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南充浩 オフィシャルブログ

なぜ形成が逆転した?ジーンズと作業服

2021年1月6日 ジーンズ 0

以前にも似たようなことを書いたことがある。

ジーンズと作業服は産地が同じである。岡山、広島あたりがそのメッカである。ちなみに学生服もこの地域で、三備地区とも呼ばれる。

備前・備中・備後をまとめた総称で、備後は広島県福山市辺りを指す。同じ広島県でも広島市辺りは安芸と呼ばれ、昔は別の国だった。

ファッション関係の人からすると、三備地区というと「ジーンズ」が真っ先に思い浮かぶだろうが、歴史は学生服と作業服の方が古い。

戦前、戦中から作業服メーカー、学生服メーカーは三備地区にあった。逆にジーンズメーカーが戦後の後発なのである。

そもそもジーンズメーカーは作業服メーカーや学生服メーカーからの転身からスタートしている。

 

転身した理由は大きく分けると2つ。

1、厚地織物の縫製や取扱に慣れていた(作業服、学生服は厚地織物)

2、1970年ごろからジーンズがファッション的にブームとなった

この2点である。

 

まあ、表現は悪いが、D2Cが人気と言われれば総合商社までがD2Cブランドをやりだすことに似ている。(売れてないけどw)

 

その昔、90年代後半の業界新聞では

 

「作業服メーカーは没落するが、ジーンズメーカーは生き残るだろう」

 

と言われていた。当方もその通りだと感じていた。

作業服自体は地味で単価の安い業界だったし、機能素材が年々開発されてそれを使用するため、機能性はアップし続けていったが、肝心の需要ということになると、現場作業員層に限られていて、広がりは無かった。

一方、元作業服のジーンズはすっかりファッションアイテム化しており、着用層は大きく広がった。

業界経験の浅かった当方なんて、「作業服はどうやって生き残るのだろう?」と当時心配になったほどだった。

 

それから20年強が過ぎた。

衣料品の低価格化や新型コロナ不況などで苦しいことには変わりはないが、旧ジーンズメーカーと比べて、いまだに生き残っている作業服メーカーの多いことに改めて驚かされる。

そりゃ、個々の企業の売上高は減っていたり、減益したりはしているのだろうが、ジーンズメーカーの激減や縮小ぶりと比べると雲泥の差である。

この未来は当時の誰もが予測できなかったのではないだろうか。

 

そして、その作業服が、いささか過大評価のきらいはあるが、ワークマンというスタープレイヤーの登場によってさらに注目が高まっている。

 

逆に今、ジーンズというジャンルでワークマン並みに注目されているブランドや商品があるだろうか?当方は寡聞にして知らない。

統計などは存在しないが、ジーンズを所有している人の数というと相当なものだろうと考えられる。だが、ジーンズというアイテムがファッション的に実需的に注目されているかというと、当方の肌感覚ではNOである。特にスキニー人気が沈静化した2015年以降はその感覚が強まっている。

 

この2つのジャンルの明暗を分けた要因はなんだったのだろうか?

さまざま考えられるが、当方が思いつくのは

1、機能性服が重視されるようになった

2、ジーンズは参入障壁が壊滅的に無くなったが、作業服は高いままだった。もしくは新規参入者が少なかった

 

この2点である。

まず、作業服というのは過酷な作業現場で着用されるため、機能性が高いことは必須である。機能性が低ければ作業に支障をきたすだけでなく、下手をすると身体も壊してしまう。

しかし、ジーンズはファッション使用されたため、せいぜいがスキニーの登場でストレッチ機能が重視されたくらいではないだろうか。

ビンテージジーンズブームのころの縦落ち感デニムなんて全く機能的ではなかった。

 

当方もそうだが、日本人消費者の多くは年々「めんどくさくない服」を好むようになっている。自分のことで恐縮だが、若い頃は「めんどくさいけど上質な素材の服」なんていうのも随分とバーゲンで買ったが、やっぱりメンテナンスが手軽で、着ていて快適な服の方を好むようになってしまった。

マッキントッシュのゴム引きコートをメンテナンスしながら使うより、同じ値段で買うならゴアテックスのコートを買う方が良いと思っている。まあ、貧乏な当方はブロックテックかワークマンのイージスかだが。(笑)

 

次に参入障壁の低さと新規参入者の少なさである。

ファッション化したジーンズには、さまざまな新規業者が参入した。またジーンズ村の方々からは嫌われるだろうが、今の店頭を見ていると、別にジーンズメーカーなんて無くても消費者は誰も困らない状態になっている。

ジーンズメーカーのOBたちが新規参入業者になった件数も多いし、製造のノウハウがOEM・ODMで流出したこともそれに拍車をかけた。

 

一方、安くて地味でかっこよくない作業服業界に、わざわざ新規参入したいという業者はほとんどいなかった。今流行りのパクリインフルエンサーブランドの数々を見ていてもおわかりだろう。カッコイイと思えばあの程度の素人が大挙乱入してくるのである。

新規参入が多いというのは競争が激化する。適正な競争は必要だが、あまりに激しくなりすぎると脱落者も増える。それが2010年代のジーンズメーカー各社だったのではないか。

 

ワークマンがこれだけ話題になっても、未だに作業服業界への新規参入はほとんどない。逆に作業服メーカーがこれまで培った低価格と機能性のノウハウを持って他分野の衣服に参入しているくらいである。

 

作業服とジーンズのこの20年間の経緯を見ていると、一概に「ファッション化して需要を増やした方がいい」とは限らないと感じる。

恐らく飲食店でも他の分野でもそうかもしれないが「やみくもなファッション化」というのは、ブランドや企業にとっては悪手なのではないかと、ジーンズ業界を20年強見てきて強く感じる次第である。

 

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