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南充浩 オフィシャルブログ

「定番品を持ち越す」という手法は昔からある

2020年12月11日 企業研究 1

世の中というのは、時代が進むとそれにつれて技術や方法論が進むわけではないらしい。

テレビの世界では、黎明期には録画するという機能が無かったため、すべての番組が生配信されていた。ドラマも生で演じていたわけで、極端にいうと、舞台演劇を配信しているというような形態だった。

少し時代が進むと画像を録画撮影するという機能が開発され、そこから、テレビ番組は録画撮影し、それを編集して放送するようになった。

しかし、この形態が「当たり前」になると、「生配信こそが新しい」という概念が生まれてくる。たしかに物珍しいかもしれないが、ちっとも新しくない。

だから、たまに生放送ドラマみたいなものが放映されるようになる。

 

アパレルも同様で、進歩しているようで先祖返りしているということはよくある。

以前にも

そのやり方は昔からあったよね? – 南充浩 オフィシャルブログ (minamimitsuhiro.info)

 

で書いたが、押しの接客が強いトウキョウベースが「新しい」と評されたが、それって昔からあるレリアンの販売員とどう違うの?ってことになる。看板が違うだけじゃないの?

また、80年代のハウスマヌカン、90年代後半のカリスマ店員とどうちがうの?って話である。

 

で、最近は、エコだかエシカルだかサステだかの視点からか、アパレルブランドに対して「定番品を持ち越すことが新しくて正しい」という論調も溢れている。

 

だがちょっと待ってもらいたい(朝日新聞風味)。

 

例えば、定番品持越しの筆頭として語られるユニクロ。ユニクロは、持ち越す定番品と投げ売る定番品を明確に分けているように店頭では見える。

個人的には1年間くらい持ち越してから投げ売るというのが正確な実情ではないかと定点観測をしていて感じる。

例えば、昨年秋冬にデビューしたハイブリッドダウンパーカ。今秋も少しリニューアルしてハイブリッドダウンパーカが発売された。

一番違う点は、昨年物(2019秋冬物)は胸にポケットがない。2020年秋冬物は胸ポケットがある。

で、2019年秋から2020年2月末にかけては記録的な暖冬で終わったため、各店頭を見ていると、ハイブリッドダウンパーカは完売できずに終わった。

だが、3月くらいからは店頭から姿を消した。

倉庫に収納したとしか考えられない。

 

そして、2020年秋から、店頭には再び胸ポケット無しのハイブリッドダウンパーカが姿を現した。

価格は投入当初から7990円に値下がりしていたが、現在は5990円に値下がりしている。

 

半年強寝かせてから、値引きして投げ売る。

これがユニクロの店頭定点観測から見える定番品の消化方法である。ヒートテックしかり、エアリズムしかりである。

当方は、2019年秋冬ハイブリッドダウンパーカを5990円で近々買うつもりである。これで今冬の防寒アウターの購入はお終いである。

決して「定番品を持ち越して、値下げしない」わけではない。

そして、この「持越し」ができるのは、世界トップ3に入るファーストリテイリングという会社の大資本によって実現されている。

 

ここからが本題なのだが、「定番を持ち越す」「定番を何年も売る」というビジネスモデル自体が、実はまったく新しくなく、むしろ古い業態に多かったというのが実情である。

その代表例が老舗のジーンズメーカーである。

エドウイン、ビッグジョン、ボブソン、タカヤ商事などの老舗大手は、自家縫製工場を持っていた。自家縫製工場があることは強みでもあるが弱みでもある。

売れなくても毎日ドンドン生産され続けるわけだから、すぐに過剰在庫に陥りやすい。

 

しかし、ジーンズメーカー各社は、長い間

「定番だから何年間持っていても大丈夫。いつでも売れる」

という姿勢だった。各社のレギュラーストレートジーンズは定番品だから何年先でも売ることができるというわけだ。

これと同じ思想だったのが、ワイシャツメーカー各社である。

白いワイシャツも定番品だから「何年先でも売れる」というわけだ。理論上は。

 

もちろん、現在のユニクロや無印良品との違いはある。

ジーンズメーカーとワイシャツメーカーが卸売り主体だったことに対して、ユニクロや無印良品などはSPA型の直販という点である。

ジーンズメーカーとワイシャツメーカーは、小売店へ卸売りするという形態だったので、最終的な消費者との接点もないし、店頭での値引き云々というのは原則として関係ないということになる。(あくまでも原則的には)

 

だが、「持ち越すことが新しくて正しい」のだろうか?

卸売りと直販という違いはあるが、ジーンズメーカーも大手がほとんど脱落したし、ワイシャツメーカーなんてまともな大手はもう山喜くらいしか残っていない。直販型にシフトした東京シャツも日清紡の子会社になってからは赤字続きである。

トミヤアパレル、カネタ、信和シャツ、松屋シャツと倒産が相次いだし、蝶屋も山喜に営業譲渡の上で解散となった。

たしかに直販とは違い、卸売り主体という形態ではあったが、決して「持越しは新しい」手法ではない。むしろ、古いやり方に属する。そして正しかったのかどうかも、これだけメーカーが倒産したり脱落したりしていたのではわからない。

むしろ、これまでの「短サイクルトレンド型」のアパレルブランドが行き詰ったから、「隣の芝生は青い」とばかりに飛びついているだけではないのかと思えて仕方がない。

むろん、オムロンそれぞれの利点を精査し、今のビジネスに活用することを否定はしないが、単に目移りしているのであるなら、逆にもっと手ひどい結果を招くのではないだろうか。

くれぐれも「どこかに青い鳥が存在する」というような他力本願は捨て去るべきだろう。この世には青い鳥も存在しないし、理想郷も存在しない。

 

 

青い鳥の本をどうぞ~

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 comment
  • kimgonwo より: 2020/12/11(金) 12:57 PM

    山喜のファミリーセールはマジ神(何風味?)

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