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南充浩 オフィシャルブログ

マス層をターゲットとしたブランドは来年から低価格志向を強めるだろう

2020年12月8日 企業研究 2

以前にも書いたが、無印良品が今年10月から衣類72品目を値下げした。

インナーダウンベストが3900円から2900円に値下がりしたので、はっきり言ってユニクロのインナーダウンよりお買い得である。

またジーユーが来春から30%値下げする。

ついでにGAPも日本市場でようやく定価を見直して値下げした。

 

それぞれ抱える背景は異なる。

GAPの場合は過去20年間に渡って日本市場で取ってきた価格戦略が根本から間違っていた。高い定価を設定し、売れ残ると1000円未満に値下げして何とか売り切ろうとする。しかし、値引き幅が大きすぎて元の定価自体が信用されなくなった。こんな簡単な理屈がアメリカ人にはなぜわからないのか不思議でならない。

GAPの値下げは、ようやく定価設定の考え方がまともになったということである。

 

一方、無印良品は、これまで客単価を下げ続けてきたから、コロナ不況の影響もあるが、現状追認の性格が強い値下げではないかと感じる。

 

明確に低価格戦略を強化するのはジーユーだ。ジーユーの月次は分からないながら、8月期決算でも増収だったので、無印良品のように現状追認ではないし、GAPのように元の価格戦略が誤っていたわけでもない。むしろ、積極的に価格競争を仕掛けていると考えられる。

 

マーケティングには4P 戦略というのがある。product、place、price、promotionである。

プロモーションを仕掛ける場合は、「どのように伝えるか」が重要になり、それには「相手の現在の心理状態に合わせた方法を選択する」とある。

売上高2000億円を越えるジーユーのターゲット層はマス層だから、マス層の「現在の心理状態」はどういうものであるかを考える必要がある。

3月下旬からのコロナ休業によって、職を失った人が増えた。また職を失わないまでもバイトやパートは時給は変わらないまでも時短によって稼働時間が減っており、総収入が減っている場合も多い。

そうなると、どうなるかというと、収入の減った世帯が多く、消費者心理としては「カネを使いたくない」「なるべく節約したい(しなければならない)」ということになる。

そういう「顧客心理」に合わせるとどうなるかというと、「値下げ」の提示が最適解の一つであることになる。

お分かりだろうか。

 

ジーユーの首脳陣とは面識がないし、どのようなパーソナリティーの方々かもわからないので、ここまで考えているかどうかは不明だが、当方は、彼らはそう考えたのではないかと思う。

ジーユーはかつて2009年のリーマンショック後に990円ジーンズを打ち出し、積極的に価格競争を仕掛けて起死回生を果たしたという実績がある。

あれが当たらなければ、それまで鳴かず飛ばずを続けていたジーユーは無くなっていただろう。

今回も同様の仕掛けではないかと思う。

 

ただし、今のジーユーに定価990円ジーンズは存在しない。安くても1990円が定価だから、実に1000円の値上げであり、値上げ率は50%を越える。(笑)

ジーユーが巧妙なのはシレっといつの間にかジーンズの定価を1990円に戻しているところである。この狡猾さを他のアパレルは見習うべきだろう。

 

これに対して、業界からは「低価格戦略に巻き込まれるのは不味い」という警戒の声が上がっているし、評論家の中には警鐘を鳴らす者もいる。

だがちょっと待ってほしい(朝日新聞風味)。

コロナ休業による収入減のマス層に「激安品はダメ」とか「良い商品を良い値段で買いましょう」と言ったところで、無駄である。

無い袖は振れない。

しかも食品と異なり、現在の洋服は「必需品」としての性質が薄い。

もちろん必需品はある。肌着、靴下類がそうだし、それだけでは生活ができないのでトップスもボトムスも必要不可欠である。

とはいえ、もう敗戦直後でもなく、明日着る洋服がないという人はほとんどいない。

恐らく、半年から1年間くらいは着る物に困らない人が多い。

 

そうなると、洋服は「必需品」ではなく「必欲品」「嗜好品」という性質が強くなる。

今、買わなくても困らない商品だから「来年仕事が回復したら買おう」というふうになりやすい。当方なら間違いなくそうなる。

食料品を劇的に減らすことは難しい。なぜなら食わなければ確実に死ぬからだが、洋服を買う枚数を減らしても死なない。だったらどちらを減らすかは明白である。

マスの消費者はそういう心理状態なのだから、今、プロモーションとして打ち出して心に響きやすいのは「値下げ」なのである。

 

価格低下に対して

 

コロナショック、消費税総額表示であらためて低価格が進むのか?今一度、価格政策について考えよう。: ファッション流通ブログde業界関心事 (cocolog-nifty.com)

 

筆者が一番恐れるのは、市場全体が更に低価格指向になることで、より安く作ることを考える、つまり、原価低減合戦が進むことです。

それは、コロナ以前に、懲りたはずではなかったでしょうか?

 

などと警鐘を鳴らしている評論家は、自分が儲かっているから、マス層の心理状態が分からなくなっているのではないだろうか。

もちろん、金持ちだけを対象にしたブランドのみに対してコンサルするならそれはそれでありだろうが、マス層をターゲットとしたブランドをコンサルするのなら、マスの心理状態がわからないのはいかにもまずいだろう。

これはこの評論家に限ったことではなく、アパレル関係の著名なベテラン評論家は概して同じ性向にあるように感じる。

コロナ不況が収束しない限りは間違いなく、マス層からの洋服への低価格志向は進むし、いくら綺麗事のスローガンを掲げたところで、無い袖は振れないのである。

 

 

無印良品のセーターをどうぞ~

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2020/12/08(火) 4:54 PM

    【恐らく、半年から1年間くらいは着る物に困らない人が多い。】
    わたし、このブログ読み始めてから、ちょくちょく服買うようになった50がらみのオッサンですが、以前から1~2年は下着と靴下以外は服買わないとかザラにありましたよw
    「いい加減ズボン擦り切れてみすぼらしいから買うかぁ。裾上げとか、めんどくせぇんだよなぁ。」って感じでw
    アパレルの人は、こういうオッサンとかの需要掘り起こしたら少しは売上増えるんじゃないっすかねぇ?w

  • BOCONON より: 2020/12/08(火) 5:21 PM

    昔から中年以上の男向きのファッション誌は何度か発行されたけど,すぐ消えてしまった・・・なんてレヴェルの話じゃなくて,最近おじさん達はほとんど洋服を買わないようですね。何しろスーパーの紳士服売り場など見ても,しばしば売り場自体なくなりつつあるような塩梅
    で。僕は時々「おじさんオジイサンの着ている服って一体どこでいつ買ったものなのだろう?」と不思議に思ったりします。とおりすがりのオッサン氏のような奇特な人は珍しいと思う。

    それはとも角,コロナ禍のせいでこの業界もどうやら最早お洒落,ファッションどころじゃなく,一種の “貧困ビジネス” 以外生き残れなくなりつつある感じですね。先日池袋東武行ったら,レナウンやオンワードの閉店ラッシュのせいで紳士服売り場の空きが埋まらず,ベッドや自転車並べて売っている有様でした。あなすさまじ。

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