不良在庫を減らしたければ「アホな願望」を排除してMDの「五適」を忠実に実践すべき
2020年12月25日 誰がアパレルを殺すのか 0
早いもので、2020年もあと1週間で終わる。
年が明けて春になると、51歳になる。もう完全なるジジイである。
業界紙記者となってからすでに23年も経過してしまい、いつの間にやら業界の古参みたいになってしまっているが、店頭販売の仕事も断続的に就いてきた。
大学を卒業して就職したのが、低価格チェーン店での販売員職だった。1年半後には店長にも就かされた。その後、靴販売店にも異動になった。その後、ブランクがあって、2014年から在庫処分店の店頭に時々立つことにもなった。2014年になぜ在庫処分店の販売員の仕事をするようになったかというと、単に仕事が無くて食えなかったからである。(笑)
Topsellerと呼ばれる人々に比べると、当方は販売への情熱はない。Topsellerを目指したいとも思ったことがない。
それでも、実際に店頭販売を経験してみると、在庫過多の場合どんなことが起きうるか、欠品が続くとどうなるか、店頭投入数量が多すぎるとどうなるか、ということを身を持って知っている。
専門学校で計数管理の授業を担当しているが、マサ佐藤氏の足元にも及ばないことは自覚しているが、それでもそういう店頭でのリアルな経験は話すことができる。
基本的なことだがMDの五適とは
・適品
・適時
・適量
・適価
・適所
である。
こんなことは業界人なら誰でもご存知で、業界内では一般常識といえる。
だが、一般常識にもかかわらず、業界にはこれをまったく無視して業務を行う人も珍しくない。それは新人からベテラン、著名人まで幅広く存在する。
先日、専門学校でこの五適について話をし、業界に伝わる大失敗エピソードも伝えた。
すると学生の一人が
「ベテランなのにどうしてそんな大失敗をするんですか?」
と尋ねた。
これはなかなか良い質問である。
そこで
「恐らく、頭では分かっているが、慣れと過信があったのではないか。仕事を円滑に進めるには慣れが必要だが、慣れすぎると過信してしまって現実的な思考を失ってしまう」
と答えた。
「過剰在庫ガー」が喧しいが、AI(人工知能)とかまだ見ぬ超未来テクノロジーとかそういう高額な物を導入する必要はなく、五適に再度忠実になればある程度は解決するだろう。
賛否両論あるが、三陽商会の大江社長のインタビューが話題となっている。
【トップに聞く 2021】三陽商会 大江伸治社長 ラブレスの不振は「素人遊びの結果だ」 (fashionsnap.com)
その中に、ラブレスの急ブレーキの原因について言及した箇所がある。
特にラブレスはバイヤーがあれもこれもと仕入れてしまったために5000品番もある状態になっていた。
そりゃ失敗して当然である。品番数が多すぎる。この当時のラブレスのバイヤーはド素人だったといえる。そして、今は「品番数は5000から1000ほどに減らし」とあるが、それでも多すぎる。まだまだラブレスの再建は道半ばどころか3分の1にも達していない。
これは五適の中の「適量」ということを真剣に考えれば防げたはずである。
品番数を増やせば増やすほど売れ残りは増える。なぜなら、それぞれの1品番当たりの購買数が減るから、どの品番も少しずつ売れ残るということになる。そしてそれぞれ少しずつ残ったものが5000倍になるわけだから一気に不良在庫が増えるということになる。
余談だが、インターネット通販の不良在庫が増えやすくなる理由の1つも同様である。
インターネットという空間は理論上無限のスペースがある。だから無限に陳列することができる。そのため、考えの浅いインターネット通販業者は無限に品番を増やして無限に陳列してしまう。だが、訪問客が見るのはせいぜい最初から5ページ目くらいまでで、100ページ目・200ページ目なんて誰も見ない。誰も見ないということは売れないということである。
そして不良在庫が溜まるわけである。
また「適価」への認識も甘い場合が多い。
10年ほど前だが、某カリスマ氏がイトーヨーカドーの仕事で、数万円のPBジャケットを開発したことがある。この業界の人はいまだに「良い物は高くても売れる」という謎の信仰を持っているが、それぞれの販路で許容できる範囲の「高値」が存在し、それを越えると売れなくなる。なぜなら「客層」が変わってしまうからだ。
いくら「上質な素材を使って丁寧な縫製をしました」と言っても、イトーヨーカドーに買い物に来る客が数万円のジャケット、しかもヨーカドーのPBを買うはずがない。
せいぜい19000円までだろう。個人的には9800円の上質ジャケットだったらヨーカドーの客層にはまったと思う。
数万円のジャケットを買いたいと思っている客はイトーヨーカドーではなく、ユナイテッドアローズやビームスに行くだろう。逆にユナイテッドアローズで数万円のジャケットを買う人はイトーヨーカドーで買いたいとは思わない。
だから、この商品に需要は発生しない。
この某カリスマはそこの見極めができていなかったということで「適価」という概念を頭ではわかっていたのだろうが、自分事としては考えられなかったといえる。
この商品が「適価」なら不良在庫は発生しなかった、もしくは、不良在庫は少量に抑えられただろう。
五適に忠実にならずに、担当者の「願望」や「妄想」が最優先された場合、必ず失敗するといえる。
数万円のジャケットもカリスマ氏の願望に過ぎないし、5000品番の仕入れもド素人バイヤーの願望に過ぎない。願望を持つことは重要だが、現実を願望に当てはめることは道を誤らせるだけである。
人工知能だとか、ナンタラコマースだとか、インフルエンサーへの依頼だとか、よくわからないコンサルとの契約だとか、そういうことに毎月何千万円・何億円とつぎ込んで在庫削減を目指しているアパレル企業ばかりだが、もう一度、基本の五適に立ち戻り、「アホな願望」は全て排除して、自社の現実に即した五適に取り組むことが、もっとも安上がりで着実な不良在庫削減の近道になるだろう。
マサ佐藤氏の初期の電子書籍をどうぞ~