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南充浩 オフィシャルブログ

洋服はサイズが合っても似合っているとは限らない

2020年12月4日 ネット通販 4

今春、新型コロナ感染の拡大による大規模な長期休業があり、ネット通販が唯一の販路として大々的に稼働した。

しかし、ことアパレル製品に関しては、ネット通販比率は大幅に伸びたものの、実店舗の売上高減少をカバーするには至らず、その状況は、年末となった今も変わっていない。

ウェブ業者はここぞとばかりにネット通販強化を各アパレルに営業して回っているが、まあ、はっきり言えば玉石混交である。当方が知る限りにおいては「石ころ」業者は掃いて捨てるほどいるが、「玉」の業者は数えるほどしかいない。

そして、それに便乗するのが、カタカナ大好きコンサルタント諸氏である。わかったようなわからないようなことをルー大柴よろしくカタカナ混じりに説きまわっている。

アナログアパレル企業の老社長なんて、多分あの「ルー語」をまったく理解できていないと考えられるのに、そういう人の言うことにコロっと騙されて大枚をはたいてわけのわからない契約を結んでいる。

 

文章の趣旨はともかくとして、ネット通販の大幅な伸びでも、いまだに実店舗売上高の減少を食い止められない状況を手短にまとめてくれている記事があるのでその部分だけを引用する。

 

「ECの限界」に直面したアパレル業界…じつは新しい「試着サロン」が突破口になる!(小島 健輔) | マネー現代 | 講談社(1/6) (ismedia.jp)

 

コロナ禍で店舗売上が激減した3〜5月期のオンワードホールディングスの国内アパレル事業売上は百貨店が71%、SCや駅ビルが40%も減少した一方でECは50%も伸びて45%を占めたが、それでも店舗売上の減少を埋めきれず国内アパレル事業全体では41%も減少した。

ユナイテッドアローズの4〜6月期も店舗売上が63.5%減少した一方でECは40.2%も伸びて48.5%を占めたが、店舗売上の減少を埋めきれず全体では40.0%減少した。

米国でもノードストロムの5〜7月期は店舗の営業日数が半減して売上が73.8%も減少したが、EC比率が61%に達しても店舗売上の減少を補えず全社売上は52.9%も減少した。

 

ほかにも

ワールドの11月度売上速報では、EC売上高は前年比13・2%増なのに対し、それを含めた国内小売売上は前年比24・0%減に終わっている。

4月から9月の上半期合計でもEC売上高は39・3%増だが、それを含めた国内小売売上は35・6%減と大幅減少である。

 

これを見ても、ネット通販の凄まじい売上高増は実店舗売上高減少をほとんど補填できていないということが分かる。

如何にこれまでのネット通販売上高そのものが小さかったか、実店舗売上高が大きかったかということになる。

 

コロナ休業があり、11月に入ってからの感染再拡大も始まっているにもかかわらず、どうして消費者はネット通販への移行を全面的にしないのか。

 

アパレル業界ではその理由を「サイズ」に求める人が圧倒的に多い。サイズが小さすぎれば着用することはできないし、いくら返品無料を謳っていても、その作業は面倒だ。

当方もネットで服を買うことには慣れたが、サイズ表記を見て、着られるかどうかわからないギリギリの大きさの服は買わない。従ってネットで買う服のほとんどは

 

1、一度試着したことがある服

2、確実に着られるサイズの服、もしくはビッグサイズの服

 

この2つのどちらかの条件に当てはまる物である。

 

それゆえに、テック界隈では「自動採寸技術」に血道をあげることになる。失敗に終わった2年前のZOZOSUITなんかはその典型で、あれへの過剰な期待もどちらかと言えば、マスの消費者というよりは、ルー大柴コンサルタントやイシキタカイ系の業界界隈人からのものであったと感じている。

しかし、当方は、完璧な自動採寸システムが完成したとしても、洋服の売上高の8割・9割をネット通販が占めるようにはならないと考えている。

その理由は、仮に自動採寸が完璧だったとして、サイズ選びに狂いがなくなったとしても、洋服にはもう一つ懸念が実は残る。

これが洋服以外の雑貨や家具、日用品ならサイズと材質、機能性だけで購入することができる。この分野のネット通販比率はさらに高まるだろう。

重い物(飲料の24本入り、大型家具など)、かさばる物(大型家具など)はネット通販で買うのが便利である。24本入りの飲料なんて結構重いからスーパーから持ち帰るのに苦労する。それならネット通販で自宅の玄関まで届けてもらった方が圧倒的にラクだ。

 

だが、洋服購買の最大の難関として、サイズ以外に「似合うか、似合わないか」がある。

いくら「ファッションは自己主張のツール」だ、「ファッションは自己満足」だ、と言ってみたところで、他人から見て似合っていなければ、そこに価値は無い。自己満足の人もいるだろうが、それは少数派で、マス層は似合っていることに価値を求めている。当方も同じである。

 

となると、サイズが大丈夫でもその服が自分に似合うかどうかは手元に来るまでわからない。実は当方もこれまでネット通販で買った服で、画面のモデルさんは似合っていたが、いざ届いて自分が着てみるとあまり似合っていない服が5~6枚くらいある。

結局のところ、画面の中のモデルさんとは容貌も異なれば体つきも体格も体型も異なる。サイズが合うからと言って必ずしも似合うわけではない。

いっそのこと捨ててしまおうかと思ってしまうが、ほとんど着用していないからもったいないので、ハンガーに吊るしている。

 

「似合うか、似合わないか」、これをクリアするためには試着してみる必要がある。だから試着専用店舗の普及である程度は解決できるかもしれないが、ネットだけで完結させようとするブランドには常にこのハードルが付きまとうし、自動採寸の精度がいくら高まっても、それだけでは解決できない。実際に試着してから買っても、自宅に帰ってもう一度着てみるとやっぱりイマイチ似合っていないということも珍しくない。

 

だから、いくらルー語を連発しようが、ネットニュースで煽ろうが、今のやり方のままでは、こと洋服販売に関してはネット通販がいくら伸びてもネット通販比率が実店舗売上比率を越えることはないだろう。

 

 

こんなオートメジャーをどうぞ~

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 comment
  • 細野 より: 2020/12/04(金) 9:40 AM

    自分に似合うが知りたくて、パーソナルスタイリストのサービスを何年か利用してました。でもそこで分かったのが、似合うと好きが必ずしも一致していないことです。似合うと言われて選んでもらった服は、鏡の前で着てみるとたしかに似合っているのですが、その服が好きか?と言われるとそうではない場合もあります。では、似合っていて好きな服は?というのが分かれば、楽なんですが。似合うと好きの折衷案を出してくれるサービスがあったらなと思います。

  • とおりすがりのオッサン より: 2020/12/04(金) 11:42 AM

    自動採寸って、表面上の身体の採寸完璧に出来たとしても、骨格とかまでは分からないからやっぱりスーツとかを仕立てるのは無理じゃないのかと思いますわ。色んな体型の人を計測した上で、服を実際に着させてどうなるかのデータを何千人か何万人か取れば上手くいくようになるかもしれないですが、ZOZOがいくらデータ取れたと言い張っても、そんなの信用できないですね。またZOZOSUIT2とかいうのも作ったと宣伝してましたが、服を着せてデータ取らなきゃ意味ないでしょう、たぶん。
    スーツ以外の服でも、生地によって同じサイズのはずでも着心地変わってきたりもするし、自動採寸がいくら正確になったとしても、服の方が自動採寸用に最初から合わせないとダメなんじゃないですかね。でも、そんな手間を掛けられるアパレルも無いだろうし、手間かけても回収できそうもないでしょうし、結局儲かるのはコンサルタントだけだったりW

  • BOCONON より: 2020/12/05(土) 2:14 PM

    別に反論という訳ではないが,僕はさらに根本的な問題に関心があります。それは試着はしないよりした方が良いですが,世の中大部分の人は ...

    ①自分に似合う似合わないが分からない,あるいはそれ以前におよそ日本人には似合わないものが分からない
    ②試着の仕方が分かっていない
    ③ある程度は洋服見る目があっても,その目が曇らされてしまいがちだ

    ①は例えば,春先になるとおじさん達はしばしば紺ブレザーにジーンズ,ついでにピンクのBDシャツなんて格好でお出かけしたりする。でもたいてい失敗している。紺は重く堅く冷たい色なので,30代以上になると誰でも似合うものではくなる。髪が黒く肌が黄色っぽい日本人男がピンクやイエローのシャツ着ると肌が汚く見える,等々。
    ② ①とも関連する話で,たいていの人は洋服買う時既に持っている服と合わせてみて選ぶ,ついでに体形や肌の色に合うか見る,という事をしない。紺ジャケットに合うジーパンは滅多にないので,着て行って実際にいくつも合わせてみないと見つからない。自分のスーツに合うネクタイやシャツは尚更です。でもそんなめんどくさい事をする人はめったにいない。

  • BOCONON より: 2020/12/05(土) 2:45 PM

    僕は昔毎年夏になると安くはないアロハシャツを1枚買って,買っただけで満足してその辺に吊るしておく,と云ったような事をやっていた。
    で,そういう事をやっていると溜まってきて,イトコやら兄弟やら親戚のおばやらが「着ないならくれ」などと言い出すので僕は「1枚だけならいいよ」と言うのが常だった。彼/彼女らはオシャレでは全くない人たちだけど,これが見ていると「やっぱりそれを選ぶか…」というような一番良い色柄のものを選ぶのでした。
    ・・・という訳で,③について言えば,このようにお金が絡まなくてフラットに見るなら,別にオシャレじゃない人もそんなに変なものを選ぶことは少ないと思われる。逆に言えば「とにかく基本的に安いものしか買わない/買えない」では試着をしてもしないよりはまし,といった程度の話にしかならないと僕は正直思います。
    もう一つ,大部分のオシャレじゃない人は俗説や流行に惑わされがちで「横縞は太って見える」とか「生成り/ベージュのチノパンはオタクが穿くもの,ジーパンはおっさん爺さんが穿くもの」なんてつまらぬ事を信じ込んでいたりする。
    スーツもとおりすがりのおっさん氏が言うように,例えば肩幅が寸法から言えば同じでも僕みたいに下がり肩で胸板薄い人間といかり肩の人では合うものが違うのだ,といった問題もある。

    書いてきて思ったのだが,うーむ,こういう問題に解決策はあるのだろうか? たぶん僕みたいな奴の方がヘンなのだろうし・・・とまたも何の役にも立たない結論になりそうな気がしてきたな。だからもうやめます。妄説お笑いください。

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