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南充浩 オフィシャルブログ

「小ロット」と言われる国内工場を維持するにも「大量生産」は必要不可欠という話

2020年11月17日 製造加工業 0

縫製関係者には有名な話だが、国内の縫製工場は年内いっぱいは医療用ガウンの縫製でそこそこに生産ラインが回っている。

しかし、年内で終了することは元からそういう計画だったので、年明けからは各縫製工場は新たな仕事を作らねばならない。

自分でも経験があるが、「来月の仕事がない」という状況になったことは過去に何度もある。そんなときに直前になって慌ててもそんなに簡単に仕事はやってこない。

やっぱり最低でも3カ月くらい前から活動をしておく必要がある。

意識の高い(いい意味で)縫製工場、生き残りたい縫製工場は、すでに半年前、1年前から次の仕事を模索している。

 

むろん、これを機に廃業してしまおうという縫製工場もあるだろう。オーナーがある程度の年齢に達していれば、医療用ガウンの納品が終わった時点で廃業するという選択肢もありだ。

当方だって、70歳に達していれば大して儲かりそうもない仕事ならやめてしまうだろう。

 

一方、国内生地工場は概して受注が低調である。

これも当たり前の話だが、医療用ガウンに仕える生地は限られているから、それ以外の生地を得意とする工場には注文は来ない。

また、店頭では2019年の水準にまで洋服の売れ行きは押しなべて回復していないのだから、来年用、来シーズン用の生地受注がないのは当然だといえる。(ユニクロなどの例外は一部にある)

 

当方は、製造加工業ではないし他人事なので、それぞれ生き残りたい工場は工夫を凝らしてがんばってもらいたいということしかない。

是が非でも残さねばならないとも思わないし、是が非でも淘汰させねばならないとも思わない。オーナーがやりたいようにやって、それで最低水準の利潤があげられて日常生活が続けられるのが一番良いのではないかと思っている。

70歳、75歳を超えたオーナーに金銭的余力があるなら廃業するのも当然だろうと思う。

 

ただ証明できる事実は、国内縫製工場、国内生地工場が生き残るためにはある程度の大量生産は必要不可欠だということである。

縫製工場、生地工場ともに国内は海外に比べて圧倒的に工場規模が小さく、生産数量も小さいのが事実だが、それでも例えば、国内縫製工場は2019年までは年間9000万枚くらいは生産していた。

FISPA便り「輸入浸透率97.7%に上昇」

一方で国内生産は2018年もさらに減少しています。実数は9568万2000点で、前年に比べ、2.8%減少しました。国内生産の1億枚割れは2017年のことです。2年連続して1億点を割り込んでいます。

 

とのことである。

 

このブログでは何度も書いているが、「洋服の大量生産」と「洋服の過剰生産」は区別して考える必要がある。

大量生産は決して悪ではなく、大量生産のシステムで工場が成り立っているのだから、国内工場を存続させるには大量生産が必要になる。

洋服の縫製枚数で言うなら、2019年までの水準で国内縫製工場を維持するなら、最低でも9000万枚の生産量が必要だということである。

 

最近は続報を聞かないので、現状どうなったのかわからないが、某国内生地産地に3年くらい前にグローバルSPA企業から大口の生地注文が舞い込んだ。その当時、4万メートルの受注があり、翌年は40万メートルになる計画だった。2019年の現状は耳に入ってこないので、この受注が現在も継続しているのかどうかはわからないが、国内産地関係者は、この数量でようやっと産地全体がある程度回るようになると語っていた。

生地工場というと、川下の人は「鶴の恩返し」みたいな家内制手工業や手作業みたいなものを想像しがちだが、少ロット生産と呼ばれるようになった国内生地産地ですら、4万メートルとか40万メートルという受注がなければ、工場はまともに操業できないというのが現実である。

 

生地の1反は50メートルだから、4万メートルだと何反の生地ができるかお分かりだろうか?

800反である。40万メートルなら8000反。

これくらいの受注がないと産地全体は回らない。

 

極小ロットでやっている零細ブランドは2反潰すことさえ必死だというが、その観点で「大量生産は悪」ということを語ってもまったく無意味だし、無意味どころか害悪ですらある。

縫製にしたところで、2反から作られる洋服は30~50枚程度である。国内縫製工場のミニマムロットをギリギリクリアできるかどうかという程度で、こんなブランドばかりなら国内縫製工場の多くは倒産してしまう。

 

大量生産否定論者はSNSの発達によって、目立つようになった気がするが、そういう論者の多くは「国内工場を守れ」とか「バングラデシュの繊維雇用を守れ」と唱えている。しかし、大量生産を否定しながら国内工場は守れないし、バングラデシュ人の雇用も守れない。

国内縫製工場の置かれている環境は決して良くないが、その「良くない環境」を維持するにしたって9000万枚の生産量は必要だということであり、逆に国内縫製工場の置かれている環境をよくするためには、最低でも1億枚とか1億5000万枚の生産量が必要になるということである。

どうだろうか、9000万枚にしろ1億5000万枚にしろ立派な大量生産であり、これに使われる生地の量は、用尺を平均2メートルと仮定して大雑把に計算しても2億メートルから3億メートル必要になる。

2反も潰せず、50枚以上の縫製オーダーもできないような、零細ブランドが「守る」ことができるレベルではないことは明らかである。

 

問題は、売れる数量の見込みを甘く見積もり、かなり多めに発注するという「過剰生産」がこれまで多かったことであり、生産ラインを維持するための最低限の大量生産までを否定していては、イシキタカイ系が「守りたい」と言っている国内外の雇用やモノヅクリですら守ることができないのが現実であり事実である。今後は感情ではなく事実と現実に立脚した議論を切に望みたい。

 

 

 

医療用ガウンをどうぞ~

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