があるなんていうような世界はファンタジーの中にしかない。
今後も実現は不可能だと当方は断言する。
90年代後半に無敵の仕組みだと思われていたSPA方式のクイックレスポンス対応も、動かす人物の資質によるところも大きいが、上手く稼働できずにワールドを筆頭に今の体たらくに落ちている。
逆に、時代遅れと断じられた半年スパンの展示会受注形式にもメリットとなる点はある。
結局のところ、完全無欠のシステムなどこの世には存在しないから、それを運用する人物の資質や能力に左右されるところは大きいし、完全にデメリットしかないというシステムも存在しない。
いかに現実に即して運用するかにかかっているとしか言えない。