「ニットデニム」とはどういう商品か?
2020年12月14日 ジーンズ 2
ジーユー以外にも「スエットライクニット」という商品名を使っているブランドを発見して、ちょっと絶望的な気持ちになった。下手をするとこれがスタンダードになりかねない。
ジーユーの店頭で件の商品を触ってみると、どのあたりがスエットライクなのかちっともわからない。起毛させた合繊セーターでしかなく、その程度の合繊セーターなら過去からあった。ことさらに目新しさは感じない。
これに限らず「ニット〇〇」とか「〇〇ニット」のような感じで、「柔らかい」「伸縮性がある」という意味合いで「ニット」を冠する商品が増えた。
で、この現状に対して、ある知り合いが「発端はニットデニムからではないのか?」との意見を投げかけてくれた。
つぶさに検証したわけではないが確かに一理ある。
ニットデニム、ジャージデニムみたいな呼び方の商品が初めて発売されてから9年が経過した。
この手の商品の嚆矢はディーゼルのジョグジーンズで、2011年のデビューとなる。その後、エドウインがジャージーズで追随し、各社に広まった。
これが生まれた背景には、間違いなくスキニージーンズの存在がある。
スキニージーンズの流行は、ストレッチ混デニム生地の普及と表裏一体だったからである。ピチピチのスキニーシルエットのジーンズがマス層に広がるためには、ストレッチ混デニム生地である必要があった。
なぜなら綿100%デニムでは硬くて動作が不自由になりすぎて、コアな変態ファッションマニアなら我慢して穿くだろうが、そんな変態マニアは少数派である。マス層はやっぱり動きやすさが担保されていないと、なかなか手を出さない。間違って1本は買っても2本目、3本目は買ってくれない。
ストレッチ混デニムの普及によって、スキニージーンズからさらにリラックス性を追求したといえ、そこにアスレジャーの要素も加わったのではないかとも思える。
2011年・2012年ごろの業界の様子を回想してみる。
ディーゼルからの発売によって、様々なメーカーやブランドがエドウイン以降に追随した。そしてそれらの商品は広く「ニットデニム」「ジャージデニム」などと総称されるようになっていた。
デニム業界の方なら誰でもご存知だろうが、デニムと縁遠い衣料品業界の方はご存知ないかもしれない。
この当時の「ニットデニム」には生地の種類が大きく分けて2種類あった。
編み物と織物である。
お気付きだっただろうか?
まず、編み物だが、いわゆる「裏毛」素材が多かった。
裏毛とはどんな素材かというと、スエット(トレーナー)によく使われる生地で、裏面には細かいループ状糸が出ている。だから「裏毛」と呼ばれる。
スエットの裏毛は編み物なのである。編み物はカタカナではニットと総称される。だからスエットライクニットというのはまったく意味不明の商品名なのである。
もう一つの織物は通常のストレッチデニムの伸縮性をより高めたものである。ただ、ストレッチ素材を新しく開発したというよりは、ストレッチ糸の伸縮性の抑制度合を変えただけというのが実態なのではないかと思っている。
大きく分けてこの2種類があった。しかし、今は「織物」ほぼ1種類しか残っていない。裏毛素材はどんどんと市場から姿を消した。
その理由をご存知だろうか。
理由は
1、色落ち加工を施してもヒゲ、アタリなどが出にくい
2、洗い加工で糸が1本でも切れたら穴ができ、穴がどんどん広がる
あたりである。
要するにニット素材のデメリットが問題視された部分が大きかった。
まず、ヒゲやアタリが出にくいという問題だが、スエットを洗い込んでも通常のデニムのようなヒゲやアタリはほとんど出ない。
それが編み物の特性である。
また、洗い加工を施す際に、糸が1本でも着れたら穴が開くし、それがどんどん際限なく広がっていく。通常のデニム生地だと、糸が1本切れたくらいでは穴が開かないし、仮にクラッシュ加工で穴を開けたとしてもその部分に力をかけて広げない限りは穴の大きさは変わらない。
そのため、2015年頃には裏毛素材の「ニットデニム」はほとんど姿を消していた。
表題に戻るが、裏毛素材の「ニットデニム」というのはまったくもっておかしな商品名だったといえる。
デニムの定義とは
1、綾織りである
2、経糸が紺色に染められている
3、紺色の経糸は糸の芯まで染まっておらず、中心は白いままで「芯白」と呼ばれる状態である
この3つがすべて兼ね備わっている必要がある。
だから、インディゴ染め糸を使った裏毛素材は絶対にデニムではない。
では現在も残った織物はどうだろうか。
こちらも大きく2つに分かれている。
1、ストレッチ性の強いデニム生地
2、変型二重織り生地
という2種類である。
1の説明は不要だろう。通常のデニム生地と変わらないがよりストレッチ性が高いということである。2については、裏面を一見すると「裏毛」のように白い糸が出ている。これを「裏毛」と見間違える方が業界内にも多く、これを指して「ニット素材のデニム生地(正確には意味不明)」と説明してしまっているのである。
ストレッチ性が高くてニットのように伸縮性に富み動きやすいデニムという意味での「ニットデニム」というネーミングだったのだろうが、これが誤解され「ニット〇〇」というその後の名称の乱発につながってしまったのではないかという指摘は正しいのかもしれない。
正直なところ、ニットデニムはまだしも、それ以降の「ニット〇〇」という商品名は気色悪くて仕方がない。
ディーゼルのジョグジーンズをどうぞ~
comment
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BOCONON より: 2020/12/14(月) 9:02 PM
「裏毛」(うらけ,と読むならん)というのは初めて聞きました。昔なら「パイル」と言っていたものの事のようですね。パイルと言ったんじゃ,それはそれでお若い人には何の事やら分かるまい,という気もしますが。
スウェットパーカ(parka インド由来の言葉で “パーカー” ではない)の場合,「裏起毛」(または裏ボア)というのもあるからまぎらわしい。中には裏毛と裏起毛を取り違える人もいるに違いない(僕みたいに)。まあいづれダサいと思うので,モコモコパーカなんて「買わんけどなw」ですが。ジーンズについて言えば,昔はスキニーでなくとも「ジーパンは窮屈でなあ」なんて言う中年男が結構いて,若い娘に「おじんくさーw」と嗤われたりしていたな。まぁ確かにジーンズはゴワゴワしていてキュウクツなのが良いようなものだから,一時話題になったテンセルジーンズなんてものもすぐ消えた。最近の「柔らかくてストレッチが利いて穿きやすくて暖かいジーンズ」なんてものも,僕には語義矛盾な感じがして誰が買うのやらよう分かりませぬ。
と言ってもまあ “黒のスキニーデニム” なんてものは別。ここ10年ほど若い人向きの服はスーツまで言わば “スキニースーツ” で「窮屈だからストレッチをきかせてみました」なんて本末顚倒気味な様子。自分は着ないとは言え「細けりゃいいってもんじゃあるめえに」で,どうも見ていてバカバカしい感じがします。ストレッチ生地は型崩れするから,長くは着られない事前提だし。
まあこの流行も長くはない気もしますが,ワイドパンツやベルボトムが流行ったりしたらそれはそれで「オレの若気の至りを再現してくれてもなあ…」であります。
風呂の 追い焚き に違和感がある。ガスや石油で加熱しているだけで何も焚いてない。銭湯ならわかるが、今の時代薪を使っている家庭は少ないはずだ。