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南充浩 オフィシャルブログ

物性のクオリティが低下したのは低価格ブランドではなく、百貨店やファッションビル向けの中価格帯ブランド

2020年11月18日 お買い得品 2

当方は基本的に「昔は良かった論」は嫌いである。

というか、いつの時代も「昔は良かった」と言われてきたのだから、最も良かった時代は原始時代くらいなのではないかと思ってしまう。

最近のファストファッションは10年前・20年前と比べてクオリティが落ちている

という謎の言説がSNSで出回っていたが、これは若い人特有の当時のことを詳しく知らないゆえの思い違いに過ぎないだろう。

低価格衣料品の物性のクオリティ自体は変わっていない。

たしかに2011年の綿花高騰のあおりを受けて、2013年頃までユニクロも含めて綿花の使用量が減った。要するに綿100%の場合は生地が薄くなった。生地の厚さが変わらない場合は、ポリエステルが何10%か混ざるようになった。という事態はあった。

しかし、2015年以降は綿花相場も落ち着き、そうではなくなった。

縫製や使用生地に関してはあまり変わっていない。

ウールやダウンの高騰で、ウールやダウンの使用量が2015年以降減っているということはあるが、それ以外はさほど変わっていない。

 

逆に、50歳になる当方からすると、最近の低価格ブランドの服は、見た目が随分とマシになっていると感じる。服自体のデザイン、色・柄、シルエットそのどれもが中価格帯のブランドと見比べて大きな差が見つけられないことが増えた。

当方は、安物衣料で育ってきた。もうかれこれ40年近くは安物衣料で暮らしている。

 

子供時代から大学を卒業するまでは、母親が買って来たイズミヤ、ジャスコの平場の1900円くらいの服で過ごしていた。

関西には40年前、イトーヨーカドーはほとんどなかったし、イオンの社名はジャスコだった。

西成に本部を何故か置き続けるイズミヤというローカルスーパーが当時は今以上に愛好されていた。そんな時代である。

以前にも書いたことがあるが、そんな当方がなぜか低価格チェーン店の販売員として就職が決まってしまった。その会社のメイン商材はレディースなので、仕事用の服を自社で買うというわけにはいかない。

そこで、ファッション雑誌を初めて購入しながら、それをもとに入社前に何枚か洋服を買うことにしたが、はっきり言って、ファッション雑誌に掲載されている洋服は高い。激高い。5万円以上が普通。10万円とか20万円も珍しくない。おまけに93年当時、ユニクロは片田舎の安物ローカルチェーンで商品自体もダサかったし、ジーユーは存在しない。だから「低価格着回しコーナー」なんてファッション雑誌にはなかった。

うーん。こんな激高い服はとても買えないぞ

と思い、イズミヤやジャスコ、はるやま、青山あたりをまわることにした。

実際のところ5万円くらいの服なら1枚くらいは買えたが、当方は1枚を買いたいのではなく、5万円で1週間着られる枚数が買いたいのである。

今なら、ユニクロとジーユーとアダストリアとライトオンあたりを廻っていれば、5万円もあれば、1週間分のコーディネイトは軽く買える。

 

しかし、当時のイズミヤやジャスコ、はるやま、青山にはファッション雑誌で見たような服は置いていない。よく見てみれば、ファッション雑誌に掲載されている商品を意識したかもしれない洋服はあった。

だが、試着してみると、それは雑誌とはまったく違う。もちろん、当方が雑誌のモデルに遠く及ばないカッコ悪さということもあるだろうが、商品自体の情報ソースは同じだろうが、そのデザイン、色・柄、シルエットが全く異なった。

この当時、安物は代替品にはならなかった。

 

ほんの10年前までユニクロの商品の色のトーンが変だと言われ続けていたことを覚えている方はいるだろうか?中高年の皆さんは昨日のことのように覚えているだろう。若い人はこれを機にそういう過去があったことを覚えていてほしい。

2010年代前半までユニクロの商品の色合いはおかしかった。黒とか紺というベーシックな濃色は別として、アクセントとなるビビッドなピンクやパープルは明らかに他のブランドと色の色調が異なっていた。

そのため、ユニクロトーンと揶揄された。

90年代前半から2000年頃まではスーパーマーケットに並ぶ衣料品の多くは、ユニクロトーンみたいな感じで「明らかに何かがおかしかった」ため、ファッションビルや百貨店に並ぶブランドの代替品としては到底使えなかった。

それが今、ユニクロトーンさえもなくなり、代替品として使えるようになったのだから、長足の進歩だといえる。

 

その一方で、たしかに昔の方が質が良かったといえるのは、ファッションビルや百貨店に並ぶ中価格帯ブランドである。

ある製造業者も「2005年以降の生地のクオリティは如実に下がった」というが、それはこの価格帯を指してのことである。

 

コートでいうと3万~5万円くらい、スーツでいうと5万円前後、この辺りの各ブランドのクオリティ、特にウール生地のクオリティは抜群に高かった。

恐らく、同じクオリティの生地を使えば今なら、コートで確実に5万円以上、スーツだと8万円くらいになるのではないかと思う。

 

2000年頃、すでに業界紙記者だった当方は、さすがにイズミヤやジャスコの平場で服を買うことはなくなり、ファッションビルや百貨店のバーゲンで服を買っていた。(定価では高くて買えなかった)

2000年頃に買ったタケオキクチのフェルトジャケット(定価39000円を4割引きで購入)、メンズビギのウールダブルフェイスフードコート(定価39000円を半額で購入)、2002年か2003年に買ったボナジョルナータの赤いウールPコート(定価2万数千円を7000円で購入)は驚くほど生地のクオリティが高かった。

ボナジョルナータの赤いウールPコート

 

タケオキクチのメルトン切りっぱなしジャケット

 

 

 

 

メンズビギのダブルフェイスコートは、あまりにビッグシルエットがおかしかった(ピチピチ全盛時代)ので、もう捨ててしまったが、生地だけを考えるともったいないことをした。

タケオキクチのフェルトジャケットとボナジョルナータの赤いPコートは今もときどき着ている。

 

で、話を戻すと、20年前、15年前と比べて明らかにクオリティが下がったのは低価格ゾーンではなく、ファッションビルや百貨店に並んでいるこのゾーンなのである。

39000円という価格を維持しようとすると、素材や縫製のクオリティを落とさざるを得なく、クオリティを維持しようとすると販売価格を上げざるを得ないという事態に陥って久しい。

それが百貨店やファッションビルの苦戦、ひいてはそこを主要販路としていたオンワードやワールド、TSI、三陽商会の不振につながっているといえる。

 

逆に今のユニクロ製品が、80年代後半や90年代前半のイズミヤやジャスコの平場に並んでいたら、もっと飛ぶように売れたと思う。

そんなわけで、当方としては1900円くらいで容易に代替品が見つかるようになった現在という時代は非常にありがたいことだと思っており、楽しく買い物をしており、特にそこに何の不足もない。

 

 

ボナジョルナータの今のタートルセーターをどうぞ~

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 comment
  • BOCONON より: 2020/11/18(水) 6:16 PM

    そうかなあ? 以前群ようこが「ユニクロの服着ていると猫がだっこさせてくれない。染料のせいかも知れない」なんて事を書いていた。その辺は詳らかでないけれど,正直僕もユニクロのアウターの色は(ものにもよるが)未だに概してヒジョーに安っぽいと思いますね。今年で言えば,ハイブリッドダウンジャケットやコート等。
    確かに仰言る通り,生地や縫製等全体としてはユニクロの製品の質は昔より上がっているし,ドレスシャツなどは百貨店に置いてあっても不思議じゃないレヴェルだとは僕も思いますが。
    一方百貨店だと素人のパッと見だけならそうそうヒドい感じの服はあまり見ない気がする。たとえバブァーのパチモンみたいなジャケットでも。
    この秋のユニクロで売っていたバブァー風ジャケットなんてもうびっくりするくらい安っぽかった。僕は「MBクンはなんでこんなものをオススメしているのやら。実際大量に売れ残ってるしw」と思った事でありました。

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/11/10(木) 8:01 PM

    色味がいちばん観察する対象として興味深いです

    化繊の服が急速に出回りだしたでしょう?

    同時に色調が本当に多彩になりました

    ノースフェイスが昔からつかっていた赤・黄色も
    20年前の色とは当然違います

    変えた理由はもちろんユニクロ

    ユニクロがフリースマーケットを潰したでしょう?

    あれに凝りて、各社色味の研究をやるようになった
    そしてそれに対抗するユニクロで
    2010年以降、化繊の服の色合いがグッと良くなりました

    思いのほか、今後は混紡系が主流になるかも

    色だしを考えるとムラが出たほうがおもしろいですから

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