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南充浩 オフィシャルブログ

「物」がお粗末だったら「コト販売」は成功できない

2021年1月19日 売り場探訪 0

繊維・アパレル業界でいうと、2008年以降、ユニクロやジーユーなど一部の勝ち組を除いて、マス層での洋服の売れ行きが目に見えて悪化した。

呼び名はいろいろあるが、ミドル層とかアッパーミドル層とかローミドル層とかそういうのをひっくるめてのマス層で、ビッグヒットを記録するアイテムやブランドが少なくなった。

売り上げ規模数億円~数十億円のニッチ市場には好調アイテムやブランドも複数見かけるが、かといって、90年代後半の裏原宿ブームのように、それがマス化する気配は皆無である。

洋服という「物」が売れなくなったことで、洋服も含めた物販では「物」ではなく「コト」を売ろうという機運が強まった。これが「コト販売」である。

たしかに、戦後復興期から2000年代半ばまで日本では「物」が重視されそれが売れていた。スペックが高い商品や品質の高い商品がある程度の高価格で売れていた。定価では売れなくてもそれを値下げすれば売れた。

しかし、2008年以降はそれも目に見えて行き詰まる。主な理由は2つあると考えている。

 

1,低価格でそこそこの品質・機能・見た目の商品が登場した

2,高品質・高機能・高スペックが行き過ぎて意味のない品質や機能性を多数盛り込むようになった

 

である。

ただ、この2つに行き着くまでにもさまざまな要因が背景にあり、それが影響していることは言うまでもない。

1について、洋服業界でいうと、ユニクロのファッショナブル化、ジーユーのトレンド路線へのシフトなどが挙げられるだろう。

2について洋服業界でいうと、かつてのワイシャツメーカーの機能性積み上げ式商品の開発とか、複数の機能を盛り込んだ盛り盛りのスーツとかそういうことである。

以前にも書いたが、90年代後半から2000年にかけて複数のワイシャツ大手メーカーが倒産したが、この頃になると、形態安定機能ワイシャツのブームは過ぎて売れ行きは沈静化している。しかし、売上高を維持するためにワイシャツメーカーとそれと密接に結びついている紡績各社は、どんどんと機能性を積み上げていった。

今となっては、形態安定加工は必須として、それ以外だと消臭か防汚くらいの機能があればいいが、当時「多機能化は消費者からウケる」と考えていたであろうワイシャツメーカーと紡績各社は、これら以外にUVカット機能とか美肌のビタミンC加工、血行促進の鉱石練り込み加工などをどんどんとプラスアルファして行った。

だから、ピーク時には「形態安定加工+防臭+防汚+抗菌+UVカット+ビタミンC+鉱石練り込み」なんていう謎の多機能ワイシャツが各社から発売された。

美肌を気にしてビタミンC加工を欲しがるサラリーマンのオッサンなんてこの世に何人くらい存在するんだろう、と当時も疑問しか感じなかったが、案の定売れなかった。

 

で、2000年代後半から言われ出した「コト販売」というのは、このことへの反省とアンチテーゼだったと今にして思う。

しかし、「コト販売」にも欠点がある。それは心地良いキャッチコピーと何やらよくわからない雰囲気、ムード、怪しげな物語でいくらでも誤魔化しが効き、肝心の「物」自体がお粗末だという商品が少なからず登場してしまったことである。

今の大手セレクトショップやインフルエンサーブランド、D2Cブランドなんていうのはその影響を色濃く受けていると感じる。

「物」自体がお粗末な場合、コト販売で一度や二度は売れても三度目はない。客はリピーターになりにくい。おまけに今ならSNSで晒されて炎上する危険性もある。

 

結局のところ、物かコトかということではなく、物もコトも両方が必要だということである。特にアパレルは「服という物」を売っているので、「物」は最低でも合格ラインである必要がある。合格ラインにない商品はいくら巧言令色を尽くしても長くは売れない。

 

コト販売の直近の一例としては

 

そごう・西武 年頭のメッセージ広告に反響 百貨店は希望の象徴 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

 

が挙げられるだろう。

感銘を受けたという人が多かったようだが、個人的には何の感銘も浮けなかった。そごう西武は昨年正月から2年連続でこの手のキャッチコピーを発信している。昨年正月は「ひっくり返すがどうのこうの」というキャッチコピーだったが、あれにも感銘は受けなかった。

斜陽ムードが高まっている百貨店という業態にあって、従業員や関係者を言葉で鼓舞する必要性はある。その効果は認める。ビジネスを戦争と同列で語るなという偽善者っぽい人を見かけるが、戦争でもビジネスでも現場の士気が落ちれば勝てるものも負ける。だから常に士気を高める必要がある。

だが、士気は高まるだろうが、実際の売り場や品ぞろえはどうか?昨年3月以降の新型コロナ感染拡大による不況はあるとしても、何か物理的に変わったのだろうか?

売り場作りやブランドラインナップ、正月メッセージ以外の販促手法、取引形態などなど、百貨店が変えねばならないことは山のようにある。

しかし、そごう西武が正月メッセージ以外の何かを劇的に変えてチャレンジしているという声は寡聞ながら聞かない。

たしかに「コト」販売は上手くなったが、肝心な「物」はどうなのか?何も変わっていないのではないか。

おまけに、そごう西武は店舗数がどんどん減っている。2021年1月時点で全国に西武が6店舗、そごうが5店舗しかない。当方が住んでいる関西には両方とも店が無くなった。

ネット通販でもそうなのだが、消費者の興味を惹くことには成功したが、実際に買いに行ける場所がなく、結局のところ売れないということがよくある。

この厳しいご時世では不採算店の閉鎖や譲渡は仕方がない側面もあるとはいえ、同じ失敗をそごう西武も犯しているように見えて仕方がない。

 

これまでの「物」重視の反動から、「コト販売」を重視しすぎるきらいがあるが、「コト」だけでは結局物は売れない。メッセージやスローガンと同じくらいに「売る物」自体が重要である。スローガンが上手いことはもう理解したから、次はそごう西武の「物」の改良を見てみたいと思う。

 

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