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南充浩 オフィシャルブログ

「二酸化炭素排出量の削減と経済成長の実現は両立できない」という論評に賛成

2020年12月28日 トレンド 9

2020年はコロナショックの傍ら、環境問題対策の話題が多かったが、個人的にはそのほとんどが首を傾げたくなるものばかりだった。

例えば、自動車を全部電気自動車に変えるという話だが、トヨタの豊田章男社長が大反論をされていた通り、全部を電気にすれば少なくとも10~15%の発電量の増量が必要となる。

10~15%発電量を増やすとなると、だいたい原子力発電所を10基か火力発電所20基を増設しなければならないといわれている。原子力は嫌だ、でも二酸化炭素排出増も嫌だ、というのでは話にならない。

自然エネルギー(笑)だが、人口の少ない小国以外にこれで賄っているという話は、2011年から丸9年が経過した今でも報道されていない。

自動車から出る排ガスを規制しながら、火力発電所を増設したのでは単純に考えてもプラスマイナスゼロでまったく意味がない。

さらにいえば、ガソリンとは石油を精製する際に出るものだから、これを使わなければ焼却処分するほかないとも言われており、じゃあ、自動車で使うのも焼却処分するのも同じではないかという話にしかならない。

 

これに限らず、およそ論理的・経済的ではない言説が溢れている中で、珍しく東洋経済オンラインがまともな記事を掲載していたので、今回はいささか趣旨は違うが、年末間近ということでこれをご紹介したいと思う。

 

「SDGsで危機は脱せない」”緑の資本主義”の欠陥

 

「経済成長の実現と二酸化炭素排出量の削減の二兎を同時に追えるというような、都合の良い話はない」。

 

もうこの一文だけで納得しかできない。

 

最近、資本主義を批判しているように見えて、実は資本主義を後押ししている「まやかしの思想」が気になっています。

その典型がSDGs(持続可能な開発目標)です。最近では政治家や財界人、学者までSDGsのバッジをつけ、あたかも自分たちが環境に配慮しているかのようなフリをしていますが、あの程度の取り組みでは現在の危機に対処することはできません。

 

国連や世界銀行、IMF(国際通貨基金)、OECD(経済協力開発機構)までSDGsや「持続可能な開発」を掲げていますが、彼らは経済成長を続けるためにSDGsをうたっているだけです。

しかし、経済成長の実現と二酸化炭素排出量の削減の二兎を同時に追うことはできないと科学者たちは警告しています。そんな都合の良い話はないのです。

 

とのことである。当方はもともと、2010年代の後半から大きな声で叫ばれ始めたエコな取り組みのほとんどに対して懐疑的だった。

続いて電力問題についてもこう指摘している。

 

自動車をすべて電気自動車にして、あらゆるモノをインターネットにつなぐ。電力やエネルギー消費量は倍増するでしょう。

 

そして、今、蔓延している風潮に対しては

 

東工大には、理科系の大学なので、新しい技術さえ開発すれば、社会が直面している問題を一発で解決できるといった「技術楽観論」が根強く存在します。

 

と警鐘を鳴らしている。どうだろうか?繊維業界・アパレル業界にもこれと似たような「技術楽観論」が環境問題に限らず数多く流布されており、それを都合の良いように使ったコンサルタントが跳梁跋扈しているではないか。

いわく、EC化率は高ければ高いほどいい。

いわく、DXで多品種少量生産が可能になる。

いわく、IT化すれば生産リードタイムが「大幅に」短縮できる。

などなどだ。

しかし、これらの「〇〇楽観論」の記事や論評のほとんどは、どうしてそうなるのかという原理や根拠が記されていなかったり、細かい手順が一切省かれていたりして、読んだだけではまったく理解ができない。

「細かい手順はカネを払ってくれたらお教えしますよ」というコンサルタント商法なのかもしれないが、そんな文章だけで納得してしまう人が少なくないことに驚かざるを得ない。

 

しかし、私は保守として技術楽観論を受け入れることはできません。もともと保守主義はエドモンド・バークがフランス革命を批判したことにさかのぼります。フランス革命は、人間は理性によってユートピア社会を作り上げることができるという思想に基づいていましたが、バークはこの考えを危険視しました。保守は人間の理性に対して懐疑的な見方をするのです。そのため、技術楽観論とは相容れないのです。

 

とのことで、当方も保守なので全くの同意である。フランス革命に限らず何事においても光と影が存在する。

 

最終ページではグレタ某についてとりあげている。その中で

ここで重要なのが、グレタはみなに対して、自分のように飛行機に乗るな、アメリカに行くならヨットを使え、といっているわけではないということです。彼女は、自らの特権的地位をはっきりと自覚しています。

とある。

この対談の齋藤氏はグレタに賛同している側だと感じるが、グレタ某が特権的地位にあることを明言している点については高く評価できる。

当方はグレタ某をまったく評価しないが、飛行機に乗らずにヨットでアメリカに行く、なんていうわがままが実行できるということは、それだけの財力・影響力のある特権階級に属しているということである。決して庶民の少女が立ち上がったわけではない。

特権階級の人は生活が不便になっても財力も含めて何とでも切り抜けられる。しかし、我々庶民はどうだろうか?そこまで財力が持たないだろう。環境のためなら困窮しても構わないという人がどれほど存在するだろうか。

 

この対談は、環境問題を解決するためには現在の資本主義の次の経済システムを構築しなくてはならないという論調だが、本当に環境問題を解決するなら、たしかに今の資本主義ではない経済システムが必要になる。それについては当方も賛成である。ではどのようなシステムになるのか、それは当方にもわからないが、人間には良い意味でも悪い意味でも「欲」というものがある限りは、マルクスが唱えた共産主義が成立しないことはすでにソ連の崩壊、中国の経済システムの転換を見れば明らかである。

 

それこそ、繊維・アパレル業界にありがちな「逆転満塁ホームラン待望論」が有害でしかないというのは、何事に対しても同様で、環境問題にも全く当てはまる。

 

 

この対談の齋藤幸平氏の著書をどうぞ~

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2020/12/28(月) 11:54 AM

    グレタちゃんの使った「ヨット」って400万ポンド(6億円弱)もするハイテクカーボン船でバックアップのディーゼルエンジンも積まれてて、何隻かかで船団組んでアメリカまで行って、スタッフは飛行機でイギリスへ戻ったりしてたようっすね。普通に一人で飛行機で行ったほうが、たぶんCo2少なくて済んだことでせうw
    しかし、本当に持続的な社会にしたいなら、世界人口減らすしか無いんじゃないっすかね。そうっすっと、発展途上国の安い労働力は無くなるから、先進国の庶民は安い衣食住では暮らしていけなくなりますけどね。Co2の排出規制ってのは欧州のビジネスってだけで、そもそも温暖化とCo2の因果関係すら証明されていないとか。本当に地球環境大事なら、みんな子供作らずに100年で人類滅亡させて自然だけに任せたほうが良いでしょう。ま、それでも数億年後には太陽膨張して地球ごと蒸発して無に帰るわけですが・・・。

    • BOCONON より: 2020/12/28(月) 6:47 PM

      > 本当に持続的な社会にしたいなら、世界人口減らすしか無いんじゃないっすかね

      まさに,環境問題とはすなわち人口問題ですね。ローマクラブかどこかの試算によれば,地球環境が維持可能な人口は全地球でせいぜい5,6億人だそうです。今後人口増加はいくらか落ち着いてくるらしいけれど,今現在とんでもない数なのが多少減ってきたってねえ?
      まあ当たり前みたいな話だけれど,僕がこれを言っても「何言ってんの,この人?」って顔をされるならまだいい方だ。あんまり徹底的に見も蓋もない真実を語っていると,怒り出す人や笑ってごまかそうとする人,気まづい顔して黙ってしまう人ばかりです。
      どうやらまだまだ本当の事が言える時期は遠い。トヨタの社長の話と言い,兆しは見えているとは言え。
      僕は正直自分が生きている間にはその時期は来そうもないと思っています。

  • BOCONON より: 2020/12/28(月) 6:33 PM

    南さんの仰言る通り「全面的に電気自動車に切り替えよう」なんて話は「だからもっと原発を」という結論にしか行きつきませんね。しかも世の中ほとんどの人は「”原子力発電は石油の代わりになる” のじゃなくて “少しは石油の節約になる” になるというフレコミで始まったものだけれど,それを厳密に計算して証明した人もいない」なんて事すら知らない。東電が「原子力発電は “発電時” CO2を出しません」とCMで言っていたのは,言い換えれば「その前段階でも後段階でも周りでも莫大な量の石油を燃やさなきゃ原子力発電も出来ません」という事だ,というのも勿論知らない。CO2 が地球温暖化の元凶というのも特に根拠はないし,温暖化したとしても灼熱地獄になる訳じゃないし,農業の収穫は増えるしから困らない(白熊は増えてきている)なんて事は尚更分からない(「ツバルが海に沈む,コリャ大変だ!」なんて騒いでいたトンマな人たちはどこへ行ったのやら)。
    要は石油がなきゃ何も出来ないようなものなのだから,それ抜きで経済成長なんて自家撞着というもんであります。

    まあ僕らがヘンなのです。世の中「テレビが言わない事は知らなくていい」「TVが言わない事はないのと同じ」って人の方が圧倒的多数だ。正直迷惑な気もするけれど,どうにもなりませんね・・・と思っていたのだけれど,いよいよ(いろいろと調子に乗っている)トヨタの社長すらも我慢がならなくなったようである。いいぞ,もっと言ってやれw
    グレタ嬢のスピーチもイラク戦争時の少女ナイラ証言みたいなもので,原発推進派,あるいは日本叩き隊も明らかにもうなりふり構わない方向に行っている。何だかエラい事になりそうですね。

  • BOCONON より: 2020/12/29(火) 10:36 PM

    と言っても,肝心の中国やアメリカがCO2削減なんて事には乗り気じゃないから,結局ますますEUが没落するだけの結果に終わりそうな気もするな。だって自殺行為だもの。
    まぁ日本もよその国の事は言えませんが。
    ここ20年ほど国民の大部分の所得が下がり続けている上に消費税は上がり続けている。これに本気で腹を立てている人は,でもあんまりいない。
    この調子だとコロナ禍が終息してもあと2,30年くらいはアパレル,というより国全体が没落する一方だろうと僕は思っています。

  • とおりすがりのオッサン より: 2021/01/05(火) 10:29 AM

    自動車ジャーナリストの池田直渡氏の記事(https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2101/02/news007.html)を読んでいたら、去年20年に経産省参与になった水野弘道ってのが、参与就任前にはテスラの社外取締役にもなってるそうで、「ガソリン車廃止」の話はこいつの利益誘導じゃないの?という感じのようっすね。水野弘道ってのは、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) 理事 なんかもやってたことある投資家だそう。あと、菅総理も小泉環境相も「ガソリン車廃止」なんてことは一言も言って無くて、経産省からのミスリードを誘うリークにマスゴミが乗っかって話が大きくなった模様。色々と闇が深そうっす・・・。

  • et より: 2021/01/07(木) 1:52 PM

    「経済成長の実現と二酸化炭素排出量の削減の二兎を同時に追うことはできない」

    というのは程度問題ではないでしょうか。今までのように無限に環境を使い尽くすことでの成長は
    できませんが、例えばccs ccusといった設備は今世界的に投資が集まっていて、日本でも
    苫小牧の施設が実験段階を無事終えて、実戦配備段階にあります。こうした設備、技術はコストを
    十分削減できればむしろ二酸化炭素をエネルギー源とできるわけで、将来二兎の両立に有望だと思います。
    文明の技術発展の影響力は、軽視できないと思います。

  • BOCONON より: 2021/01/08(金) 10:26 PM

    > コストを十分削減できれば

    「実践配備段階」なのにコストが削減出来ていない? それはccs も ccus も石油がなきゃ出来ないって話でしょ。違うの?

  • et より: 2021/01/11(月) 6:09 PM

    こちらのブログはあくまでアパレルブログなので、アパレルの話題の流れで環境に触れることは
    あっても、そもそも環境問題やエネルギー問題そのものを議論する場ではないので、
    最小限の返信にとどめますが・・

    bocononさんがおっしゃるように、「ccsなりccusなりが石油石炭由来のエネルギー源を使わず、
    完全に自律的に二酸化炭素をエネルギー源として循環稼働している」状態であれば、
    少なくとも文明は二酸化炭素に関してはほぼその問題を克服し、コントロールできている
    と言う状態なので、当然今の状態は、その状態ではありません。

    ただ、最終的には少なくとも二酸化炭素に限っては収支の問題なので(石炭に関しては
    いずれ廃止していく方向性のようですが)仮に今後も文明が経済成長のために、一定程度石油などを
    使い続けても、それによって排出される二酸化炭素をccs,ccusなどの施設で十分吸収でき、かつ
    自然エネルギーなどの進展で二酸化炭素の総排出量を、吸収と排出の収支が見合うレベルまで
    減らすことができれば、必ずしも二酸化炭素のみをエネルギー源として、自己循環する社会である
    必要はありません。

    ccs、ccusの今後の課題は、二酸化炭素由来エネルギーのコストを、少なくとも民間市場に
    おいて、多くの企業が活用したい、というレベルまで下げて、一定の競争力を
    持たせることです。それが技術的に早くできればできるほど、加速度的に少なくとも
    二酸化炭素問題に関しては解決できると思います。

    • BOCONON より: 2021/03/09(火) 8:24 PM

      身も蓋もない事を言うようですが,正直そういうたぐいの話(「太陽光発電のお蔭でうちは電気代がゼロになった!」とかね)はもう聞き飽きた気分なので,まあ ccs も ccus も〈実用化する見込みが立った≒採算が取れるので民間企業が続々進出して来るようになった〉時にまた教えていただきましょう。

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