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南充浩 オフィシャルブログ

試作反とサンプル縫製を省略することで「大量生産と在庫廃棄が回避できる」というロジックが意味不明

2020年11月24日 トレンド 1

アパレルというか、アパレルも含めた繊維業界の人は、だいたい流行り物ツールを導入すれば多くの問題点が瞬時に解決されると思っている。まあ、日本人全体がそういう浅はかな思考なのかもしれないが。

20年前なら、SPA化とクイックレスポンス(QR)対応である。これをやればバブル崩壊後の業績が低下が回復するかのような論調だった。

業界紙記者の会見での質問は判で押したかのように「御社のSPA化比率とQR対応は?」という質問ばかりだった。しかし、20年後の結果は今の体たらくである。

2015年ごろだとネット通販である。ネット通販をやりさえすれば必ず売れるかのような論調がまかり通っていたが、現実はそうではない。売れるブランドもあれば売れないブランドもある。当たり前である。

さらに2015年以降では、ネット通販の売上比率が高ければ高いほど良いとされ、けっこうな著名コンサルまでが煽りに煽っており、業界には相手企業の事情や顧客ターゲットなどを全く考慮せずに、一律で「EC化率50%を目指しましょう」と口走るコンサルが跋扈している。

しかし、EC化率が高くなくとも、儲かっていれば問題ないし、商材や顧客ターゲットによってはEC化率が高まりにくいブランドもある。EC化率の高低に正解はない。

 

それと同じことがDXである。デラックスなのかと思ったら、デジタルトランスフォーメーションの略だそうだがデラックスと同じなのでややこしい。

これさえできれば過剰生産や商品廃棄がなくなるという論調まである。そんな万能の膏薬みたいなものは存在しないのに。

例えばこの記事。

 

「商社OEM・ODMで進展するデジタル化 “DX元年”の様相」

https://senken.co.jp/posts/theview-tradingcompany-dx

 

情報伝達や製品の試作にデジタル技術を用いて効率化を図るという意図は理解できる。例えば、Eメールやメッセンジャーの発達で音声通話以外での意思疎通法が増え、それによって通話できない状況でもある程度意見交換が進められるようになり、効率化が進んだ。

 

だが、この記事のキモとなる部分はちょっと理解に苦しむ。

 

三菱商事ファッションは4月にデジタル事業推進本部を新設、7月にアパレルの製販全体の変革を促す「3D・CGデジタルスキーム」を打ち出した。これはCAD(コンピューターによる設計)を起点に、試作反やサンプル縫製を不要とするスキーム。アパレルのオンラインビジネスに適応する生産手法で、ECではCG画像処理を利用した先行受注が可能になる。大量の生産や在庫、廃棄を回避するサステイナブル(持続可能)な物作りにも貢献する取り組みだ。

 

 

三菱商事ファッションがデジタル化を進めるという事実は理解できる。デジタルを駆使して色・柄や形を画像にしてサンプル製作の前に表示するという技術はすでに何年も前からあった。今回はこれの延長線上ではないかと思う。

しかし、問題は赤字の部分である。

パソコンの画面で映像化しただけでどうして試作反やサンプル縫製が不要になるのだろうか。

まったく意味不明である。

 

画像は画像であり実物ではない。フォートナイトとかそういうゲーム内のキャラクターに着せる服ならそれで完成だが、実物の商品にするためには試作反は不可欠だし、サンプル縫製も不可欠である。

もちろん、記事というのは字数制限があるため、すべての情報を網羅できないから、この記事も字数制限でこういうまとめ方になってしまったという可能性はある。

しかし、それでもこのまとめ方はいただけない。

 

なぜなら、洋服のためにオリジナルの生地を製造する場合、必ず試作反を作ることが欠かせない。生地作りというのは実際の糸の状態、織機の回転数、力加減、すべてを調整が必要で、最初から一発で生地が出来上がることなどない。ましてや画像に出てきた生地通りの物が一発では出来上がらない。

またサンプル縫製も同様で、画像があるからサンプルは要らないとはならない。かならずサンプルが必要で設計図通りに出来上がったとしても実際に一度着用してみると、ポケットがもう少し大きい方がいいとか、ポケットが浅すぎるとか、さまざまな問題が出てくる。それを修正して完全な商品とすることができる。

画像で出来上がったからといって、何もかもそれでオッケーではない。まさしく「画に描いた餅」ならぬ「画に描いた服」でしかない。

 

で、仮にこの記事の通りに、試作反とサンプル製作が不要になったとして、それがどうして「大量の生産や在庫廃棄の回避につながる」のか全く文章としてつながっていない。

試作反にせよ、サンプルにせよ製造する数量は本番の商品が売れ残った在庫に比べてはるかに少ない。

試作反やサンプル製作が省略できたところでどうして「大量生産や在庫廃棄が回避できる」のか、ロジックとしては全く成り立たない。

 

過剰生産や大量の売れ残り在庫を回避する方法は、試作反とサンプル縫製を省略することではないし、これを省略したところで、状況は変わらない。

これらを回避するのは、マーチャンダイザーの分析とデータ解析の精度を高めて、自社・自ブランドで確実に売れる商品を企画し、売り切れる数量を弾き出して生産することしかない。

 

こういう「魔法の杖の登場」みたいな記事はかえって業界をミスリードさせるだけである。

 

 

DX超合金魂コンバトラーVをどうぞ~

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2020/11/24(火) 2:01 PM

    コンバトラーVかっけ~!
    って、ホント、ものづくりの素人はCAD/CAM(コンピュータ支援設計/コンピュータ支援製造)とか使えば、ボタン一つでモノが出てくると本気で思ってるから怖いっす。
    CADなんてお絵かきするのを助けてくれるだけで(3DCADとかだと大分違うけどw)、CAD使ったからって出来上がるものには差が出るわけじゃないんですけどねぇ。潰れかけのうちの金属加工工場じゃ、作業員ごとに加工プログラムもバラバラで、確固に独自にやりやすいやり方で造ってるのに、現場を全然知らないアホな社長はそこを統一することもせず「CAD/CAMでプログラムを自動で作って効率化する!」なんて言いはじめて500万くらいのソフト買ってましたが、結局作業員は殆ど使わず宝の持ち腐れになりました。私は、最初から無理だから止めとけと言ってたんですが、経営者ってのは変なコンサルタントの話は鵜呑みにするのに、下っ端従業員の話は聞かないんですよねぇw
    ちょっと前には、自分の会社の存続が危ういのに「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の重要性が叫ばれている」なんて話を始めてて呆れました。いやいや、お前の会社が潰れそうじゃんかよ、とw
    世の中のダメ企業のシャッチョさんはどの業界も、なんで横文字とか流行りモノに弱いんでしょうねぇw

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