DXで洋服の製造リードタイムが大幅に短縮されたり劇的に小ロット化されるとは思えない理由
2021年1月8日 ファッションテック 1
コメディタッチの料理漫画や料理ドラマなんかだと、主人公がめちゃくちゃパワーアップして3倍速ぐらいで動いて、何十人前の料理をあっと言う間に完成させてしまうという描写がある。
フィクションなので楽しく観ているが、実際にはこんなことは例外を除いてはあり得ない。
なぜなら、料理人がいくら動作を速くしたところで、例えばフライパンを熱する時間や食材を焼く時間を短縮できるようにはならない。
また煮込む時間も短縮はできない。
弱火で10分というレシピは強火で3分に短縮できるものではない。それをやれば火の通り方が変わってしまって、レシピ通りの料理にはならない。
もちろん、人間が3倍速く動けば、幾分か料理は早く出来上がるだろうが、3倍速く出来上がるというものではない。
最近、「DXの推進で大幅な小ロット生産化」とか「DXの推進で生産のリードタイムの圧倒的短縮」とか、そういう薔薇色の未来図を提示するコンサルが多いが、当方はその未来図には疑問を感じる。
ちなみにDXとはデラックスではない。まだ一般的にはデラックスの方が通じるが、ここではデジタルトランスフォーメーションのことである。
デジタル化を推進することで、たしかに少しはリードタイムの短縮やロットを小さくすることはできるだろう。効果がゼロとは思ってはいない。
しかし、コンサルたちが主張するような「圧倒的」とか「大幅」とかは実現できないだろうと思う。
理由は製造加工に使う機械は同じだからだ。
以前にも書いたことがあるが、縫製工場にしろ、染色加工場にしろ、紡績工場にしろ、織物工場にしろ、編み工場にしろ、洗い加工場にしろ、現在の工場はある程度全自動化されている。
そんなことはない。現に大勢の工員が働いているじゃないかと仰る方も業界の川下にはおられるだろう。しかし、全自動化した結果が今の工員の数なのである。
例えば縫製工場のミシンは、人間が踏まないといけないし、人間が生地を送らないと縫えない。
圧倒的な小ロット生産を可能にしたければ、ミシンの台数を減らして工員の数を減らせばいい。現時点ではそれしか実現できない。
真の意味で全自動化によって圧倒的な小ロット生産を達成するには、自律型のミシンを踏むロボットを開発するしかない。
鉄腕アトムとか人造人間キカイダーとかああいうタイプの自分の意思と判断力を兼ね備えたミシン踏みロボットである。
また、縫製でいえば、同じ品番の商品でも生地の色が変わればミシン糸も変えなくてはならない場合が多い。そういうときミシンの上糸と、下糸のボビンを交換するのは今のところ人間しかできない。
だから全自動化するためにはこれも自律型のロボットを開発する必要がある。
織機にしたって同様だ。
何千本~何万本もある経糸を織機にかけるのは人間にしかできない。経糸用ロボットは存在しない。
洗い加工場で、レーザー光線加工を施すにしてもそうだ。加工自体は加工機がやってくれるが、加工機にジーンズを置くのは人間だし、操作するのも人間である。
ホールガーメント編み機にしてもそうだ。いくらほぼ全自動だと言ったところで、プログラムを操作するのは人間だし、糸を交換するのも人間である。
どの工程を取ってみても、人間がまったく不要な工程は存在しない。
だから、使っている機械(ミシン、織機、紡績機など)が今と変わらないなら、情報や指示の伝達手段だけをデラックス化デジタル化したところで、大幅な短縮や小ロット化は不可能である。
冒頭の料理の例えに戻るなら、熱伝導率のまったく違ったフライパンや鍋、もしくはコンロを用意する必要があるということになる。
製造加工業の使用している各機械をすべて変えないとデジタル化しても、コンサルたちが提示するほどの効果は出ないと考えた方が自然だろう。
もしくは、人間の代わりに現場で各種判断を下して作業してくれる自律型ロボットを開発するか、である。
その時にこそ、コンサルたちが提示しているような「圧倒的な小ロット」「大幅なリードタイムの短縮」が可能になるだろう。
しかし、それが実現すれば、製造加工業の雇用はほぼ無くなる。
個人的には、自分は繊維の製造加工業に今後も従事する気はまったくないから、いくら雇用が失われようがデジタル化を推進することに反対しない。またどんどん自律型作業ロボットも開発すればいいと思う。
コロナ禍の女性労働者の苦境 衣類産業の労働力の80%を占める | WWDJAPAN.com
この記事によると、
ILOの調査では、アジアの主要な衣料品生産国の衣服の輸入量は、パンデミックにより2020年上半期に70%急落したという。その結果工場での生産能力も低下し、労働者の解雇が急増した。アジア太平洋地域では、19年に約6500万人が衣類産業で雇用されており、これは世界全体で75%を占める。ILOは、衣類産業で働く人はパンデミック以降平均して2〜4週間分の仕事を失い、現在生産ラインに戻っているのは5人に3人だけだと見積もった。
現在はそのような状況にあるという。
全自動化の推進、小ロット化の推進を叫びながら、同時に「海外工場の雇用を守れ」と叫ぶ人がファッション業界の川下やメディアには少なくない。しかし、それは両立できない矛と盾である。
どちらかだけを叫んでいるなら、当方も賛同するが、両立させろと叫んでいる人には到底賛同できない。なぜなら両立不可能だからだ。そんな都合のいい話はこの世には存在しない。
そんなわけで、業界のデジタル化は進まざるを得ないが、圧倒的な小ロット化とか大幅なリードタイム短縮とかが一足飛びに実現される可能性はほとんどない。理想を掲げることは否定しないが、ワープ航法は存在しないと見切って地に足の着いた取り組みを行うことが必要だろう。
ワープといえば宇宙戦艦ヤマトのプラモデルをどうぞ~
AIだのDXだの、ホント夢物語が好きですよね、モノ作ったこと無い意識高い系の方々はw
毎度、畑違いのうちの業界のことを書き込みますが、金属加工するコンピュータ制御のNC旋盤でも、一回動かし始めればトラブル起きなきゃ1,000個、10,000個と自動で作れるっちゃ作れます。でも、途中で切り屑を取らなきゃならないし、材料もあるていどしか機械には入れられないから途中で補給しなきゃならないし、刃物欠けたり折れたり消耗したら、人間がネジを緩めて付け替えなきゃならないしと普通に考えて無人で動かすことなんか出来ないんですが、そのNC旋盤を造ってる大手メーカーの社長さんからして「遠隔操作で無人の工場を目指す!」なんて嘯いてて、頭おかしいんじゃないかと思ったりします。ま、現場経験無いとか、どっか銀行から送り込まれたシャッチョーさんなのかもしれないですけどw
将棋とかなら、自立型ロボットが自分で着物着て会場まで移動して、将棋の駒を自分で動かして人間に勝つまでは、AIが人間を超えたとか言っちゃだめだと思いますw